活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第10回 長谷川武英(その1)
2019.01.28
画一的なQMSから組織固有のQMSへ
今回のテーマは、ISO 9001:2015の箇条4に関連した変化のことです。
箇条4は旧規格の「品質マネジメントシステム」から付属書SLにより2015年版では「組織の状況」と変わりました。
この箇条4の要求事項の意図を読み取ることによって、組織の本来あるべきQMSはどのような展開になるのかについて、つぶやいてみたいと思います。
1. 画一的な品質マニュアルから組織固有のQMS最上位文書へ
いくつかの組織の2015年版の品質マニュアルを見る機会がありました。
そこで見たことは、相変わらず規格要求事項をそのままコピー&ペーストしているような品質マニュアルが少なくないという現実でした。
2015年版では、品質マニュアルそのものを作成する要求事項はなくなりましたが、やはりQMSの運用において、組織のQMSの上位概念文書は必要だと考えています。
これは、品質マニュアルという名称でなくても組織のQMSを展開するツールとしての位置づけにある最上位文書という意味です。
箇条4が、そのタイトルにも表れている通り「画一的なQMSから組織固有のQMS」と変化したのに、どうもそれに気づいてないように思えてなりません。
この要因は、ISO 9000の歴史的背景から、画一化が定着化してしまった結果と考えられます。
もともとISOは世界標準規格であり、画一化という側面はとても重要です。
初期ISO 9000シリーズの目的であった購買-供給者のツールであった段階では、画一化は取引においてそれなりの役割を果たしていましたが、2000年改訂で、すべての組織が活用できる「品質マネジメントシステム」となった時点より組織の特性に合わせたQMSに変わらなければならなかったのですが、まだ、そのことが十分に理解されていないように思われます。
2015年版の箇条4.は、「画一的なQMS」から「組織固有の状況に合わせたQMS」でQMSの出発点が変わったと私は考えています。
規格指向の発想から組織の事業指向へと発想の転換を行うことが大事なのです。
2.箇条4の4.1「組織及びその状況の理解」について考えてみます。
要求事項の“組織の目的及び戦略的な方向性に関連し、かつ、その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える、外部及び内部の課題を明確にしなければならない”を具体的な事業モデルで、私の専門性から自動車産業における部品製造業で考えてみました。
(ただし、ここでは自動車セクター規格のIATF16949ではなくISO 9001だけで考えます)
先ず、「組織の目的及び戦略的な方向性」についてですが、自動車産業は、現在すごい速さで進化しています。
それは、AI(人工知能)による自動運転が現実のものとなり、モビリティー改革「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」が進んでいることです。
自動車産業のビジネスモデルが大きく変わる改革期であり、既存の自動車部品においても、ソフトウエア組込み、各種センサー組込み等、製品の基本構造を変えなくてはならない状況が多く発生しています。
自社の製品に与える影響が何かを考え、どのような手を打っていかなければならないか、これは自動車部品メーカーにとって死活問題です。
まさに会社存続のリスクですが、同時にこのモビリティー改革は大きな事業発展の機会でもあるということです。
これが「リスクと機会」のよい事例であり、「組織の目的及び戦略的な方向性」とは、そういう変化に対して組織が向かう方向のことだと思います。
次に.「その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える外部及び内部の課題を明確に」では、前述した会社の戦略的な方向性から変革すべき組織の事業プロセスと一体化した品質マネジメントシステムにおいて、事業目標の達成に影響がありそうな組織内部の課題及び外部の課題を明確にすること、そのためには、それを検討するプロセスが何であるかを明確にする必要があります。
会社組織であれば、多くの場合は経営会議などの組織の最上位概念が、それにあたるでしょう。
では、外部及び内部の課題を決める最上位概念のプロセスが「経営会議」として、このプロセスのインプットは何なのか、どこから、どのように入ってくるのでしょう。
経営会議のメンバーすなわち、営業担当役員、技術部門(設計開発)役員、製造担当役員、購買担当役員、品質担当役員、総務担当役員(人事、予算割り付け機能を含む)、財務担当役員などの経営陣が、その役割において担当責任領域のインプットをもって会議に出席します。
多分、営業担当役員は顧客自動車メーカーからの要求、業界情報からビジネスモデルの変化の必要性、収益予測などがインプットでしょう。
技術部(設計開発)役員は、新製品の開発可能性、開発資源(設備、要員)など、製造担当役員は、製造実現性、工場設備、新製造技術など、総務担当役員は、技術要員の確保(採用、教育)の体制、財務担当役員は、設備投資予算とその資金調達などでしょう。
経営会議で各代表メンバーからのインプットが共有され,経営会議というプロセスで検討を進める結果、経営上の外部の課題、内部の課題と優先度が明確になってくるのです。
外部の課題として、顧客の要求事項への対応、資金調達、・・・・、内部の課題として、技術要員の確保、教育、製造設備変更、・・・・、製品にもよりますが、自動車産業の部品メーカーのいくつかは、このようなものがプロセスのアウトプットであり、「経営上の外部、内部の課題」ということになると思います。
次に経営上の課題を組織の品質マネジメントシステムの適用範囲で考え、QMSの中ではどのような課題になるのかということが、この要求事項の答になると考えます。一般的に、企業の財務や会計に関する領域はQMSの範囲には入れてないので除かれるでしょう。
然しながらISO 9001の要求事項に関連する部分で考えても、いくつかの課題が特定されるのではないでしょうか?
私が実際のISO 9001:2015移行審査で見た組織の課題では、「要員の高齢化」、「設備の老朽化」、「顧客のコスト削減要求」、「新技術要員の不足」等がありました。
そこで、一事例の「設備の老朽化」で考えてみましょう、この課題を解決するためには最新の設備への更新が必要です。
そのために組織は資金調達が必要になりますが、QMSの領域で考えれば、箇条7支援の7.1資源のインフラストラクチャ(新しい設備のための工程変更など)、7.2力量では製造プロセスに関連し、作業手順改訂、教育・訓練などが必要になり、「設備の老朽化」という課題に対応する計画が、QMSのプロセスの中で展開される必要が分かってきます。
このように課題が『経営上の課題→QMSの課題→関連するプロセス』と落とし込まれて展開されることで、事業プロセスと一体化したQMSが可能になるのです。
3. 最後に、4.2「利害関係者のニーズ及び期待の理解」を考えてみましょう。
ここでは密接(英文ではrelevant)に関連する利害関係者はだれかを明確にしなければなりません。
資金調達ということであれば銀行なども密接な利害関係者になるでしょうが、QMSの領域で考えた場合一般的には、顧客を筆頭に顧客以外の外部供給者すなわちサプライヤなどのビジネスパートナー、役務提供者(設備保守業者、運送業者など)、出資者(株主等)、監督官庁、地域住民、従業員とその家族、製品を使うユーザーなどでしょう。
ここでは、それらの密接な利害関係者からのニーズと期待から課題として特定すべきものが出てくるかも知れません。
以上のように箇条4の4.1と4.2の要求事項を読み込むと、その意図が組織固有のQMSの出発点になっていることが分かります。
規格指向の画一的なQMSから事業指向で組織固有のQMSに変革してゆくことが、本物のQMSになるのだと私は考えています。
以上
(長谷川 武英)