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TQM/品質管理 こんな誤解をしていませんか? 第3回 『高品質=高級・高グレード・高価な製品ではないのか?』(後編)  (2019-5-13)

2019.05.13

 
先週(5/7)に引き続き,『高品質=高級・高グレード・高価な製品ではないのか?』の誤解についての解説(2回目)です.
 
 

■狩野による品質区分-製品の品質特性が顧客満足に与える影響の違いを把握する
 

先週の最後において,品質と製品の品質特性値の関係把握が大事であり,そのための支援ツールがQFDだと述べました.しかしながら,製品の各品質特性が顧客満足に与える影響は一般的に異なっていますので,この点についても理解しておいたほうが良いでしょう.それが,狩野による品質区分です.

 

知っている読者も多いとは思いますが,これは1984年に狩野紀昭らによって提唱された当たり前品質,魅力的品質という考えです.品質が顧客の心理的満足度に与える影響の違いを考慮した品質の捉え方であり,提唱されてから30年以上経っていますが,今でも多くの企業で用いられている有用なものとなっています.

 

“当たり前品質”とは,製品の物理的な性質が満たされていても,顧客にとってそれは当たり前であり,心理的な満足度の向上には影響しないが,不十分であると大きな不満を感じるような特性のことを指します.例えば,自動車におけるブレーキ故障などは現代では無くて当たり前であるが,このようなことが購買後すぐに発生してしまったら,顧客の不満足度に直結することになります.

 

一方で,“魅力的品質”とは,物理的な性質が多少悪くてもそれほど不満を感じないが,充実させることで顧客の満足度が大きく向上する特性のことを指します.例えば,BMWが訴えている“走り抜ける爽快感”などが当てはまります.先日の日経新聞に,自動車業界における脅威とビジネスチャンスとしてCASE(ケース)が掲載されていました.これは,「Connected:コネクティッド化」「Autonomous:自動運転化」「Shared/Service:シェア/サービス化」「Electric:電動化」の頭文字を取った造語であり,自動車業界における魅力的品質はどんどん変わっていきそうです.

 

これらに関連して,物理的な性質の充足度に比例して,顧客の満足度が上がったり,下がったりする特性のことを“一元的品質”と呼び,代表的な特性には燃費などがあります.また,充足度合に全く関係しない特性のことは“無関心品質”と表現します.

 

これらの4つの品質区分という考え方は,企業経営にとってとても重要な示唆を示してくれます.例えば,魅力的品質は売り上げ増に影響を与えますし,当たり前品質は満たされないと市場クレームの発生につながってしまうのです.つまり,各企業は顧客にとって当たり前品質の特性を確実に満たしつつ,市場での競争力強化のために魅力的品質の側面を磨いていくことが求められます.

 

ただし,ここで注意すべき点がひとつあります.それは時代時代によってどの特性が魅力的品質や当たり前品質となるのか,言い換えれば,お客様の心理的な満足度への影響度合いが変化する,という点です.例えば,今では自動車のブレーキ故障などは当たり前品質でしたが,一時期前においてはブレーキ故障等の故障が少なければ少ないほど良いという一元的品質であった時代がありました.日本の自動車メーカが初めてアメリカの自動車市場に打って出てそのシェアを大きく勝ち取った一つの要因は,この点にあったと言われています.先ほど説明した「CASE」によって今後も大きく変わりそうです.

 
 

■ニーズの多様性とそれへ対応

 

最後に,ニーズの多様性とそれへの対応について説明します.
読者の皆さんもご承知の通り,ニーズは一様ではありません.例えば,自動車業界を見れば明らかで,同じ乗用車の製品カテゴリーにおいても,ラグジュアリーカー,エコノミーカー,スポーツカー,ミニバンなどでは,明らかに顧客層が異なりますし,ニーズが異なります.靴もそうで,仕事等の用途で使うビジネス用シューズと,休日の娯楽で用いるカジュアルシューズがありますし,前者のビジネス用シューズにおいても一般的なシューズだけでなく,6月の雨期での使用を主に意図した,防水加工済みで足の蒸れや通気性が気になる人用のシューズもあります.

