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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第20回『失敗の分析? 過去を振り返っても暗くなるだけじゃないか!』(その1)  (2019-9-17)

2019.09.17

 
センチメンタル・ジャーニーのヒットで懐かしい記憶がよみがえる、アメリカの歌手で俳優のドリス・ディさんが本年5月13日に亡くなりました。 
ドリス・ディさんの歌曲と言えばケ・セラ・セラを思い浮かべる方もおられると思います。 
未来のことはわからない、Que Sera Sera(Whatever Will Be Will Be:なるようになる)と言う達観した人生観が際立っています。この歌からの授かり物か、ドリス・ディさんは97歳の長寿を全うしました。 
未来はわからず、なるようになる! だから過去の失敗を振り返っても役に立たない、しかも暗くなるばかりというのは真理でしょうか? 
 
これからのテーマは、「失敗の分析? 過去を振り返っても暗くなるだけじゃないか!」について2回にわたり思い巡らします。 
 
昨今のテレビニュースでは、様々な形の不祥事の責任を問われた経営層が深々と頭を下げる姿が映し出されています。このような事態が我が身に降りかかり、失敗を厳しく問われて辛い立場に置かれれば、過去を忘れたくなる心情を察せられなくもありません。 
 
しかし、これで済まして大丈夫ですか? 
このまま失敗を放っていると、前車の車輪跡にはまり込んで後車が転倒してしまう「轍を踏む」ことになりそうです。広辞苑では「轍を踏む」を「先例をくり返す。また、前人の陥ったと同じ失敗を後人がする。」と説明しています。 
 
人間は失敗する生き物と言われます。誰でも間違えたり、ミスしたり、エラーしたり、失敗してしまうのは必然と見なすのが妥当なようです。 
では、どのように振舞うべきかに思いを致すと、失敗を貴重な経験と捉え、経験から何かを学ぶほうが賢明という考えに行き着きます。失敗などの経験を糧に深めた知恵を活かしてきたことが、人間が霊長類として今日まで生き永らえたキーと思えます。 
 
日本科学技術連盟の品質管理セミナー・ベーシックコースで、「品質管理は、事実・データで経験を次の仕事に活かすこと」と教示されました。これは、同じ原因で2度と失敗しないように原因を除去して再発防止するという、品質管理が重視する思考の一つです。 
 
では、この思考を実務でどのように実践したらよいかが悩ましいところです。 
要は、失敗を人の責任に負わせるのではなく、失敗を起こしたプロセスに着目することが眼目となります。 
 
仕事中にミスし、所期のねらいと異なる結果になり、失敗してしまったとしましょう。 
ここで、誰かが失敗の責任をとって形式的に事態を収束する方向ではなく、仕事の結果を生んだプロセスの良し悪しを深く掘り下げる方向に焦点を合わせます。 
 
失敗したら、次のa~eを念頭に置いて行動することが役立ちます。 
 
a 先ず、ねらいどおりの結果を得るためのプロセスが決められていたか、決められていなかったかを調べます。プロセスは、文書化された標準として規定されている場合や、文書化されていない慣例などの場合もあります。 
 
b プロセスが決められていなかった場合は、失敗した原因を三現主義で調査・分析し、副作用を考慮したうえで再発を防止するプロセスを標準として制定し、教育訓練します。 
 
c 一方、プロセスが決められていた場合は、このプロセスを順守したか、しなかったかを調べます。 
 
d 順守しなかった場合は、その理由を確かめプロセスの周知・教育訓練・エラープルーフ化などの対策を検討して講じます。 
 
e 順守した場合は、既存プロセスが良くなくて失敗したわけなので、再発を防止できるプロセスに改善し、教育訓練します。一般的には既標準を改訂します。 
 
この行動は、日常管理において検出した異常に対処するためのアプローチと符合します。 
JIS Q 9026:2016(マネジメントシステムのパフォーマンス改善-日常管理の指針)は、異常が発生したときの「標準に基づく原因追究のフロー」の実践を推奨しています。 
 
このJIS規格では、異常の根本原因を追究するために、原因追究のフローに従って異常を区分し、どの区分が多いかを明らかにしたうえで当該区分に焦点を絞り、根本原因をさらに掘り下げることを勧めています。例として、標準がなかったことが多い場合にはなぜ標準を定めていなかったのか、標準を知らなかったことが多い場合にはなぜ周知されていなかったのか、うっかり間違えたことが多い場合にはなぜエラープルーフ化がされていなかったのかを追究することがよいとしています。 
 
新幹線のぞみの運転本数を来春に毎時12本にまで増やす計画をJR東海が発表しました(本年4月18日)。このため、秒単位で業務時間を短縮するダイヤ見直しが行われているようです。 
ところが、8月21日に時速280キロで走行中の東北新幹線のドアが開く事故がありました。 
清掃員が次の作業を考えていて無意識に(手順にない)ドアコックを開けてしまい、閉め忘れたのだそうです。念を入れたはずの安全面でもミスは起きてしまいます。 
ドア近くに人がおらず大事に至らなかったのが不幸中の幸いと言わざるを得ません。 
失敗をそのまま放置していては、同じ失敗を繰り返す恐れがあります。 
国土交通省は即日に原因追究と再発防止を指示し、JR東日本はハード・ソフト両面での対策を検討して再発防止に努めることを表明しました。 
 
経験を活かし労働安全に寄与した身近な事例を紹介します。ある事業所の避難訓練時に従業員が非常階段で衝突しました。聞き取りや実地調査を行ったところ使用頻度の少ない階段で昇降標準がないことがわかり、右側通行などを標準化し、標準順守を確認しました。 
一方、標準を守っていた従業員が階段で滑ったケースがあり調べると、手摺のない下り階段で滑ったときに体を支えにくいことがわかりました。そこで、階段両側に手摺を設け、手摺を握って上り下りする標準に改訂しました。
この事例は他事業所へも水平展開され、未然防止に役立ったそうです。同じ原因で失敗を繰り返さないように経験を活かしていくことが、安心して働ける職場環境作りに貢献しました。 
 
経験をうまく活かした明るいニュースが本年8月4日にもたらされました。 
若干20歳の渋野日向子さんが、海外メジャー今季最終戦のゴルフ全英女子オープンで優勝しました。1977年に全米女子プロ選手権を制した樋口久子さん以来、実に42年ぶりの快挙だそうです。 
海外でもスマイリング・シンデレラを愛称に、高好感度をもって栄誉を称えられました。 
渋野さんは、以前のプレーで怒りやイライラを顔に出すとボギーにつながると気づき、どんなときにも笑顔を絶やさないように心がけたとのことです。 
失敗の経験を成功の糧として次のプレーに活かすことが、過ちを繰り返さない秘訣と悟った知恵が好結果を引き寄せた観があります。 
 
今回のメールマガジンは、人間である以上失敗することは避けがたいとしても、失敗を貴重な経験と捉えて同じ失敗を繰り返さないことの大切さをお話ししました。 
 
次回のメールマガジンは、失敗を見据えて再発防止・未然防止にどうつなげていくかに話題を進めようと思います。 
 
 
(村川賢司) 

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