活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第14回 平林良人(その1)
2019.02.25
はじめに
昨今の組織の品質不祥事には多くの要因が関係しており、一概にこれだとは言えないと思います。
いろいろ考えられる品質不祥事の要因の中から、本稿では標準文書及びその管理についてつぶやきたいと思います。
品質不祥事は、決められたことをそのとおりに行わなかったという、単純ですが最も困難な領域にその不祥事の原因が帰着します。
品質データ改ざん、無資格者検査、法令違反、企業統治不全、財務不祥事などの原因究明の過程においていくつかの要因が明らかにされても、最終的にはすべての要因は決められたことを行わなかったということに集約されます。
組織の決め事を規定した標準文書の管理及び運用の重要性は非常に大きなものです。
組織に標準文書の数を聞くとその概数を答えられない組織が多くあります。
標準文書の概数が把握できていないのでは、組織の標準に対する管理が心配になるのですが、それが今日の日本の産業界の実態です。
ある調査によると、中小企業(300人以下)で200~500位、大企業になると優に2,000位の標準文書が存在するといわれています。この数字は組織に存在するすべての標準文書を対象にしての数ですが、その7,8割はQMSに関係する標準文書であろうと思います。
1. 標準文書の管理
標準文書は管理されなければなりません。
管理とは手の平(掌)に乗ったようにコントロールできる状態をいいます。
標準文書を管理するためには次のことを決めておかなければなりません。
①管理責任者
組織の標準文書について日常的に管理されているかどうか、その状態を監視し適切に対応する人を決めておく。
②管理の手段・方法、手順
標準文書の管理の仕方を決める。昨今ではコンピュータによる文書管理が普及し、専用のソフトウエアも活用されている。
③管理の判断基準
いくつかの判断基準があり得るが、大切な基準は廃棄基準である。標準文書は毎年増加するが、減少させる基準を決めておかないと標準文書が限りなく増加し、その内に標準文書が検索できなくなる。
これらの決め事は、組織の文書管理規定として全員に周知徹底しなければなりません。
周知徹底と簡単に一口で言いましたが、ここで重要なことは、組織の文書管理規定(規程、基準、手順など組織によって名称は異なる)に沿って、決められていることを一つずつ定期的に確認することです。
更に重要なことは、この確認する作業は出来るだけ多くの人に分担してもらうことです。
標準文書には必ず発行部署がありますので、まずは発行部署の人に規定どおりに標準文書が管理されているかチェックしてもらいます。
次に配布部署(文書の使用部署)から広くチェックする人を選んで任命するとよいと思います。
2. 必要な資源及び情報
標準文書を作成したり、最新化したりするにはそれなりの資源が必要になります。
標準文書には、大きく分けて全社標準文書、部門標準文書、個人作業手順書の3種類があります。
① 全社標準文書
全社の規則、規律、基本的ルール、部門の役割分担、定款、株主総会、取締役会規則、就業規則、業務分掌などを定めた基本規程
② 部門標準文書
部門のルール、業務分掌を受けて、企画、営業、購買、設計、技術、品質、製造、サービス、出荷、アフターサービス、人事、総務、営繕、経理、IT、ロジステックなどの部門の業務規程
③個人作業手順書
SOP、個人レベルの仕事の手順を決めたもの
これらの標準文書を作成、管理する人は、それぞれの階層(全社、部門、個人)の業務を統括する人です。
例えば、①は全社の長すなわち社長です。
②は部門の長すなわち部長であったり、課長であったりします。
③は個人作業の長すなわち作業長であったり、係長であったりします。
また、それらの標準文書の改訂をする人も同じ人であるべきです。
そのようなルールにしてないと、標準文書を作成した当初の意図をはき違えてしまうことが起こりえます。
しかし、①の組織の長も、②の部門の長も、③の作業の長も時代と共に変わります。そこで、文書管理規定には標準文書の発行責任者を規定します。
そこに書かれている責任者は個人名ではなく、職制名であるべきです。
次は必要な情報について述べます。
標準文書も時代の変化と共に最新化していかなければなりません。
経営環境が変わると仕事のやり方が変わります。
仕事のやり方が変われば、その仕事に関連する標準文書も変えなければなりません。
これが標準文書を改訂する理由になるのですが、この変えなければならないという情報はどこから3人の標準文書統括者に来るのでしょうか。
3人の統括者は、何か情報が来るであろうと、待っているだけでは必要な情報は入ってこないでしょう。
標準文書の管理規定には、それぞれの活動にインプットを決めてありますし、インプットと同時に活動をした後のアウトプットも決めてあります。
しかし、決められたインプットは積極的に取りにいかないと良質なインプットを入手できないのではないかと思います。
管理活動はこのインプットとアウトプットの間で付加価値を付ける仕事をコントロールすることです。
この付加価値を付ける一連の活動のことをプロセスと呼んでいますが、標準文書はこの文書管理プロセスで管理されなければなりません。
3. 文書管理プロセスの監視、測定及び分析
QMSではP-D-C-Aの概念で活動を進めることを推奨していますが、文書管理プロセスのCheckについて話をします。
文書管理プロセスの活動すべてを管理、測定することはできませんので、監視及び測定をするポイントを決めなければなりません。
監視及び測定のポイント及びその方法は次のようなものです。
①その標準文書は現在使用されているか?もし、使用されていないならばその標準文書は廃棄できないか?
