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活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾  第21回 飯塚悦功(その3)

2019.04.15

 
■プロセス管理:因果関係+目的手段関係
 
品質管理の方法論の多くは,管理,すなわち目的を継続的に効率的に達成する全ての活動における,優れた原理原則に言及しています.いわゆるQC的ものの見方・考え方と言われる珠玉のような思想・方法論は,目的達成行動における優れた行動原理にほかなりません.
 
管理の考え方のうち「プロセス管理」は,目的達成行動における最重要の考え方です.「良い結果を求めたければ,その要因系に注目せよ」と言っています.プロセス管理とは「結果を追うのみでなく,プロセス(仕事のやり方)に着目し,これを管理し,仕事の仕組みとやり方を向上させることが大切」という考え方です.
 
その基本は,品質は事後の確認だけでなくプロセスで作り込むべきであるということにあり,結果に着目するだけでなく,結果を生むプロセスについて注目し,仕事のやり方を改め,仕事の質を向上させることを推奨しています.

そのためには,望ましいプロセス条件に標準化するために,良い結果が得られるようなプロセス条件を明らかにし,またプロセス中で確認すべき事項を明らかにして,これらプロセス中で実施すべき事項を標準化します.その標準的手順に従って仕事を行います.
 
すべてが想定通りにことが運べば何も問題がないのですが,いろいろなこと起こり得ますので,いわゆる「管理」を行うことになります.もし,計画通りの結果が得られなかったら,目標と実績の差異の要因解析を行い,その要因系を抑え込みます.そして,良い結果が得られるようなプロセスの条件を追及し続けるために,現状の仕事のやり方にメスを入れ,改善し,最も良い仕事のやり方に改めていきます.
 
このような方法は,品質管理を勉強した者にとっては常識かもしれません.でも,よく考えてみて下さい.良い結果を得るために,要因系に着目しようという考え方は,そんなに簡単に多くの人の行動原理になるものでしょうか.
 
良い結果が得られるようなプロセスを作るためには,プロセスの結果とプロセスの要因(条件)の間の「関係」を知る必要があり,またプロセスの条件をある範囲に制御する方式を決めて,現実のプロセスで日常的に実施する必要があります.目的を達成するために手段を考察し,その手段と結果の因果関係を考察し,良い結果が得られるように要因を管理するというのは,実はかなり高度な思考を要求されます.しかも,目的を達成していないときに,その原因を明らかにして将来のために原因系を管理しようとする考え方は,品質管理で叩き込まれた人々には自然でも,そうでない人にはなかなか会得できない高度な思考ではないかと思います.
 
「因果関係」に注目するのとほぼ同じ意味ですが,「目的・手段関係」に注目するよう推奨するのも品質管理です.上述した,望ましいプロセス条件を定め標準化しようというときは,プロセスの目的を達成できるように,手段としてのプロセス条件を定めようとします.
 
「方針管理」における「展開」とうのは,目的・目標の分解,目的達成手段への展開,担当部門への展開というような多様な意味がありますが,ここでも結局は目的を達成するために何をすべきかという,目的手段関係を考察するよう求めています.

自然にこのような思考方法をとる品質管理をマジメにやると,確かに頭が良くなると思いませんか.
 
■真因分析・水平展開:本質理解
 
品質管理では,問題解決,原因分析を重視します.これは起こしてしまった問題を悔やむためではありません.懲罰が必要ないなら,済んでしまったことについて,誰が悪い,誰に責任があるなどということを明らかにしても何の意味もありません.
 
品質管理で,深い原因分析をするのは,将来使える教訓を得るためです.私たちは類似の知識を使い,類似の仕組みで,類似の製品・サービスを将来にわたって生みだし提供していきます.経験したことのなかには,将来に生かせる知見が山ほど入っているに違いありません.
 
品質管理では,問題解決にあたり,原因を明らかにせよと言います.それは原因を除去することによって,同様のメカニズムで起こる将来の不具合を再発防止,未然防止できるからです.原因を明らかにするにしても,真因,深因,根本原因を明らかにせよと言います.それは,再発防止をする対象を広くしたいからです.直接の原因だけでなく,本質的に同じ原因であれば,姿形を変えて別の領域に現れる,一見するとまったく別の問題の防止にまで水平展開できます.
 
