活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第2弾 第1回 丸山 昇
2018.11.19
2016年に連載をしました、超ISO企業研究会メンバーによる、品質経営に関するつぶやき、
これからしばらくの間、第2弾としてお届けします。
トップバッターは、
「ISO運用の“大誤解”を斬る! -マネジメントシステムを最強ツールとするための考え方改革」
でも誤解1のトップバッターとして登場した丸山昇です。
以下からどうぞ。
“大山鳴動して鼠一匹”といったら、汗水流して頑張った関係者の方たちには怒られてしまうかも知れませんが、終わってみた、全体としての実感です。
これは、“今回は3年間の猶予を与えるから(いままでは2年間)、あなたの会社のマネジメントシステム(以降、MSと言うこともある)も、もっと事業活動と一体化して、パフォーマンスが向上するようにしてください”と投げかけられた今回のISO9001などの規格大改訂のことです。
今回の改訂の大きなねらいは、ご承知のように、「あなたの会社の外部や内部の状況をよく把握して、そこから生まれるリスク/機会と、これに対する取り組みを決めて、これをマネジメントシステムの中に埋め込んで運用して下さい」ということでした。
この改訂に対する反応は二極化していたと言って良いでしょう。『普段からしっかりとやれている組織は、別に大改訂でも何でもないから何もやらなくて良いのだ』と言う派、一方では、『これはマネジメントシステムを見直して強化する最大のチャンスだ』とシステムの改善・改革を推奨する派。
何もやらない派と、改革を進める派、言っていることは正反対のようですが、でもよく考えると両方とも当たっているかもしれません。もともと優れたMSを構築して、パフォーマンスも高い組織であれば、変わった規格に無理やり合わせて自社のしくみを変えることは得策ではないでしょう。
多くの大手や中堅の企業では、経営スタッフがいて、この人たちによって経営のビジョンや中期計画、年度の方針が立案されています。
この時に、外部・内部の状況をつぶさに分析し、その中に潜むリスクや機会を考慮して、会社の重点課題(取り組み)が決められています。
ISOに言われなくても、当然にやっていることであり、きっとそれを変える必要もないことでしょう。
リスクや機会を、それぞれのMSに限定して考えるよりも、組織の経営全体として考えた方が、はるかに効率的に、的確な取り組みが決定できるはずです。
経営レベルで決めた取り組みと、当該マネジメントシステムの取り組みの関係が説明できればそれで良いだけです。
でも、結局は、何もやらないのだから、何も変わりません。
さて、中小企業ではどうでしょうか?
多くの中小企業は、社長の強いリーダーシップで経営がされています。
新規格の、4.1項、4.2項、6.1項で要求することは、規格で言われなくても、社長がいつでも考えていて、そのことは、例えばISOの審査員が社長に聞けば、いくらでも話をしてくれます。
そして、その社長の話は、毎日のように、いろいろな場面で、いろいろな表現で言い聞かせ、社員は耳にタコができるほど聞いて、社長の言うように取り組んでいます。
規格は、文書化を要求していませんから、それでも良さそうです。
ところが、『普段からしっかりとやれている組織は、別に大改訂でも何でもないから何もやらなくて良いのです』の、頭の言葉『しっかりとやれている組織は』がいつの間にか消えてしまって、『別に大改訂でも何でも無いから何もやらなくて良い』が、一人歩きをしてしまいます。
これも、結局、何もやらないのだから、何も変わりません。
という多くの対応を見た感想が、冒頭の言葉だったわけです。
もちろん、それは「多くの」ということであって、その中でも、この改訂を機会ととらえて前向きに取り組んだ組織もたくさんあります。
そんな例をひとつご紹介しましょう。
ある中小企業では、まさに、前述のような典型的な強いリーダーシップを発揮する社長のいる会社でした。
社長は、時々、言うことが正反対の事を言うこともあります。
それは経営者であれば、ある程度当たり前のことであり、長い目で見た時の言動と、目の前のことの火消しをする言動が、一見矛盾するように見えるだけなのですが、社員にはなかなか理解できません。
管理責任者は、今回の改訂を利用して、社長の考えていることを整理して、可視化してみようと思いました。
ISO規格の追加要求となった、4.1項、4.2項、6.1項の流れを、「会社の方針・戦略→自分の会社の大事な能力を特定→この能力に影響する外部及び内部の状況の把握→この状況から予測されるリスク・機会の特定→取り組むべき課題や実施事項の決定」と、一覧できる「組織の状況表」にまとめてみました。
もちろん、社長と一緒になってです。
そのために、内部監査の時は、社長と監査員との面談の時間も取り、社長へのヒアリングもしました。
結果として、社長も、自分の言いたかったことが明確に出来て、しかも、マネジメントレビューの機会には、これを見直しすることが出来ると、大満足です。
社員も、自分たちのやらなければならないことが明確になり、それがISOの枠組みの中で、一貫して取り組めると言うことで、仕事がやりやすくなりました。
と、このように書くと、なんだISO規格の通りのことを一覧表にしただけではないか、それならうちでもやっているよ、という声が聞こえそうです。
でも、大事なのは、次の2つのねらいが果たされるかどうかなのです。
1. 経営者(層)と社員との考え方や取り組み方が共有されている
2. “会社が良くなり事業を継続させる”という方向にフォーカスされた取り組みになっている
上記の1については、すでに述べた通りですが、この管理責任者の違ったところは、2についての取り組み方です。
着目したのは、規格でもつい読み飛ばされている「能力」という言葉です。
ここを意識せずに読んでいくと、例えばISO9001では、自社の様々ある外部・内部の状況とリスク/機会の中で”品質”に関連することに限定すればよいと、ざっくりと理解されていることが多いのですが、この管理責任者は、ISO9001QMSの意図する結果は事業を成功させることであると考え、「能力」というのは「当社の競争力となる能力」と捉えたのです。
そのようにして作られた「組織の状況表」は、当社の具体的な、真に重要な取り組みが特定され、俄然、活き活きとしたものとなり、まさに事業活動と一体化したQMSとなりました。
さて、これは中小企業だけの話でしょうか?
大手・中堅の組織は、確かに会社全体の大きな取り組みは、専門の経営スタッフによって作られ、素晴らしいものができています。
しかしながら、実際の事業は、事業部であるとか、さらにその下の部門によって運営がされています。
この事業部では、独自の事業環境があり、独自の大事な「能力」があり、これに影響するリスクや機会があります。
その構造は、中小企業の持つものと同じであります。むしろ、事業部門単位そのものが中小企業と考えた方がよいかもしれません。大手・中堅の組織の、各事業部門については、この例で挙げたような取り組みを導入することで、さらに効果的なISOの運用につながることが期待されそうです。
さて、 “大山鳴動して鼠一匹”は、やっぱり言い過ぎでしたね。
いま改めて冷静に見てみると、鼠一匹どころではなく、きらりと光った駿馬もでてきました。
前向きにとらえ努力した会社と、安易に楽をしようとした会社の違いは、これから先の結果として出てくるのではないでしょうか。
2015年の改訂を、「大」改訂ととらえて、これを「機会」とした会社、あるいはこれから「機会」としようと取り組もうとしている、そんな風土を持った組織は、これからも発展する会社であり、事業部であるような気がしてなりません。
新規格は、あらゆる意味で、これから組織の努力次第で、いくらでも役に立てることが出来る枠組みを与えてくれたのではないでしょうか。
とりあえず移行が落ち着いたいま、これからは、この新規格の枠組みを利用して、どのようにマネジメントシステムを再構築していくか、楽しみなところです。
(丸山 昇)