TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第18回『標準化・文書化ばかりやってると,マニュアル人間ができて本当に困るよ』(その1) (2019-9-3)
2019.09.03
最近は、組織はもちろん、社会でも標準化の目的や狙いについて、理解が進んでいます。
現実的にも、標準化の機能の一つである「統一」による共通の価値観が得られる恩恵は、意識することなく、日常的に、また各方面で数えきれないほど生活に密着して浸透しています。これなくしては生活できない状況でしょう。例えば、ハード面:“ネジ、プラグ、電球”、ソフト面:“パソコンにおける基本OS、インターネットの接続”、人間の行動面:“信号機:赤、青、黄”、“組織等におけるマニュアル、指針、ガイド”など当たり前のようになっています。
その一方でよく言われているように標準化を進めれば“画一的なマニュアル人間・行動パターン化、ルール絶対主義で決められたことしかやらない、自主的な発想を阻害し創造性の敵、自由の束縛など”マイナス面の声を聴くこともあります。
また、標準化は成長過程にある組織体、社会では、大変大きな効果を発揮するが、より多様化が進んだ成熟した社会に対しては? との議論も耳にします。
これらの声は、標準、標準化の狙い、目的などを含め、その本質を十分理解したうえでしょうか、もちろん標準化もしかり、何事もプラスとマイナスの側面を持っており、この両者の本質を理解して両側面に目を向けた考え方を持ち、適用することが重要でしょう。
このような状況のもと、ここでは、二回に渡って、標準、標準化についての考察を行います。一回面では標準、標準化の目的、結果として得られる効果などを中心に、そして後半の二回目では、現状の成熟した社会、各種ニーズの多様化など一層の変化の時代おける標準化への対応の在り方について考察します。
■標準化の目的と効果
JIS Z 8002:2006(標準化及び関連活動−一般的な用語)の「標準化」によれば、
“実在の問題又は起こる可能性がある問題に関して,与えられた状況において最適な秩序を得ることを目的として,共通に,かつ,繰り返して使用するための記述事項を確立する活動” としています。
また、(注)として、“ ・この活動は,特に規格を作成し,発行し,実施する過程からなる。・標準化がもたらす重要な利益は,製品,プロセス及びサービスが意図した目的に適するように改善されること,貿易上の障害が取り払われること,及び技術協力が促進されることである”と規定しています。
標準、標準化を考えるにあたっては、大きく2つの側面があると思います。
◇決めなければならない標準 (基準点、互換性と統一)
第一の側面は、国際標準、国家標準、業界標準等で多く見られる言わば「決めなければならない標準」です。その目的は、統一による混乱の回避です。この標準化の側面は、利益又は利便を得られるような標準を制定し、「統一」或いは「単純化」を行い、それを適用することにより利益或いは利便を普遍的に具現化することにあります。 統一性の観点から物事の共通基準を定め出発点とすることと言えます。
例えば、身近なところで言えば、交通の右側通行・左側通行は、原理的にはどちらでもよいと思いますが、とにかくどちらかに決めておく必要があります。さもないと正面衝突が頻発します。
国際、地域、国家など複数の当事者が関連する標準化では、多くの場合、統一することに主眼を置いています。統一することで「互換性」が確保され、ネジ、プラグ、電球のようにどこでも使えるようになります。何気なく使っている携帯電話も標準化をベースにしています。標準化により通信方式が「統一」されているから通信が可能となり、基本OSが統一されているから各種ソフトがどの端末でも機能できています。
私たちは日常ほとんど意識することなく標準化の機能の一つであるこの「統一」の恩恵を受けています。
◇決めた方がよい標準 (経験の活用、単純化、効率化)
第二の側面は、社内標準に代表される、知識の再利用、経験(ベストプラクティス)の有効活用、反復繰り返しに基づく業務効率化、計画の簡略化などのための言わば「決めた方がよい標準」です。
この「決めた方がよい」とは、その通りに実施すると効果的、効率的であるため「効果的、効率的にするために役立つことは、約束事として決める」と言う意味です。
標準は、「すでに経験して良いということが分かっているモノや方法」であり、過去の知識、経験、ベストプラクティスを再利用できるように形式化したものです。
経験をして良い結果が得られることが分かっていることを標準に定め、それに従うから、当然のことながら質と効率に関して良い結果が得られます。
マイナス面が一部強調されている業務マニュアル化は、上記「約束事、形式化」そのものです。作業に必要な手順、判断基準などを的確・確実に伝達し、繰り返し行われる業務の均一化を図ることにより、結果として人、モノ、時間の集中投入でき効率的な運用を可能にします。
「決めた方がよい標準」では、互換性の確保に加え単純化が重要な意味を持ちます。
社内標準による統一・単純化によって、組織は、スムースな思考・情報伝達、共通認識、信頼性・安全性の向上、改善の促進などの利便を得ます。組織内における標準化は、単純化によりこれらの利便を具現化し、大量生産、効率向上、原価低減、品質向上を可能とするために行われます。
また、標準、標準化において重要な別の側面は、常に組織の状況は変化しており、変化への対応を常に見直し、形骸化、陳腐化しないような標準化の枠組みと運用がキーとなります。
標準は、その時点のベストプラクティスを形式化したもので総合的に考慮された結果ですが、完全ではありません。決めたことに画一的に固執するのではなく、問題があることが明らかになった時は、標準を改訂し、関係者に連絡し、それに従った実施を確認する必要があります。これらを完全に行うことで初めて、標準化がその機能を発揮します。個人の判断による標準からの逸脱は、決して許されるものではありません、標準は守るものです。
以上のように、世の中の事象、物事はそのまま放置すれば、多様化、複雑化、無秩序による混沌状態になるため、これらを合理的に抑えて秩序化、抽象化、単純化して共通の出発点となる「取り決め」を定め、それに基づき活動することが標準化と言えるでしょう。
■標準化と品質改善、創造性の側面
標準化に関連して少し前までは、“画一的なマニュアル人間、ルール絶対主義、創造性の敵など”批判的な議論も多く見られましたが、これらは、真の意味を理解したうえでのものではないと思われます。
日本の品質管理では、標準化と、P・D・C・Aがセットになっており、継続的な改善が組み込まれています。
改善は、思いつきによる変更、対策では実現できません。現状の不備等を明確にして、その原因系に目を向けた体系的な処置が必要となります。
ここで重要なのは、“置かれている不備等の現状を明確にすること”であり、これが曖昧であれば、正しい改善処置にはつながりません。また、原因系に目を向けるとは、業務の目的達成に影響を与える現状の方法、材料、機器、装置、人の能力などの要因に注目し、これらの現在の状態及び各々の相互関係を明確にし、目的達成との関連を分析することです。要因の現在の状況とは、まさに実施、管理状態などの現状であり、標準化の状況そのものです。標準化は、整理された現状を示す言わば改善や改革の出発点であり改善の基盤となります。
更に、標準化は改善の基礎のみならず、改善や改革における創造性の基盤にもなりえます。混沌からの創造性は偶然でしかありません。過去の情報、知識、経験やベストプラクティスの有効利用に基づく標準化による整理された状況は、次への創造活動の出発点を示すことになります。これにより、重要な発展性のあるニーズや新たな必要性の発見のための的を絞ることが出来ると共に、結果としてそれに当てる資源と能力の集中を可能にするからです。
以上、第一回目として“標準、標準化の狙い、目的、得られる効果など”の基本的な面について考察しました。
第二回目では、色々なものの多様化、複雑化など変化の激しい現状の社会における標準、標準化の考え方、在り方につき少し考察したいと思います。
(小原愼一郎)