TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第8回『最近は管理,管理って周りがうるさいね.締め付けるばっかりで,仕事がどんどんやりにくくなって困るよ.』(その1) (2019-6-17)
2019.06.17
これからのテーマは、「管理/マネジメント」に関わる大誤解です。その最初は「最近は管理,管理って周りがうるさいね.締め付けるばっかりで,仕事がどんどんやりにくくなって困るよ」について2回にわたって述べたいと思います。
言葉は面白いもので、人それぞれの今までの経験、背景などから言葉に対して持つニュアンスは、かなり異なるようです。「マネジメント」と言われるとそれ程悪い感じを持たない人も、「管理」と言われると、締め付けられる、強制的に上の思う方向にもっていかれる、ノルマを課せられるなど悪い感じを持つ人が多くいます。なぜそのように思う人がいるかという分析は難しいのですが、締め付けるような管理がいろいろな世界で行われているからでしょう。
確かに、「管理社会」、「管理強化」などの用語が持つ語感は、監視、締め付け、統制、規制などです。岩波の広辞苑第六版で管理の意味を調べてみると次のように書かれています。
①管轄し処理すること。良い状態を保つように処置すること。とりしきること。
「健康―」「品質―」
②財産の保存・利用・改良を計ること。→管理行為。
③事務を経営し、物的設備の維持・管轄をなすこと。「公園を―する」
「管理」の基本的な意味は①ということになります。「管轄し処理する」「とりしきる」と「良い状態を保つように処置する」の間には、若干のニュアンスの違いを感じます。
同じ読みの「監理」を調べてみると、「監督・監理すること。とりしまり」とあり、こちらは明らかに「統制」のイメージを持つ言葉です。
管理を「クダカン」、監理を「サラカン」と言って、その意味を区別することがあるのをご存じでしょうか。
多くの場合は、安全管理、衛生管理、健康管理、情報管理、品質管理、労務管理、在庫管理などのように「管理」ですが、建設では「設計監理 ○○設計事務所」と使いますし、行政においても監督・規制の意味で「監理」を使います。
「クダカン」とは、「管」が「くだ」「パイプ」を意味することから来ています。「サラカン」は、「監」の文字の脚の部分の「皿」から来ています。「監」は、その字の構成から「人が盆にはった水を上から見ている」という意味で、まさに「監視」「監督」が主意となります。
品質管理/マネジメントの世界では、管理は「目的を効率よく継続的に達成するためのすべての活動」と理解されています。日常業務は管理されているか?とよく聞かれますが、その場合は、次の3つのポイントを確認すると実情が良く把握できます。
1.目的は明確か
2.効率は良いか
3.継続しているか
実は、「管理」という用語には、その文字から、目的達成という意味が含まれています。上述の「クダカン」の「管」は文字の冠が「竹」、脚が「官」で構成されています。「官」は同じ音の「貫」の代わりであり、「竹を貫く」ことから、その結果できる「くだ」「パイプ」が主な意味となります。 こじつけと言われそうですが、「管理」に目的達成の意味が含まれるのは、竹の節を貫いて(目的を)貫徹するというのが原意だからと言えなくもないのです。
日本は,アメリカのデミング博士らから品質管理という方法論を学びましたが,“quality control”“QC”「品質管理」における「管理」を、かなり広い意味に受けとめていました. TQC(Total Quality Control)と言い出したのは1960年代ですが,その頃から日本の品質管理界は、「管理」を英語の“control”を超える、目標・ねらいの設定も含む目的達成の活動全般と理解していました。それに対し“management”には、目的の設定や目的達成手段の指定などの計画行為が含まれていますから、TQCは最初からTQMの要素を含んでいたことになります。ISO 9000シリーズ規格の国際的普及とともに、品質管理にかかわる様々の概念が急速に国際化しました。それに伴い“Quality Control”の意味は「品質管理活動の要素及び技法」というような程度であって、日本で実践されてきた目的達成活動を含む「品質管理」の意味を正しく伝える用語は、“Quality Management”であることが明白になってきました。そこで、1996年日本では長く使ってきたTQCという呼び方を内容は変えずにTQMに変えました。英語の“Quality Management”という用語が普及するなか、これを日本語にどう訳すのも問題となりましたが、結論としての表現は「品質マネジメント」でした。
品質管理の実践に避けて通れないものに統計的品質管理(SQC:Statistical Quality Control)があります。ものごとはばらつく、ものごとには因果関係があるなどの概念を根底にして、科学的に製品の品質を管理しようとする方法論です。
皆さんの良くお聞きになるQC7つ道具は、その基本となる手法を分かり易くまとめた日本の知恵だと思います。データを適切に解析することで、現場での改善活動に具体的な策を提示し、また、定量的に表現することで、それぞれのプロセスで何が起きているのか、きちんと管理されているのかなどを判定し、現場の状態の把握に役立たせます。因みにご存じだろうとは思いますが、QC7つ道具を列挙します。
・チェックシート
・パレート図
・ヒストグラム
・グラフ・管理図
・特性要因図
・散布図
・層別
機会があればその内容に触れることもあろうと思いますが、このように品質管理における管理には、微塵も締め付けるというニュアンスはないことをお判りいただけたことと思います。
最後に申し上げるとするならば、「○○管理」と言っているものには、目的的管理と手段的管理があります。目的的管理には、品質管理、安全管理、原価管理、納期管理などがあり、手段的管理には、情報管理、労務管理、設備管理、人事管理などがあります。手段的管理については、例えば、情報、労務、設備、人事などを管理してどのような目的を達成しようとするのか、そして管理しているのは手段であるということを明確にしておかないと、まさしく「締め付け」になってしまう恐れがあります。
品質に関する議論のなかで,品質概念は目的志向の思考・行動様式にほかならないと,申し上げました。管理とはその「目的」を達成するためのすべての活動、というのですから、品質管理を本当にマスターすれば、まともな目的を設定し、その目的を合理的に達成できるようになれるはずで、適用する人や組織が賢ければ、万能に近い思想と方法論を与えているとも言えます。
(平林良人)