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活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第18回 金子雅明(その3)

2019.03.25

 

私のつぶやきは今回(その3)が最後になります。

 

3.授業の質の維持・向上のために実施していること

 

これまでは大学全体における教育の質とその評価の話をしてきましたが,「授業」という点に絞って,その質向上のために実施していることを紹介したいと思います.気を付けていることは次の5点です.

 
(1)興味を持ってもらうこと
(2)学生の意欲を継続させること
(3)学生間の理解度のばらつきにうまく対応すること
(4)知識習得の定着度合いを高めること
(5)学生を公平,厳正に扱うこと

 
(1)興味を持ってもらうこと
 
最近つくづく思うのは,ギラギラして何か学んでやろうという学生が少ないということです.大学は義務教育ではないんだから,なんで大学に来たのかと言いたくなることもしばしばあります.一方で,教員が一方的にその授業科目の内容を淡々と説明するのを,学生たちがぼーっと聞いているのも問題と考えています.その意味で,私自身は授業内容そのものの説明に入る前に,学生にいかに当該授業科目に対して興味を持ってもらうかについて,かなりの時間を使うようにしています.
 
例えば,品質管理という授業では,学生の身近なもの(スマートフォン,カバン,ペン)や,新聞等で取り上げられた話題の商品を実例としてあげて,品質の意味について説明するようにしています.最近は,ニンテンドースイッチが売れると思うか,それはなぜかについて議論しましたが,とりわけ男性学生がかなり盛り上がり,積極的に発言していました.
 
また,品質管理が世の中でどう役になっているかというプラス面や,それがないとどんなマイナス面(品質事故,大量リコール)になるかも,実例で説明します.それだけでなく,それが学生一人一人の生活にどのような影響を及ぼすかまでイメージさせます.数理統計学という科目では,統計学が身近なものであること,統計学があることで少ないサンプル数で興味のある対象を精度よく予測でき,個人や企業・社会の意思決定に活かされていることなどを説明しています.

 
(2)学生の意欲を継続させること
 
学生の興味を引くことができれば,授業を本格的に開始するのですが,その際には学生の意欲が低下していないかについて留意しています.
 
例えば,数理統計学は,記号や数式が多く,それを苦手とする学生も少なくありません.それらは単に意味の分からない呪文のように聞こえ,睡魔を誘います.そうならないように,私は図やイメージ図を多用して説明するようにし,なるべく数式の説明を最低限に抑えています.数式の説明もそのまま読み上げるのではなく,何をしようとしているかのその意味を説明します.記号(μ,σなど)はなかなか覚えられないので,意図的に何度も繰り返し声に出して説明しています.
 
もう一つの工夫は,授業全体をいくつか意味のある単位で細かくマイルストーンを刻む,という点です.具体的には,数理統計学では全15回の授業の全体構成として3部構成であることや,各回の学習の位置づけ・関係性を初回だけでなく各回でも説明し,各回の学習ゴールを明確にしています.すべての回がパラレルに並んでいて,消化していくだけということを避けたいという思いでやっています.
 
最後に,意欲が低下する主な場面は,問題や演習を解こうとしてつまずいた時です.そこであきらめないようにするために,演習開始後の適切なタイミング(15分後)でヒントを出すようにしています.また,可能であれば,個人単位ではなくグループワークをさせて,躓きそうなときにグループ内の他の学生に引っ張ってもらう効果を期待しています.

 
(3)学生間の理解度のばらつきに対応する
 
学生間で理解度に差があることは避けられません.したがって,私自身は数理統計学では,基本問題とチャレンジ問題の二つを準備し,早く終わった人はチャレンジ問題を解き,加点を狙えるようにしています.それさえも終わったならば,退出を許可します.これは,残りの時間を理解が十分でない学生に集中的に充てるという狙いもあります.もちろん,学生の理解度の速さに応じて,授業や出題する問題の範囲を狭めたりなどの微調整もしています.
 
もう一つの工夫は,学生が提出した解答を採点し,ミスが多かったところは,次回の授業の冒頭で標準解答を配るとともに,重点的に復習・解説をしています.

 
(4)知識習得の定着度合いを高める
 
皆さんはラーニングピラミッドをご存知でしょうか.私は4年前に東海大学に来て初めて知りました.これは,学生の平均学習定着率を表す図であり,学習方法によって知識の定着率がどのぐらいかを次のように算出しています.
 
・講義を受ける-5%
・資料や書籍を読む-10%
・視聴覚(ビデオや音声等による学習)-20%
・実演を見る-30%
・他者と議論する-50%
・実践による経験、練習-75%
・他者に学んだことを教える-90%
 
最後の3つがいわゆるアクティブ・ラーニングに相当する教育方法であり,学習定着率が一番高くなっています.いわゆる,大学の“講義”は教えた内容のたったの5%!!です.私はこれを知ってから,授業内容を設計する際には,学習内容を広くし,あれもこれも盛り込みたい気持ちを抑えるようにしています.学生に一方的に伝えた知識量の多さではなく,実際に学生が定着できる知識量に焦点をシフトしました.
 
したがって,数理統計学では“講義”は極力少なくし,授業の半分の時間は定着率の高い“実戦による経験,練習”として,多くの演習問題を出して繰り返し手を動かしてもらっています.なお,私の授業では,エクセルや統計ソフトは使用せず,電卓を駆使して手計算を敢えてやらせ,知識の定着率を高めるようにしています.

 
(5)学生たちを公平,厳正に扱う
 
最後に,学生との接し方についてです.学生というのは先生の行動をよく見ています.普通にやっているつもりでも,先生はAさんばっかり見ていて私には冷たいというような噂が立つこともしばしばです.そうすると,上の(1)~(4)に示したような工夫を施したとしても,感情的になり,せっかくの学習効果が低下してしまいます.
先生としては,発言や質問が積極的で,よくできる学生を見たがるかもしれませんが,質問してこない学生にも積極的に声がけし,公平に扱うように意識しています.
 
あと,学生と友達のように接する教員も時々見かけますが,私は違和感があります.大学生というのは世間では大人であると考えられていますから,私自身も大人として扱います.大人として扱うので,学生から見れば厳しい先生と思われているでしょうが,それで構いません.変な言い方ですが,学生に好かれようとは思っていません.その一環で,初回の授業で本授業のルール(どこまでやっても許されるか,やってはいけないこと)を明確に伝え,それを守るように伝えています.ルールを守るのが大人です.

 

4.「品質管理教育」について思うこと
 

私のつぶやきもそろそろ終わりに近づいてきましたので,私が担当する品質管理教育に関して考えていることを述べて終わりにしたいと思います.
 
まず,多くの大学で品質管理というと,たいてい確率・統計や,QC七つ道具などの「手法」を教えていることが多いようです.もちろんそれも大事ですが,そもそも品質とは何か,それを管理・マネジメントすることの意義,重要性についても教えるべきではないかなと考えます.また,手法についてもそれがどこでどのようにどう役立つのかや,手法そのものが持っている元々の考え方の説明も不足しているように感じます.
 
また,優秀な教育者の多くは偏差値の高い一流大学に偏在しています.一流大学に一流な教員がいるが通常ではあるのですが,一流大学の学生も一流なので,多少講義の質が悪くても学生自らが学習して補ってくれます.むしろ,偏差値が高いとは言えない,日本の平均的なマンモス大学にこそ,優秀な品質管理教育者が必要ではないでしょうか.そういうマンモス大学が輩出する学生は大量にいますから,日本における品質管理レベルの底上げという意味でとても大事だなと,最近の品質不祥事の頻発を見て特に思います.

 

(金子 雅明)

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