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メルマガ⑧ TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか?

TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第11回『マネジメントですか?そんなことよりも,一にも二にもまず「技術」ですよ.』(その2)  (2019-7-8)

2019.07.08

 
「管理/マネジメント」に関する大誤解の二回目、「マネジメントですか?そんなことよりも,一にも二にもまず「技術」ですよ」について続きを述べます。 
 
固有技術は前回述べたように組織の推進力となるものですので、経営環境が劇的に変化しつつある今日、組織の経営を改革するための新技術は不可欠になっています。バブルがはじけて以来、日本経済が停滞し、新興国に追い越されるようになったのは、基本的技術(基盤技術、固有技術、要素技術)を改善し、改革することを十分に行わず、新興企業に勝る技術の開発を怠った結果です。当然のことですが、より競争力のある新技術を開発しようとすると、世界の技術動向を怠りなく観察し、その潮流を理解しなければなりません。 
 
今日においては、Connected Industriesと呼ばれる第4次産業革命が世界の多くの産業に影響を与えています。Connected Industries即ち「繋がった産業」の中核にある技術は、IoT、AI、そしてクラウドに代表されるITの技術です。令和元年6月に経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省共同執筆で出された「2019年もの作り白書」の総論には、「第四次産業革命下における我が国製造業の現状と競争力強化に向けた方策」が書かれています。 
〈第3節〉「世界で勝ち切るための戦略 -Connected Industriesの実現に向けて」の章タイトルは次のようなものです。 
 
・3.1. 新たなビジネスモデルの展開 -強みを活かしたニーズ特化型サービスの提供- 
・3.2. 重要分野におけるシェア拡大に向けた戦略的取組  
・3.3. 新時代に必要なスキル人材の確保・組織作りと技術のデジタル化  
・3.4. Society 5.0の実現を目指した第四次産業革命技術の実装 
 
産業革命と言われるような時代を区切る大変革の状況においては、多くの企業は社内の既存の固有技術だけでは時代を乗り切っていけないと判断して、社外技術、社外人材の活用が活発になっています。 
 
しかし、競争力のある新技術を保有できたからといって、その技術が永遠に当該分野において優位であるとはなりません。常に競争力のある企業活動を続けていくためには、固有技術を優位にするよう改善する必要があります。組織は、事業目的を達成するために組織の構造を、例えば、部門単位で明確にし、それぞれの部門について役割を決め、サイロ(部分最適)を排除して全体最適を目指す経営を行います。各部門は、与えられた役割を分解、展開し、個人が管理できる大きさにまで業務を小さくして可視化します。業務においても目的を明確にしておくことが重要で、常に目的に合った業務が行われるように工夫すべきです。これらの個別業務の運用においては、日常管理が大切で毎日の業務改善の集積が組織の競争力の源泉となります。 
 
先に述べたメッキ会社の場合は、例えば、コバルト・ニッケルの浴に金型部品を浸漬する時間と電気量の把握が、固有技術の核心であるとします。メッキ業務の実施毎に、目標達成のための管理項目(例えば、メッキ厚み)と管理水準(例えば、マイナス0~プラス5マイクロメートル)を決め、それを監視・測定します。監視・測定していると、コバルト・ニッケルの浴の変化から管理水準であるマイナス0~プラス5マイクロメートルの範囲を逸脱しそうな状況が出てきます。メッキ厚みは、マイナス0~プラス5マイクロメートルの範囲に入っているのが通常ですが、その範囲から外れることは「異常」であるとして、メッキ業務を止めて応急処置をします。そして、再発しないように、なぜ異常が起きたのかを分析して原因に手を打ちます。これら一連の管理を行うことで、メッキ固有技術は改善されます。そしてさらに重要なことは、この改善されたことを標準書に落とし込み、今後の業務の基準にすることです。 
 
この一例が示すように、管理技術の活用により、固有技術は日々の実践の中でより高度なレベルへと改善できます。固有技術は製造部門だけにあるものではありません。設計部門、技術部門、品証部門などの管理部門にありますので、何が自部門の固有技術であるかを認識し、そのレベルを改善することを全社において行うのは管理技術の役割であり、日常業務のなかで固有技術を改善していくことが、競争に勝てる組織になる秘訣と言っても過言ではありません。 
 
固有技術と管理技術は経営の両輪であると言われるのは、企業の推進力すなわちエンジンの役目の固有技術と、計器監視などの安定飛行を実践する管理技術の両方が不可欠だからです。固有技術と管理技術の両者のバランスを取ることで方向の正しい飛行を長く続けることができるという産業界の経験から両者を経営の両輪だと言ってきたのです。この経営の両輪は、我々の周りにある多くの例で説明することができます。 
 
例えば、スポーツの世界ではどうでしょうか。個人競技でも集団競技でもまずは技術が必要であって、優れた技術はトップ選手の必要条件です。しかし、管理技術も必要であることは、我々が手に汗をかくいろいろな場面で証明済みです。スポーツの世界では、特にメンタルの管理が重要です。私はゴルフを健康維持の目的で楽しんでいますが、スコアなどどうでもいいという思いと、よいスコアで回りたいという思いの狭間で気持ちを管理することができずよく失敗をします。 
 
組織の技術部門の誰もがその気になれば固有技術を持てますし、それを磨き上げ誰にも負けない効率的で効果的な技に改善していけます。一日の多くの時間を組織の業務に費やしているからには、業務を通じて「一芸に秀でること」を目標にすることで働く意欲が一段と高まると思います。自分の保有している固有技術を磨き上げることは、やりがい、生きがいに繋がります。このような活動を全社で展開していくと、その組織には徐々に文化が生まれ、その文化が世代を超えて育まれると、組織に定着した風土として社員全員が働く喜びを感じる土壌になると思います。組織文化を作り上げていくには、トップは明確なビジョンを示し、長期的な視野で自ら率先垂範して諸課題にチャレンジしなければなりません。管理技術は、例えば、トップが組織の進むべき方向に全社エネルギーを集約させる場合などにも求められるものです。
前回は固有技術の重要性を述べ、今回は管理技術が品質改善、組織の文化、ビジョン確立に欠かせないことを述べました。固有技術と管理技術はともに必要で、それらの必要度合いは組織の置かれた状況によって変わります。固有技術と管理技術の両輪を適切に噛み合わせながら、経営戦略を環境の変化に順応させながら、中長期の視野で組織戦略を構築していくことが重要です。 
 
固有技術と管理技術のうち、どちらが重要でしょうか。非常に難しい問いですが、やはり固有技術と答えざるを得ないでしょう。どんなに立派なマネジメントシステムを構築しても、そのマネジメントシステムの血となり肉となるべき製品・サービスに固有の技術・知識が貧相な状態では、顧客に満足を与える製品・サービスを継続して提供することができないからです。管理技術は、固有技術のレベル向上のために有効な道具となります。すでに無意識のうちに管理技術を利用して固有技術の向上を行っている活動が数多くあります。しかし、管理技術を系統的に学び、その整理された知識体系を活用していけば、より広範により効率的にレベル向上を図ることができます。専門分野にかかわる知識だけを増やしていくよりも、管理技術を活用しながら固有技術を深めていけば、より良い製品・サービスを提供できるということを認識したいものです。これこそがマネジメントの極意です。 
 
 
(平林良人)

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