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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第10回『マネジメントですか?そんなことよりも,一にも二にもまず「技術」ですよ.』(その1)  (2019-7-1)

2019.07.01

 
「管理/マネジメント」に関する大誤解の二回目です。今回は「マネジメントですか?そんなことよりも, 一にも二にもまず「技術」ですよ」という声に、二回にわたってお答えしようと思います。 
 
技術とは広辞苑によると、「物事を巧みにおこなうわざ。技巧、技芸。科学を実地に応用して自然の事物を改変し・加工し、人間生活に役立てるわざ。」となっています。技術という言葉は、今日、もの作りの技術以外、サービスに関してもかなり広く使われており、例えば、園芸に関しての技術とか、スポーツ界での各種競技の技術とか、更には運転技術、演奏技術、美容技術といった形で、多様な使われ方をしています。いずれも、ある目的を効果的、効率的に達成しようとするために物事を巧みに実現させる手段、方法を指しており、品質管理の世界でも「品質保証」という目的を達成するための手段としての技術が開発され、実践され、普及されてきました。 
 
組織にとって、技術は生死を決める大切なものです。スタートアップ企業の誕生を見るとよくわかりますが、何らかの技術があって企業は創業できます。しかし、他人からの模倣技術で創業しても、そこに優れた特徴がないとすぐに行き詰ってしまいます。前回から「管理/マネジメント」に関して話を展開してきていますが、ここでは技術、そして固有技術について考えてみたいと思います。サービスに関する技術は除外し(これはこれで重要ですが)、工業製品を生産するための工学的な技術について話を進めます。 
 
研究開発部門がいくら魅力的な画期的な製品を開発しても、それをつくるために必要な「基本的技術」がないと製品化することはできません。アップルが開発したiPhoneは、スティーブ・ジョブスの執念で開発製品を作り上げる手段を世界中から見つけ出し、今や世界を席巻する画期的な製品になりました。iPhoneの裏板の鏡面を可能にしたのは、広く知れ渡っていますが、日本の小企業の固有技術でした。国内の金属洋食器の90%以上を生産する一大生産地、新潟県燕市にある金属研磨職人の技であったとのことです。 
 
基本的技術は、「基盤技術」、「固有技術」、「要素技術」の3つに分けられますが、このうちの基盤技術は国民経済および国民生活の基盤の強化に相当程度寄与する技術、言い換えると、当該技術の影響度(性能・生産性の向上に与えるインパクトの大きさ)と、波及性(利用分野の広がり)との積が相当程度大きい技術を指します。基盤技術は私たちの生活を豊かにするために重要かつ不可欠な技術として、「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年)」に26種の基盤技術が指定されています。主なものを抜粋すると、次のようなものがあります。 
 
・設計に係る技術、 
・成型・鍛造・鋳造・プレスに係る技術、 
・分離に係る技術、 
・洗浄に係る技術、 
・熱処理に係る技術、 
・溶接に係る技術、 
・電気分解に係る技術、 
・重合に係る技術、 
・真空に係る技術、 
・物性検査に係る技術、 
・製造過程の管理に係る技術、など26種 
 
最後に掲げた「製造過程の管理に係る技術」は、まさしく品質管理が該当するでしょう。 
 
2番目の「固有技術」は、固有とは広辞苑によると「もとからあること」ですので、固有技術とは、もとからある技術ということになります。組織にあったり、産業界にあったり、国にあったり、世界にあったりしますが、ここでは組織に存在する固有な技術として話しを進めます。私の経験では、基盤技術に、技能、ノーハウなどが加わると組織に固有な技術になりますので、以下の固有技術の意味は、「基盤技術+技能、ノーハウ」な技術であるとして話を進めます。 
 
固有技術は企業の事業の柱となっている技術です。たとえば、切削加工技術の加工精度を徹底的に追及することによって、精密切削加工技術を獲得し他社と差別化するなど 、加工や組立に関する固有技術を習得している企業を数多く見付けられます。昨年あるところで聞いた話の一つに、メッキの固有技術についての苦労話がありました、金型に耐摩耗性を向上させるために、2.5㎡にも及ぶ巨大金型部品にコバルト・ニッケル合金めっきを3㎜厚みの被膜で付ける技術は世界一であるとして話題になっているということです。特殊な加工工具設備を開発して可能にしたとのことですが、これなどは、材料、方法、設備そして技能などを尋常ではない努力で追求し続けた結果であるということでした。 
 
3番目の「要素技術」とは、研究開発した新製品やシステムを実現、生産させるのに必要となる個々の技術のことです。組織で開発された新製品の機能を仕様通りに実現するには、多くの場合、組織の基盤技術、固有技術をベースに新しい技術が必要になります。私が経験したところでは、インクジェットプリンターのヘッドの加工技術、インクの固化防止技術などがありますが、これらの新しい要素技術を開発できなかったならば、エプソンのインクジェックプリンターは世の中に出ていなかったと思います。 
 
以上、基本的技術を説明しましたが、これらの技術は取引先や消費者に満足していただける製品づくりに不可欠な製造業の生命線、価値創造の源泉となるものです。これらの技術は一朝一夕にできるものではなく、多くの先人のアイディアや創意工夫、試行錯誤の結果の積み重ねで作り上げられるものです。固有技術の中にある特徴がどのようなものであるかによって、例えば、決して他社が真似できないようなものがどの程度含まれるのかによってその組織の競争力が決まります。 
 
素材、部品、ユニット、設備、機械などの材料側面、並べ方、組み合わせ方、順序などの加工側面、温度、湿度、圧力などの条件側面、手先の器用さ、動き、反復性など人の技能側面、更に構造、意匠、要素などの設計側面など、組織には固有技術を保有するための機会は数限りなくあります。 
 
その昔、私がセイコーエプソンの生産技術に在籍の頃、新しい要素技術の開発に従事していたことがありました。着想を得た試作品を早く作ってみたいという状況下で、試作品の機能、特徴を伝えると、実験室にある材料、工具及び簡単な機械で実証したい部品を作ってくれるAさんという方がいました。一度のチャレンジでは完成しませんが、何回か試行錯誤しながら数週間も経つと仕様に近い部品が出来上がってきました。新しい構造をもつ要素部品は、メカ要素だけでなく電気も必要なものが多かったのですが、Aさんは機械、電気の両方の知識と技能を持っていました。Aさんの作り方を後からトレースすると、その要素部品の設計図及び加工図面が出来上ることになったと記憶しています。彼の試作品は、要素技術の開発と製品設計の全体に大きく貢献しました。彼が保有していた知識、技能、ノーハウを総合的に表現するならば、人に固有の技術ということになります。 
 
Aさんのケースは個人の固有技術の話ですが、組織には次のような業務プロセスにおける基盤技術を深耕することにより固有技術の保有ができるようになります。
 
 ・研究開発 
 ・設計 
 ・工程設計 
 ・製造 
 ・検査 
 ・修理 
 
固有技術は組織に無くてはならないものですが、では固有技術などの技術があれば組織は持続的に存続していけるのでしょうか。世の中には、技術で世界に有名になりながら企業としては持続できず大成できなかった組織が多くあります。日本の有数な優良企業でありながら、不祥事で没落する組織も少なくありません。最近では、東芝、シャープなどがその典型的な例ですが、その他、神戸製鋼、日産、スバルなど30社を超える無資格、品質不良、法律違反などの不祥事と呼ばれる企業の例が多く出てきています。 
 
次回は管理技術の必要性、特に品質管理について述べ、固有技術と管理技術の両輪がうまく噛み合うことが企業の持続的成長に不可欠であることを述べます。 
 
 
(平林良人)

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