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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第12回『こんな忙しいときに,管理とか標準化なんて悠長なことを考えている暇はありませんよ.目の前の仕事・案件を早く片付けるのが優先でしょう?』(その1)  (2019-7-16)

2019.07.16

 
今回と次回のメルマガで取り上げる誤解は,『こんな忙しいときに,管理とか標準化なんて悠長なことを考えている暇はありませんよ.目の前の仕事・案件を早く片付けるのが優先でしょう?』です. 
 
■ある製造メーカA社の設計・開発部門長による発言  
 
数年前に,ある製造メーカA社とTQMの導入推進に関する共同研究をしているときの話です.経営トップがTQM導入宣言をした後,各部門長との面談を行いました.製造部門,購買部門,生産技術部門と続き,最後に設計・開発部門の長と話をしました. 
彼は最初からTQMの導入には懐疑的で,それは表情や態度ですぐに理解できました.彼自身も経営トップがやると決めた以上はやらなければならないことはわかっていましたが,それでも面談の最後に投げやり的に(?)言った言葉が,
 
『こんな忙しいときに,管理とか標準化なんて悠長なことを考えている暇はありませんよ.目の前の仕事・案件を早く片付けるのが優先でしょう?』 
 
でした. 
 
製造メーカA社に限らず,どの企業においても少なからずTQM導入の抵抗勢力はいるものです.そして,その理由のひとつとして挙げられることが多いのが上の誤解です. 
 
この誤解,一見して正しいようにも思えます.管理のためには業務や仕事の仕方,仕組みを構築しなければならず,標準化においても手順書,マニュアル等の業務文書の整備などが必要です.これらの活動は,今,目の前に溜まっている仕事や,納期が近づいている顧客案件を片付けることに対しては何も貢献しません.むしろ,日頃やっているこれらの多忙な日常業務に対して上乗せされるものです. 
 
そう考えているからこそ,管理や標準化は“悠長なこと”であり,目の前の仕事・案件を片付けることを優先する,という発言につながるのでしょう. 
 
しかしながら,そのような発言につながった「多忙な日常業務」の原因は何でしょうか?改めて,その原因が何なのかを考えてみたいものです. 
 
■何で業務は多忙となっているか? 
 
製造メーカA社に戻りますと,多忙な業務に直面している設計・開発部門の1週間の業務スケジュールをもとに業務内容と量を調べてみました. 
その結果, 
 
1)設計部門の本来の仕事である設計検討や試作依頼,試作評価実験・・・5割 
2)部下の管理・指導・教育・・・1割 
3)量産開始後や市場クレームの設計起因問題への対応のための調査や検討・・・4割 
 
であることがわかりました. 
 
1)と2)は設計・開発部門が本来やらないといけない業務であり,これに合計で6割の時間をかけています.一方で,3)は本来きちんと設計していればやる必要のなかった業務であり,これが4割占められており,さらにこの傾向は最近特に増加傾向にあるようです.ある別の設計・開発プロジェクトチームでは,3)の業務が業務全体の5割を超えているところもあり,それが設計・開発部門の多忙さに滑車をかけていました. 
 
そして3)に起因する業務量の増大に伴い,この多忙さが設計部門の本来業務である1)や2)を圧迫し,これが結果として新たな設計起因問題の多発を引き起こして,それへの対応,すなわち3)の業務量増加によってさらに本来業務の1)や2)を圧迫する,という負のスパイラルが働いていたのです. 
 
さらに言えば,ある時期に同時に取り組なければならない設計起因問題が多くなったせいで,個々の設計問題の原因分析にかけられる時間が少なくなり,対策も表面的なものになっていました.つまり,3)への対応自体も質が低下してしまっていたのです. 
 
■多忙の業務の原因は何か? 
 
では,このような業務の多忙さの原因は何でしょうか? 
 
まずは1)の業務は設計・開発プロセスそのものであり,ここがうまく進めば3)の業務は発生しません.設計行為は試行錯誤的な繰り返しが多い創造的な業務ではありますが,その設計検討の際の視点や,どのタイミングで何の試作・評価項目をどのような条件で検証するかについての試作・評価計画などが重要となります.また,デザインレビュー(DR)においても,レビューすべき項目,レビューの方法,構成メンバー,レビュー時に参照すべき技術的情報なども大切です. 
これらが担当する設計者やメンバーのスキル・能力に過度に依存していたことが,設計検討の不備を招き,結果として3)の業務の多発に至ったことがわかりました.
つまり,これまでの経験を踏まえて設計・開発部門全体として設計検討の際に用いる視点を体系化したり,試作・評価計画の類型化・パターン化とその雛形(=試作・評価の標準計画)を整備するなどの対策を行い,これらを次の設計・開発プロセスに活用できるようにすれば,類似の設計検討不備問題は防げるはずです. 
 
2)の業務では,部下や各設計チームの業務遂行状況の把握に手間取り,その結果として部下の不手際を防ぐことに失敗しているばかりか,その不手際の発見が遅れ,そのフォローに大きな時間を割いていることが分かりました.フォローの対応のまずさも相まってさらに時間がかかる事例も散見されています. 
さらに,部下に対する指導・教育においても教育担当者によってその内容や実施方法及び質に大きな差異があり,結果として必要十分なスキル・能力を有した設計者が思うようには育っていないことも起こっていました.これらは当然ながら,1)の設計検討不備にもつながります. 
つまりここからは,部下やチームの業務状況把握に必要な情報とその入手方法,及び不手際があった場合の対応方法を標準化すべきだということがわかります.また,設計者の育成・教育については,設計/開発者に求められる能力・スキルマップの作成と,その育成・訓練のための人材開発プログラムの整備が必要になるでしょう. 
 
最後の3)に関しては,設計検討不備を0(ゼロ)にすることは現実的に困難ではありますが,その大半は上記1),2)に対する対策で防げたはずのものでした.また,設計起因問題が起こってしまった場合にはその問題発生メカニズムを技術と管理の両方の見地から的確に分析し,確実な再発防止活動につなげるべきであり,製造メーカA社のように表層的で対処療法的な対策は,最終的に“一番高く付いてしまう対策”であることを理解したほうがよいでしょう. 
このためにも,故障解析技術や問題発生メカニズムを捉えるための分析視点,過去の類似不具合発生メカニズムを記述したFT(Fault tree)図等を蓄積し,いざっという事に活用できるようにしておくことが必要です. 
 
以上から,この製造メーカA社の話で強調したいことは,ずばり・・・ 
仕事や業務の忙しさの裏には,その仕事のやり方や管理のまずさがある 
言い換えれば,仕事のやり方の整備や管理を適切に行うことによって,業務の多忙さを減らすことができる,ということです. 
 
 
(金子雅明)

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