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昨今の品質不祥事問題を読み解く 第24回 様々な不祥事に遭遇し改めて思うこと (3)信頼の条件  (2018-10-29)

2018.10.29

 

不祥事シリーズの中締めの最後として「信頼の条件」という話題を取り上げます.

 

 

■「信頼」とは何か

 

「信頼」という言葉を聞くと,品質管理や信頼性管理に造詣の深い方,あるいは技術者一般は,工学分野での「信頼性」という用語を思い起こすことでしょう.

 

今回考えたいのは,工学的な対象についての「信頼性」,壊れない,長く使える,厳しい条件でも機能する,壊れてもすぐに直る,というような意味での「信頼性」,時間と使用環境条件の関数としての品質とも言える「信頼性」についてではありません.

 

「信頼」とは,私たちが考慮の対象に対して持つ感覚です.工学的意味での「信頼性」が高くても,それを信頼するとは限らない,そのような感覚です.例えば,原子力発電はかなり高い信頼性を持っていますが,福島事故やそれ以前の様々な事案ゆえに,信頼していない人が多くいます.

 

信頼性が高いということは,考慮の対象が,与えられた条件のもとで,与えられた期間,要求機能を遂行できる能力が高いということです.

ところが,「与えられた条件」は,必ずしも私たちが想定する条件ではありません.

「与えられた期間」は,必ずしも私たちが期待する期間ではありません.

「要求機能」は,必ずしも私たちが想定している機能ではありません.

これが,「高信頼性」が「高信頼」とは限らない理由です.

 

「信頼」とは,文字通り,「信じて頼る」ことです.

矛盾するようですが,「信じる」のは,不信感があるからです.

絶対の真実というものは,信じるまでもありません.

それは信じる対象ではなく理解する対象だからです.

何かを信じるのは,何らかの意味で疑問,不信,不安があるからです.

例えば,自分の能力に自信がないが,だからこそあえて大丈夫だと信じる,なんてことはないでしょうか.

ということは,「信じるとは,期待すること」と言えるかもしれません.

頼る相手はいろいろです.

人,組織,システム,機械など,いろいろです.

その相手とは,何らかの「やり取り」が想定されます.

だから,頼るのです.

 

現代社会には様々な機会,システムが存在します.

あなたはPCを信頼しますか.

あなたは携帯電話システムを信頼しますか.

自動運転システムはどうですか.

従来は,信頼の対象(機械,コンピュータ)が悪意をもってこちらを搾取しようなどという意味での「意図への信頼」を考える必要はなかったように思います.

工学的な意味での信頼性を主要な考察対象にしていれば済みました.

しかし,AIの可能性が語られ,完全自動運転システム開発へのシナリオが議論されるにつれ,この「意図への信頼」が重要になってきているように思います.

 

 

 

 

■リスク管理組織に対する信頼

 

前置きが長くなり過ぎました.不祥事に関連して,組織に対する信頼,組織のリスク管理に対する信頼について考えてみたいと思います.

 

組織がリスク管理に関する信頼を獲得するための正攻法は,

 

  • 組織が安全・コンプライアンスに関わる実績を積む
  • その実績を人々に伝える
  • その実績を人々が理解する
  • 人々がその組織を信頼する

 

というステップではないかと思います.

 

しかし,残念ながら,そう簡単にはいかないだろうと思われます.

実際,わが国の食中毒死亡者数は着実に減少しています.

実態として食の安全は向上していますし,現代日本が豊かな食生活を享受していることは世界的に知られています.

しかしそれでも,食の安全・安心が問題になっています.

 

日本人の平均寿命は,男女とも世界の上位にあり,今さら言われるまでもなく,日本が世界有数の長寿国であると皆知っています.そして,長寿は食や医療など安全環境で決まると多くの人が考えています.それなのに,食や医療の事業者への信頼が問題になっています.

 

こうしたことから,実績→その伝達→理解→信頼という正攻法はうまく機能しない,少なくとも単純に効能があるとは言えそうにありません.

なぜ実績が信頼につながらないのでしょうか.

それは,事業者や専門家が信頼の基盤と考えることと,この実社会の人々の信頼の基盤がずれているからに違いありません.

 

 

 

 

■信頼の条件

 

社会心理学のこれまでの研究の知見によると,「信頼」を構成する条件は2つあるとのことです.

第一は,「能力(competence)」です.専門知識,技術,経験,権威など,当該分野に必要な専門性を備え,高いレベルにあると認められていることです.

第二は,「動機づけ(motivation)・意図(intention)」です.

動機とか意図とか意味が分かりにくいかもしれませんが,誠実に振る舞う意図,公正さ,説得しようという意図のなさ,ということです.

