TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第17回『1回,2回と言わず,PDCAをとにかくジャンジャン回せ!』(その2) (2019-8-27)
2019.08.27
前回、「PDCAサイクルとは、〝計画を立て、実施し、確認し、必要な処置をとる〟という当たり前の考え方を述べただけのものではなく、確かなマネジメントのための基本的な方法論を明らかにするもの」であるという立場から、PDCAの各々の活動をP1~A2の二つに分解する飯塚先生の解説(超ISO企業研究会のメルマガ第二弾「基礎から学ぶQMSの本質」の第9回と10回)をご紹介しました。
PDCAサイクルを回すとは
このメルマガは超ISO企業研究会ホームページで閲覧できますので、詳細については飯塚先生の解説を直接確認いただく方がよいと思います。そのことを前提に概略を示すなら、PDCAサイクルとは単に
「計画たて(Plan)」、「それを実施し(Do)」、「進捗状況を確認し(Check)」、「達成できていなければ必要な処置をとる(Act)」という当たり前のことではなく
Plan:「目標を明確にする(P1)とともに、どうやってそれを達成するのかを計画(P2)し」
Do:「達成のために必要な準備(D1)をして、計画通りに実施(D2)し」
Check:「結果の確認だけでなく、計画通りに実施されているか(C1)、意図していない副作用が発生していないか(C2)を確認して」
Act:「計画との乖離を解消する応急処置、発生している悪影響の拡大を防止するための処置(A1)をとると共に、乖離の原因を分析し再発防止や未然防止のための処置を行ってプロセスを改善(A2)すること」
ということを意味しています。
この内容を踏まえて、PDCAサイクルを回すために留意すべきポイントについて考えてみます。以下、〝〟で示した文章は飯塚先生のメルマガから引用しています。
達成のための見通しが明らかにできているか
「計画(Plan)」段階で実施すべきことは、「目標を明らかにすること」(P1)だけでなく、〝目的を達成するために最適な方法、手段、手順を明らかにして、実施する人がその最適な方法を適用できるように〟すること(P2)です。
当然のことながら、そこには、前期の失敗や教訓から学んだ知恵(後述のA2を参照)が反映されていなければなりません。また、目標のレベルが前期から向上するならば、達成のための方法もレベルアップさせなければなりません。
達成のための最適な方法をどの程度まで・どのような形式で「カタチ」にするのかは、当該組織が達成すべき課題・メンバーの力量・組織が置かれた環境などによって異なります。熟練した担い手によって構成されているプロセスであれば、詳細な文書化された手順は必要ないかもしれません。但し、この間プロセスの担い手は急速に変化しています。新人比率の向上やプロセスの外部化によって、従来は暗黙知で事足りた手順・方法をカタチにする必要性が高まっていないでしょうか。
「どのようにして目的・目標を達成するのか」、これが計画されていなければ、D1(実施の準備・整備)の必要性も明らかになりません。そして、D2(実施)は「計画・指定・標準どおりの実施」ではなく、「実施は各自任せ」や「従来通りのやり方での実施」となります。さらに、C1(目標達成にかかわる状況確認)での点検内容が目標達成状況のみに矮小化され、仕事が決めた通り正しく進められているかを点検することができなくなります。ここにはマネジャーとして知恵を込め工夫をこらすべきポイントがあるのです。
実施を担うプロセスは作りこまれているか
「実施(Do)」においてマネジャーが為すべきことは、目標達成のために部下を駆り立てることではなく、〝P2(目的達成のための手段・方法の決定)に従って、設備・機器、作業環境を整備し、実施者の能力の確保など、実施の準備・整備を〟行い(D1)、P2で定めた方法どおりに実施することをサポートすることです。仮に「Do」の内容が、P2・D1を通じて改善されないなら、前期を上回る成果を達成する方法は、例えば「仕事が出来るメンバーにより多くの負荷をかける」などの方法しか残されていないでしょう。
職場の新人比率が高まる中で、一人ひとりが主体的に参加するためには、各自の目標の割り当て・明確化だけでなく、目的・目標の共有化(目標を腹に落とす)や、各々の力量に即した手順・方法の教育訓練などが重要になります。しかし、これらは簡単なことではありません。事業経営の現実は「Pのステップが完全に確立されてからDのステップに移行する」というような単純なものではないからです。「目標」の大枠がきまり、「達成のための計画」がある程度形になった時点ではすでに実施がスタートしており、計画の仕上げと共有、必要な手順書の作成や教育訓練は「走りながら実施」というのが普通の組織の姿でしょう。であるからこそ、マネジャーには、D1(実施の準備・整備)の重要性を踏まえて確実にスケジュールに落とし込み、必要な時間等の確保をすることが求められます。