 

良い品質=ニーズを満たすことですから,これら様々な異なるニーズに対応することが企業側に求められます.そのために,ニーズの相違に着目し,ある程度類似したニーズを持ったある程度の規模がある顧客群にいくつかグルーピングする,すなわち市場セグメンテーションを適切に行い,そのセグメンテーションごとに製品カテゴリーは同じでも製品の“品種”を増やすことで対応する,ということになるのです.

 

ところで,ニーズの多様性がそのままイコール顧客の多様性,ではありません.顧客の多様性がニーズの多様性につながるのは確かなのですが,例えば私(筆者)は,靴の分野では用途や目的が異なるカジュアルシューズ,ビジネスシューズを持っており,ビジネスシューズにおいても雨期用のシューズも別に持っています.さらに,重要な催事用に有名メーカの高価な革靴も1足揃えています.これは,例え(私のように)同一顧客で同一製品(靴)であっても,複数の使用目的・用途が存在し,それによって複数の異なる品種のモノを望むことがある,ということを示しています.

 

では最後に,ニーズの多様性につながる要因の一つとして顧客の多様性を考えてみましょう.
品質の話題になる時,“顧客は誰ですか?”と聞くと,自社の製品・サービスを受け取って,対価を支払った方と考えがちです.もちろん,それはそれで間違えではないのですが,より一般的に考えてみると,製品・サービスを受け取った方と支払いをした人が必ずしも一致しないこともあります.

 

例えばファミリー・カーは,支払いをするのは夫ですが,主に運転するのは妻かもしれません.また,どの車にするかについての選択権を持っているのも妻であることが少なくありませんね.子供たちは車による移動サービスを受けていますが,車の選択権はほぼないと考えてよいでしょう.この場合,購入した人と使用(運転)する人は同じですが,どの車がよいかを選択した人と,その商品・サービスの便益を受ける人は大きく異なることがわかります.

 

「ギフト商品」についてもどうでしょうか?贈る側と贈られる側の双方を顧客と捉えるべきでしょう.また,大学の顧客についても,大学の顧客は実は学生ではなく(そのように誤解している大学も多々見受けられますが),その学生が就職する企業,もっと広く言えば社会です.品質の良し悪しとは顧客のニーズをいかに満たせるかにかかっているわけですから,企業や社会から求められる人材をいかに輩出できるかが大学の品質であり,その代表的な指標として就職率や企業からの推薦枠数などが考えられます.
このことは,B to CだけでなくB to Bにおいて同様で,例えば部品メーカにとって顧客企業の購買部門と設計部門とでは求められるものが大きく異なることが多いですね.

 

上記に示したような購入者,使用者など以外に,第三者を顧客と考えることもできます.すなわち,企業が作り出した製品・サービスが使われ,廃棄される際に影響を受ける人々も,顧客の一部と考えて商品・サービスの企画・設計を行わなければならない場合もあります.

 

皆さんもお聞きになったことがあるかもしれませんが,「社会的品質」という概念のことです.この考え方は,公害問題が発生した1970年代に広く世間に広がりました.
先ほど例に挙げた自動車を使用することによって出る排気ガスについては,大気を汚染させ,地球環境問題を悪化させる原因と指摘されています.購入者の中には,排ガスを気にせず,安くて走行性能が高ければよいと考える方もいるかもしれませんが,現代の社会・世の中の風潮としてそれは許されず,自動車製造会社は少なくとも排ガス規制に適合した車を提供する義務があるのです.

 

つまり,顧客は誰かと一見して分かってつもりでもそうではないこともあるため,顧客の多様性を踏まえて,改めて顧客が誰かを考えて明確にしたほうがよいということです.

 
 

(金子雅明)

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