「魂胆がないこと」,「邪な意図がないこと」というような意味です.

 

社会心理学研究の成果は,これまでの様々な事案に関連して,「信頼」がこの2つのモデルで,かなり説明できることを示しています.

確かに,専門性が高ければ,その言動が正しいだろうと信じ頼ることができそうです.

でも,そうした言動に,なんら下心がないことが重要だというのです.

しかも,興味深いことに,専門性が高ければ高いほど,意図・魂胆が見て取れると,信頼感は極端に落ちるということで,なるほどと思います.

優れていると言われる人が何か言うと,感心して「そうだよな」と信じたくなりますが,何らかの魂胆があってそう言っていると分かったとたんに,とんでもない悪人だということになり,発言のすべてを信じなくなります.

 

最近の研究では,これら2つだけではなく,「主要価値類似性モデル」というのがあるそうです.

「主要価値(salient value)」というのは,ある問題・課題に対処するとき,その問題・課題をどのように見立て,何を重視するかという価値観・価値基準のことです.

私たちが,様々な判断や意思決定をする際の価値基準が似ていると感じると,その相手を信頼する,ということです.

これも納得できます.

たとえ異なる意見を唱えていても,その基盤,背景にある考え方を共感できると,その人を信頼するということがあると思います.

 

信頼の条件としての,「専門性」,「意図・魂胆なし」,「価値観共有」の3つは,心にとめておいてよい有益なものの見方と思います.

 

信頼が低下してしまっている組織ほど,信頼は価値を共有しているという認識が重要であると考え,専門的な知識や技術力を振りかざしても信頼回復にはつながらないことを理解すべきです.

そして,同じ目線に立って,思いを共有していることを確認し合えれば,信頼は回復し,コミュニケーションは改善するだろうと考え行動すべきです.

 

 

 

 

■信頼回復のために

 

信頼回復のための方策として,同志社大学の中谷内一也教授が提唱する「自発的運命共有化」をご紹介しておきます.

ひと言で説明するなら,「もし,市民側がある被害を受ければ,事業者側も同様の被害を受ける状況に,自分の意思で身を置くこと」という対応策です.

 

中谷内教授は,「原発事故のあと,住民の健康管理に携わる専門家が,自分の意思で被災地に移住し,住民と同じ生活を送ること」という例で説明しています.

まず,自ら申し出ることで,誠実であると思われ,妙な意図・魂胆がないと受けとめられます.

また,被害を受けずに済むから自ら申し出ることができるのだろうと解釈され,専門性の高さを認めてもらえます.

そして,同じ生活を送るということで価値観を共有できると認めてもらえます.

 

先生は,実際,以下のような想定状況に市民がどう感ずるかを検証しています.とても面白いので要約して紹介しておきます.

 

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東日本大震災に伴う福島第一原発の事故により,多くの地域住民が放射線に被ばくし,その悪影響を心配している.被ばく医療を専門とし,西日本のある大学の医学部で働いていたA教授は……

 

①自発的運命共有化条件

自らの意思で福島に移り住んで医療活動を始めた.元の医学部を辞め,福島県内の医療研究機関で働く道を選び,住民票も福島に移しての完全移住だった.教授の移住は,自らの意思による自発的なもの.

 

②受動的運命共有化条件

周囲に促されて福島で医療活動を始めた.本人は移住を避けたかったが,関係者から強く要求されたため,元の医学部を辞め,福島県内の医療研究機関で働くこととなり,住民票も福島に移して完全移住した.教授の移住は,周囲の圧力によるものであり,自発的なものではなかった.

 

③非運命共有化条件

福島で医療活動を始めた.ただ,本人は福島へ移り住むことはせず,必要に応じて福島県内の医療研究機関に出張して業務を行い,それが終わると速やかに地元に帰っている.

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この3つの行動パターンに対し,どのような信頼感を持つと思いますか.

①(自発的運命共有)は信頼され,③(非運命共有)は信頼されないことは自明と思います.

興味深いのは,②(受動的運命共有)が,③より少しはましですが,同じくらい信頼されないということです.

 

ここから示唆されることは,信頼回復のためには「誠実な対応を早期に自発的に申し出る」べきということでしょう.

そして,外圧を受けてからの受け入れは,信頼回復の面からは,効果がないということです.

 

いわゆる「リスク対応」において,火に油を注ぐような劣悪な対応をしてしまう会社がありますが,他山の石としたいと思います.

 

こうした,組織の運営管理に関わる「信頼の条件」についての常識を熟知し,それを実行できる会社が不祥事を起こす可能性は相当に低いだろうな,と思います.

 

(飯塚悦功)

 

 

 

 

 

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