TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第14回『プロセスが大事だって? 世の中は「結果」がすべてだ!』(その1) (2019-7-29)
2019.07.29
「終わりよければすべてよし」は、17世紀初頭に著されたと推測されるウィリアム・シェイクスピアの戯曲にも表れる意味深長な言葉です。ちなみに英語では“All’s Well That Ends Well”と言い表せる昔からの有名なことわざのようです。
これからのテーマは、『プロセスが大事だって? 世の中は「結果」がすべてだ!』の真偽を2回にわたり思い巡らします。
参議院選挙が7月21日にありました。その結果に一喜一憂した方もおられるでしょう。衆議院議長も務めた大野伴睦(ばんぼく)氏は「サルは木から落ちてもサルだが、代議士は選挙に落ちればタダの人だ」という名言を残しました。
確かに結果は大切ですし、世の中も往々にして見えた結果に目を奪われがちです。
しかし、一歩立ち止まって考えた場合、結果が「すべて」という見方に何とも言えない違和感を覚えるのは私だけでしょうか?
選挙でも、立候補者の人となりや足跡を含めて、選挙結果に影響する様々な要因が複雑に絡み合い結果(当落)となって現れたと思えることも多分にあります。
このように結果は、期待を裏切らず良い場合や、意に反して良くない場合があります。
良い結果が得られたとしましょう。次はどうしますか。良くない結果が得られたとします。次はどうしますか?
再びエイヤッと突撃するのは、賢い方法とは言えないでしょう。
やはり、なぜだ?と考えるのが順当です。
スポーツ競技などいろいろな勝敗の場面で「勝ちっぷり(あるいは、負けっぷり)がよい」という言葉を耳にします。
この「っぷり(ぶり)」を広辞苑では「名詞や動詞連用形に付いて、形・姿・様子を表す。」と説明しています。「勝ちっぷり」を勝つ形、勝つ姿、勝つ様子とでも言い換えると、勝負の結果とともに勝ち負けに至るいきさつも見逃してはならないと喚起しているようです。
石川馨先生は、品質保証という観点において「品質は設計と工程で作りこめ、品質は検査により作られるものではない。」(※)と指導されました。
また、「『うちは全数検査をやっている』ということは、『うちの製品には不良品がはいっている』ということを保証しているようなものである。」(※)とも戒めておられます。
ある中堅企業で次のような経験をしました。
この企業の調達部門が行っている受入検査ではすべて合格となる材料を納入し、優良と思われていた仕入先がありました。
ところが、この仕入先を品質管理部門が監査したところ、中間工程や最終工程で識別された不適合品が目に付きました。
そこで、この仕入先からの材料受入時に納品を特別調査してデータをとりヒストグラムを書くと、規格限界のところで分布が不自然に切れていることを発見しました。再び仕入先に出向いて製造プロセスを観察したところ、不適合を手直ししたり、出荷時に全数検査を行ったりすることで、不適合を取り除いて出荷していることがわかりました。
このままでは仕入先の生産性が低く、両社の利益も圧迫することが予測されたため、仕入先と合同で工程能力を高めるための製造プロセスの改善に着手することになりました。
後日談ですが、協働活動により製造プロセスの結果に大きく影響すると判明した4M(Man、Machine、Material、Method)の作業標準などの見直しを行った結果、仕入先の工程能力が改善し、両社のWin-Win志向の強化にもつながりました。
私たちが日々行っている個々の仕事では、プロセスで品質を作りこむための行動がとられています。この行動には、良い結果を効率的に得るためには、要因系となるプロセスを良くしようという思考が根底にあります。
先ず、個々の仕事には必ず目的がありますから、これを明らかにします。
次に、この目的を実現するための仕事のやり方を取り決めます。端的に言えば、結果を生むプロセスを標準などの形で決めることになります。
そして、プロセスの結果として製品・サービスが生み出され、その結果が妥当であれば、次のプロセスへ引き渡されます。次のプロセスには、仕事の結果を引き継ぐ組織内の部門の場合もありますし、最終的には組織の顧客・使用者・利用者・社会などになります。
この考え方を拡張して品質保証に活かした特徴的な仕組みとして品質保証体系図が挙げられます。
品質保証体系図は一般的に、縦軸に製品・サービスが企画されて廃棄などに至るまでのすべての段階をとり、横軸に品質保証に関連する関係者(例えば、顧客、設計・製造・販売・品質管理などの部門、供給者・協力会社などパートナー)をとったうえで、どの段階でどの関係者が品質保証に関してどのような活動を行うのかの大綱を表したものです。
この図は、品質保証のための一連のプロセスを透明性をもって表し、品質保証を行ううえで必要となる固有の技術、この技術を活かすための管理技術などを体系的に品質保証にかかわっている関係者に伝承する重要な役割を担っている点も見逃せません。
石川先生は「検査に重点をおいた品質管理は、旧式な品質管理である。」(※)とまで極言されました。
仕事の結果のみを追うのではなく、仕事のやり方や仕組みなどプロセスに着目し、管理する(PDCAサイクルを回す)ことが、組織の発展と利害関係者の満足を促すことになります。
結果は原因に左右されます。これはこの宇宙を支配する法則です。
良い結果を得ようと思ったら、原因系に注目するのが賢い方法です。
これが、結果を生み出すプロセスに注目する理由です。
今回のメールマガジンでは、「結果を管理する」ことは不可欠であるもののこれのみに終始することなく、「結果でプロセスを管理する」、すなわち結果を生むプロセスを管理し、プロセスを良くすることによって良い結果を得ることの必要性について紐解きました。
次回は、「結果でプロセスを管理する」とはどのようなことかに思い巡らします。
(※)の出典:「人間石川馨と品質管理」、16.3(6)品質は工程で作り込め、石川馨先生生誕100年記念事業、日本科学技術連盟、2015、www.juse.jp/ishikawa/ningen
(村川賢司)