こうした分析ができるためには,分析対象について,問題が起きていることに本質的な状況を理解しなければなりません.問題が起きる共通要因,問題の様相,因果関係の一般化・抽象化を図らねばなりません.こうした分析能力は一朝一夕に獲得することはできないのですが,品質管理活動を真面目に継続する過程で,個人としても組織としてもレベルアップすることができて,そうした品質管理,品質改善を継続することによって,あらゆることに対して賢い個人,賢い組織が出来上がっていくと期待できます.
 
先週,「本質把握能力,一般化・抽象化能力は,ほとんど遺伝で決まる」などというあまり建設的でないことを申し上げてしまいましたが,それでも品質管理の思想や方法論にどっぷりつかっていると,「真因は何か」,「共通要因を明らかにせよ」,「深い分析をせよ」,「水平展開を考えよ」,「未然防止をせよ」などとうるさく言われますので,ほとんどは遺伝で決まるとはいえ,少しは鍛えられると期待できます.
 
■PDCA,振り返り:学習,成長,進化
 
品質管理には,あの有名な「PDCA」という,管理における極めて重要な考え方,方法論があります.管理という目的達成行動の真っ当な方法論というとらえ方もありますが,もう一つ「PDCAを回す」という言い方で,まともな処置,次への備えに関する重要な考え方を推奨しているとも言えます.
 
「PDCAを賢く回すことによって,人も組織も賢くなる」と言えます.PDCAとは何かを,いまさらここで詳しく絵解きをする必要はないでしょう.計画(P)には,P1:目的・目標の明確化と,P2:目的達成手段の明確化という2つが必要です.処置(A)には,A1:当面の目的達成に必要な応急処置,現象対応と,A2:将来のP2のための再発防止・未然防止の2つがあります.将来のP2のためになされるA2は,再発防止,未然防止策です.経験をもとに事象の因果を理解し,今後適用するプロセスを改善しレベルアップします.まともな分析によりコトの本質が理解できれば,まだ問題を起こしていないプロセスに対して未然防止策を講じることができます.
 
こうして,マネジメントのレベルが上がり,進化していきます.PDCAを真面目に回すことによって,目的達成行動において,人も組織も賢くなっていくのです.品質管理はこうして,世界中を賢くしてく可能性があります.
 
方針管理では,年度末に大々的に「振り返り(反省)」をすることを推奨しています.1年をかけて組織を挙げた課題への取り組みを徹底的に振り返ります.ここにあるのは,目標を達成できたかどうかを確認するだけの浅薄な活動ではありません.組織的取組みの活動の経験から多くを学び,教訓を獲得し,将来の思考・行動に活かすことを考えているのです.前項の本質把握力,抽象化能力に類似していますが,その能力のゆえに得られた知見を教訓として将来に活かすという少し異なる頭の良さを磨くことになると思います.
 
学習能力というのは,経験から本質を抽出する能力,学ぼうという態度,謙虚さ,自省の心などから構成されますが,これまた品質管理を通して大いに鍛えられる能力と思います.
 
「改善」は,日本の品質管理の代表的な特徴です.その基本は,人も組織もプロセスもシステムも,内部に自身を改善していく要素を持っていなければならないというものです.実際,技術もマネジメントも常に完全ではあり得ず,改善していかなければならないと教えています.このような思考・行動を続けることによって,学習能力が上がっていくに違いありません.
 
さて,「頭を良くする品質管理」の話はこの辺にしておきます.「超ISO」とは,単に ISO 9001のQMSモデルを超えるという意味ではありません.もっと深い意味を込めています.それは,ISO 9001は「品質」に関するマネジメントのモデルを提示するものであり,これを超えるとなったら,「品質」の「マネジメント」ゆえの深遠なる思想と方法論を理解し適用することまでも考えるという意味もあります.品質マネジメントとは,狭義の品質にとどまらず,組織の総合的な能力を改善・改革するための優れた経営ツールなのです.
 
(飯塚悦功)

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