監視する方法の一つは、標準文書の使用頻度を監視することです。最近では多くの組織が文書をコンピュータ管理しています。コンピュータシステムに文書管理番号ごとの使用履歴、回数をログする仕組みを構築しておけば監視することができます。
もし、5年間一度もアクセスが無ければその標準文書は廃棄する、というようなルールを設けます。5年が3年か、あるいは逆に7年かは組織の実態によって決めればよいでしょう。
②その標準文書は他の標準文書と一緒にできないか?
これはコンピュータで監視できません。しかし、最近のAIならば監視できるようになるかもしれません。当面は作成者及び確認者、または使用者が監視します。
③その標準文書にヌケはないか?
これもコンピュータで監視できません。
毎月、6か月ごと、あるいは1年ごとに一定量の標準文書を指定して内容の見直しをします。
その場合、見直しする部門は標準文書の原案作成の部門であることが原則です。
管理、測定の時期は組織に委ねられます。
年度の事業計画に準じて決める、内部監査に合わせて決めるなど、事業推進と関係付けられる時期設定が、有効的に標準文書の監視及び測定をすることになります。
文書管理プロセスを監視測定の対象にする目的は、標準文書の有効性の評価にあります。
そして、文書管理プロセスの有効性評価した結果を、次の事項の再確認に用いるとよいと思います。
- a) 文書の目的
- b) 適用範囲
- c) 定義
- d) 記述内容の最新化
- e) 発行部門
その文書管理の有効性評価の記録は保持しておくとよいでしょう。
4. プロセス改善に伴う標準文書の最新化
組織は常に改善をしなければなりません。
また市場からは改善を強いられています。
改善のモチベーションは、自己の成長を欲する内からのもの及び市場から求められるものの2 つがありますが、本例は前者の動機による改善が望ましいものです。
しかし、現在は圧倒的に後者の例、すなわち市場から求められて改善をせざるをえない例が多いように思います。
改善には大きな意味で変化も含まれます。
改善するとは前の姿と今日の姿を変えることにより、従来より良い状態にすることを意味します。
かって、私の上司は職場が昨年と同じ姿であったならば、改善されていないことになると部下に変化を強く奨励しました。
もちろん、いわれのない変化はあってならないのですが、市場からは常に変化を要求されているのが今日の組織に課せられた大きな課題です。
改善とか変化は、いろいろな方法を伴って行われますが、最後に落ち着くところはプロセスの分析、評価、実践です。
市場から変化を促されているからといって、表層的な変化では市場から要求されている改善の目的は達成できないでしょう。
改善には活動の見直しが必須であり、活動(プロセス)が追加される、活動(プロセス)が削除される、活動(プロセス)の内容が変わる等の3つの変化があり得ます。
実践すなわち活動が変化しなければ改善をしたとはいえません。
このような状況においては、プロセスの改善をどのように標準文書に反映させるのかは、組織にとって非常に重要なことです。
現在の標準文書を修正で済ませることでよいのであれば、即刻修正に踏み切るべきです。
問題は新しいプロセスが誕生し、それに関する標準文書を作成する場合です。
私は新しい標準文書を作成したならば、それと同じ数の標準文書を廃止すべきであると思っています。
荒っぽい言い方ですが、そうしないと標準文書の数は増えるばかりで、標準文書の管理はその内に迷路のなかに入って行ってしまいます。
プロセスの改善に伴う標準文書の管理の要点は文書の廃止にあります。
(その1 終わり)
(平林 良人)