適切な処置を可能にする確認の仕組みが確立されているか
「実施(Do)」の内容が、「計画通りの実施」であるなら、「確認(Check)」ではそのことが点検されなければなりません。「C1(目標達成にかかわる状況確認)」とは、単にその時点までの計画が達成できているか否かという結果の点検ではなく、P2で定めた方法の実施状況と有効性についての確認も含むものです。
その時点までの計画が達成できていないならば、必要な応急処置などを検討するとともに、再発防止処置・予防処置を実施するために状況をより詳しく調査することが必要になります。また、仮に全体としての計画は達成できていたとしても、D1で実施した教育訓練が不十分で手順が実践できないメンバーが放置されていたり、あるいは、そもそもP2で作成した手順書等に不達備があって実際は使用されて」いない(各自が「裏技」を実施している)などの状況があれば、問題はいつか顕在化します。これらについては、手順書の改善などなんらかの処置をとらなければなりません。
確認は、そのような調査・対応が実施出来るタイミングで、事実に基づいて、必要な情報が提供できるように実施される必要があります。確認する項目・頻度、実施時期や確認結果の活用方法などについて管理の仕組みとして確立することが必要です。但し、その際、確認作業が必要以上に重たい仕組みにならないよう留意が必要です。
応急処置は重要だがそれだけではない
Act(処置)で行うことは、第一に「応急処置、影響拡大防止(A1)」すなわち〝現在進行形の案件について、目標との乖離が認識されたら、修正や影響緩和処置など何らかの対応をとって、所期の目的を達成しようとするような、管理の直接的な目的達成行動〟です。言うまでもなく、マネジメントは目標達成のための活動であり、目標からの乖離に対して、「帳尻合わせ」ではなく適切な応急処置を迅速にとって、目標を達成させ、乖離から派生する悪影響を緩和することは、マネジメントにとって最優先に実施すべき課題です。
しかし、Actで行うことはそれだけではありません。第二に「再発防止、未然防止(A2)」すなわち〝二度と同様の問題が起きないように原因を除去し、将来に備えること〟です。〝結果は原因があって起こる〟のであり、〝同様の状況が将来起きたとき、その原因が除去されていれば、同じ原因での問題は起き〟ません。発生した問題の原因分析を通じて、次期の目標の妥当性の見直し(P1)、達成方法の見直し・改善(P2)、実施の準備の改善(D1、例えば設備の改善や教育訓練の見直しなど)、確認の項目・タイミングや方法の改善(C1、C2)など、PDCAサイクルの改善をすすめること重要です。
PDCAを回せばマネジメントレベルが向上する
PDCAサイクルとは、マネジメントのスパイラルアップを実現するための方法論でもあります。上記のようなPDCAを「1回,2回と言わず」回し続けることができれば、組織のマネジメントレベルは確実に向上し、より高い目標をより確実に達成することも可能になります。しかし、そのためには、PDCA各々の二重の要素が正しく確立され連動して機能しなければなりません。PDCAサイクルをマネジメントのルール・仕組みとしてしっかりと確立させるとともに、適切な運用経験を蓄積させることで、組織のマネジメントの中にPDCAを組み込むことが求められます。
そのようなPDCAサイクルを確立できている組織は、それほど多くはありません。自組織のPDCAサイクルを見直して、正しいPDCAサイクルを確立させることは、多くの組織にとって、いま取り組むべき重要課題ではないでしょうか。
【まとめ】
前回と今回のメルマガの内容をまとめますと,次のようになります.
①そもそもの目標や計画が良くなく,実施のための準備やその実施が不完全で,チェックもその後の対応もちぐはぐであれば,PDCAを回しても改善しないだけでなく,むしろ,このための活動に経営リソースを投下してリターンがゼロ(またはマイナス)になるので,結果として改悪になる.
②上記①を前提にしたうえで,PDCAには良い回し方がある.それは,とりわけA1(応急処置)とA2(再発防止・未然防止)の違いや意味・意義を理解することであり,要約すれば以下のようになる.
A1:応急処置
コトの進行に応じ、適時適切に状況を確認し、当面の目標を達成すするように、応急処置(不具合現象除去、影響拡大防止)を講じていく。このとき、適度にコマメに確認し処置をとっているような意味での「ジャンジャン回す」は大いに歓迎する。
A2:再発防止・未然防止
将来遭遇するであろう類似の状況において、現在より優れた目的達成行動となるような再発防止策・未然防止策を講じていく。このとき、発生原因、見逃し要因、問題拡大要因を、技術、マネジメント、ひと、組織文化の側面から分析し、結果として組織マネジメントのレベルを向上するような意味での「ジャンジャン回す」にしたい.
(土居栄三)