活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第3回 村川賢司(その2)
2018.12.03
品質問題を考える(その2):プロセスで品質を作り込む
前回のメルマガでは、「品質管理は同じ過ちを二度と繰り返さないこと」、そのために「経験を事実・データで次の仕事に活かすこと」が大切であるという視点から、健全な企業文化を育むTQM(総合的品質管理)の役割、品質保証体系図などの重要性に光を当てました。
今回のメルマガでは、QC的ものの見方・考え方として重要な「プロセスで品質を作り込む」という視点から品質問題に触れたいと思います。
■免振・制振装置の数値改ざん
「納期に間に合わせるため」などの理由で、国土交通省の基準や顧客との契約基準に適合するようにオイルダンパーの性能検査データを書き換えて出荷していたという品質問題が発覚しました。
十数年にわたり数値が改ざんされていたという報道には驚きを禁じ得ません。
人身事故には至っていませんが、不適合製品が使われた建造物の全容は明らかでなく、またダンパーの交換作業も長期化する様相など、不安を抱く方も多いと思います。
この結果、赤字転落など業績に多大な悪影響を及ぼし経営責任も問われそうです。
■プロセスで品質を作り込む
品質管理では「プロセスで品質を作り込む」ことを重視しています。
これを読み解くと、仕事には必ず目的があり、この目的を達成するためのプロセスを確立し、良い結果を得ることが要になります。
そして、プロセスの結果である製品・サービスが次のプロセスへと引き渡されます。
次のプロセスには、仕事の結果を引き継ぐ部門などの内部顧客の場合もありますし、最終的には企業の直接顧客、使用者、利用者、社会などが相当します。
前回のメルマガでご紹介した品質保証体系図は、「プロセスで品質を作り込む」ことを、「後工程はお客様」という考え方のもとで実現するための仕組みと言えます。
■プロセス保証
工程能力が不十分であったり、検査データを改ざんしたりして、不適合な製品・サービスをプロセスの結果として顧客に提供したら顧客価値(製品・サービスを通して、顧客が認識する価値)は生み出せません。
そのため、プロセスの結果の良し悪しを何らかの特性で測定し、傾向を見たり、規格と対比したりして、正常か異常かを判断します。
正常ならばプロセスを維持します。
異常を発見したら、応急処置をし、同時に、原因追究に基づく再発防止策を標準化してプロセスを改めます。
このプロセスを順守して作業できるように教育・訓練し、異常が再発しないことを確認します。
検査員が、データを改ざんして不適合な製品・サービスをもし流出させてしまったのならば、異常の原因を追究し再発防止するというメカニズムが働かず、正しいプロセスに改められません。
その結果、不適合な製品・サービスを出し続けることになり、データ改ざんも繰り返されるのならば、品質問題は止まりません。
至極当たり前のように思えるプロセス保証のメカニズムを理解し実践できる企業文化の形成は一朝一夕では難しく、体質改善には時間を要します。
■後工程はお客様
最後の砦とも言うべき検査段階でデータを改ざんしてしまった免振・制振装置の品質問題は、「後工程はお客様」というQC的ものの見方・考え方を、実務で実践することの難しさを示唆しています。
「後工程はお客様」は、後工程に対する仕事の品質保証を各プロセスが連鎖的に実現していくことによって、最終顧客の満足を達成することを意図しています。
しかし、製造現場の作業員に「あなたの仕事は最終顧客にどんな顧客価値を提供しているのですか、あなたの仕事の品質が保証されないとどのような顧客価値が失われますか」と質問しても、すぐ答えられない場面に遭遇します。
中間工程では真の顧客(特に、最終顧客)が見えにくいことが影響しているようです。
メルマガで今回取り上げた品質問題の場合も、検査員は自らの仕事に関する顧客価値を見失っていたのかもしれません。
ですから、従業員一人ひとりが常日頃から次のことを自問自答してほしいと思います。
Q:真の顧客(特に、最終顧客)は誰ですか?
Q:その顧客は当社の製品・サービスの何に価値を見いだして購入しているのですか?
Q:当社又は私が提供している顧客価値は具体的には何ですか?
Q:その顧客価値を提供するための組織能力として何が必要ですか?
Q:顧客価値を提供する上で組織能力は充足していますか? 課題は何ですか?
これらの自問自答から、自らの立ち位置を見出して自律的になすべきことを決め、対処できる企業文化をDNAとして企業に埋め込まないと、「後工程はお客様」という考え方の本質的な実現は難しいかもしれません。
■経営トップと第一線職場との距離感
以上2回にわたり建設業の喫緊の品質問題を取り上げました。
建設現場の火災事故、出荷検査のデータ改ざんといった第一線職場における品質問題は、経営トップと第一線職場との距離感を感じさせます。
持株会社や分社などで重層化しつつある企業の経営トップは、製品・サービスの品質を作り込んでいる第一線職場で起きている実情を実感として認識しきれていないのではという危惧を抱きました。
TQMは、方針管理や日常管理における重要な仕組みとして、経営トップによる現場診断の実施が組み込まれています。
第一線職場での品質作り込みの実情を知ること、またQCサークル活動などの改善事例報告を聞いて従業員の問題解決能力や第一線職場で今起きている問題を自らつかむことが重要と思います。
私の会社では、経営トップが少人数のスタッフを連れて作業現場を巡回しています。
経営トップが作業員と直接会話し、第一線職場の良さも悪さも肌で感じる場が大切と考えているためです。
経営トップは第一線職場の実情を知り、第一線職場の人々は経営トップの考えを知る、相互学習の場になっています。
経営トップが第一線職場を訪問して組織に揺らぎを与えることで、いろいろな気づきが生まれ、問題意識の高い人を育てる機会としても有効です。
多忙であっても経営トップが第一線職場の実情に直接向き合う場は、「プロセスで品質を作り込む」上での問題を摘出して本質的な解決を導くように思います。
■持続的成功を支えるTQM
私の会社は、安全にかかわる重大災害という品質問題を契機にTQMへの取組みを始めました。
この実践で学んだことは、持続的成功を支える経営の道具がTQMということでした。
現在、大変革の時代を迎えており、グローバル経済の中で経営破たんや経営統合などで大企業でさえも再編が進みつつあります。
私の会社も幾度か経営危機に直面しました。
これらの危機を乗り越えて、今に生き続けている理由を考えると、
第一は、創業理念を踏み外さないという、経営トップのポリシーが揺るがなかったこと。
第二は、経営トップのポリシーを実現する経営の道具を活用したこと。
経営の道具としてTQMが大きな役割を担いました。
私の会社が日本品質管理賞(現デミング賞大賞)を受賞した1995年の売上高は、ゼネコン第二グループのほぼ真ん中の位置でした。
20年後、バブル崩壊やリーマンショックを経験した2015年では第二グループの上位の位置にあります。
それだけなく、第二グループで競合したゼネコンの約2/3が経営統合・経営破綻・再建などで経営トップが退陣し、私の会社など少数しか経営の健全性を保てませんでした。
この実態に身を置いた今、TQMは健全な企業文化を育み、企業の持続的成功を支える経営の道具であるとの思いを深めています。
(村川 賢司)