超ISO企業研究会

最新情報

メルマガ⑦ 昨今の品質不祥事問題を読み解く

昨今の品質不祥事問題を読み解く 第23回 様々な不祥事に遭遇し改めて思うこと (2)Profession  (2018-10-22)

2018.10.23

 

 

不祥事シリーズの中締めの2回目として「Profession」という話題を取り上げます.

 

 

■JAB行動憲章

 

私はいま,JAB(公益財団法人適合性認定協会)の理事長(非常勤です)を務めています.

就任して2年4ヶ月余りになります.JABには「行動憲章」があります.

JABに奉職して間もなく,熟読玩味しました.

いや,したつもりです,というのが正確です.

 

ここで,そのとき熟読玩味した内容をお伝えするつもりはありません.

でも,何が書いてあるのか興味を持つ方もいらっしゃるでしょうから,引用しておきます.

 

 

========================================================================

JAB行動憲章

 

現代社会における財・サービスの提供という経済活動には,顧客からの明示的な要求事項を満たすことに加えて,安全であること,健康に危害を及ぼさないこと,環境保全に配慮していること,公正な経済行為を推進していることが求められている.

この求めに応じるためには,種々の経済活動のプロセスやその結果を正しく且つ客観的に示す事(適合性評価)が不可欠である.

 

適合性評価の制度は社会からの信頼を得ていることが必須であり,このために,適合性評価を行う機関の能力を公平且つ公正に検証し,評価する認定機関の使命は重要となっている.

我が国において,第三者適合性評価制度(以下「本制度」)の中核として民間分野で創設され発展してきた,公益財団法人日本適合性認定協会は,この使命を全うするため,この前文を含め,行動憲章を以下の通りに定める.

 

本協会の役職員,認定審査員,委員会等の委員は,

1.      本制度が,我が国の安全・安心,健康,環境保全,公正な経済活動を支える社会基盤としての重要な

構成要素であることを強く認識し,本制度への信頼性を維持し,向上することを至高の命題として

行動する.

2.      本制度の真の顧客である社会の利益を重視し,社会全体の視野をもって考え,行動する.

3.      公正・公平であることを第一義とし,他からの不当な影響を排除し,独立性を確保する.そして

自らの活動に対しては透明性確保に努め,説明責任を果たす.

4.      社会一般との対話に努め,独善を排し,協調を旨とし,革新的に行動することを通じて,その良識を

社会に示すことに努める.

5.      本制度の中核であることにふさわしい,幅広い知見と経験を有する職業専門家集団として,能力向上に

努め,誠実に行動する.

6.      すべての活動において,法令を遵守する.

7.      国際基準との整合に努め,国際基準を遵守する.

========================================================================

 

前文の第一パラグラフで,適合性評価制度の必要性に言及しています.

そして第二パラグラフで,その精度の「信頼性」,認定機関の「使命」について触れ,その使命を全うするために,7つの行動憲章を定めるとしています.

この7つの行動憲章を通読し,「社会基盤」,「制度の信頼性」,「社会の利益」,「独立性の確保」,「透明性・説明責任」,「良識を示す」,「職業専門家集団」,「法令遵守」,「国際基準遵守」などの表現に引き付けられました.

 

 

 

 

■Profession

 

そして,“Profession”という用語を思い出しました.

辞書には「知的職業(弁護士・医師など)」とか,「(一般に)(専門的)職業」というような意味が書かれています.

しかし,これではこの用語の正確なニュアンスは伝わりません.

かっこ内にある「弁護士・医師など」が本質的です.

 

 

欧州において“Profession”と呼ぶ3つの特別な職業がありました.

Religionist(宗教),Lawyer(法律),Medical Doctor(医療)です.

これらの職業に共通の側面として,第一に「重要性」を挙げることができます.

宗教は人の信仰に関わります.法律は社会の規則に関わります.

医療は人の生命に関わります.第二に「正しさ」を挙げることができます.

いずれの職業も公正性,正統性が要求されます.

第三に「自治」を挙げることができます.

ある意味では人を「支配」することができますので,自ら治めること,自らを律することが期待されます.

 

例えば,Lawyerの代表である「弁護士」について言えば,弁護士会を組織し,資格審査を経た全員が加入し,「自治的懲戒制度」をもっています.

すなわち,自らの職業団体のなかに懲戒制度があり,弁護士にあるまじき行為をした者を懲戒する,ときに資格を剥奪し,弁護士会から除名し,弁護士という職業を奪う仕組みができています.

稀ではありますが,そのような例を記憶されている方もいらっしゃることでしょう.

 

医師も,医師会を組織し所属します.

わが国の医師会は,弁護士会のような機能は有してはいません.

本来は,苦情対象医師の調査,再教育,免許停止・取消処分などを行うことができるような団体にすべきと思います.

 

 

Professionと呼ぶべき職業では,資格認定制度を構築し,資格基準を作成し,評価し,また育成プログラムを持つのが普通です.

Professionに期待される能力像・属性,例えば,倫理観・価値観,基本的能力・特徴・性質,専門性などを明確にし,自律性,自治を要求し,育成・評価・維持の機会を設け,また相互啓発,意見交換,共済,使命感共有など,情報や価値観共有の場を設けます.

そして,自律的ガバナンスの場を設計・運用し,必要に応じ,調査,処分などを行います.

 

 

さて,適合性評価に関わる専門家,認証・認定機能を担う専門家をProfessionと呼ぶべき存在に近いと言ったら言い過ぎでしょうか.

人を裁いたり,命を左右したり,信仰の介添えをするほどの,大した影響は与えていないと言い切れるでしょうか.

適合性評価,認証・認定の評価結果に踊らされる人々に対して,どちらに転んでも大勢に影響はない,と済ましていられるでしょうか.

私は,かつて大学にいて学生の教育をしていました.

何を教えようとどこ吹く風の学生もいましたが,ときにその一生を左右する影響を与えることがあって,ことの重大さに恐ろしくなったこともありました.

 

適合性評価における評価に関わる職業に携わる者は,自らの思考・行為・判断の影響に,どれほどの恐れを感じるべきなのでしょうか.

行動憲章を読みながら,そんなことを思ってしまいました.

 

 

 

 

■職業・業務への忠誠心,そして品質意識

 

この“Profession”意識を,もっと広い範囲の職業に就いている方々に持っていただくことは可能だろうか,と夢想してしまいます.

 

上述しましたように,私は,大学の教師として少しは感じました.

ソフトウェア品質技術者の研究会の代表に祭り上げられているときにも,ソフトウェアというものの影響の大きさを再認識し,この分野に関わる技術者は,自身が“Profession”と言える職業に従事していることを再認識すべきと訴えたことがあります.

実際,現代の製品の機能・性能,フィーチャーの多くがソフトウェアの出来に依存していますし,この経済社会システムの相当部分が超巨大ソフトウェアで支えられているという現実があります.

 

いかなる職業に従事している人も,量的・質的レベルに相違はあれ,何らかの社会ニーズに応えるために設立した組織に所属し業務に従事していると言えます.

ニーズに応え得る「価値」を提供していると認識できれば,提供するものが“まとも”なものでなければならないという感覚を持ってもおかしくはないはずです.

こういう忠誠心や誇りをもって,自らを律するような職業観を持つことはできないのでしょうか.

 

むかし,ある建設会社で,協力会社の従業員が,自分の息子に「あの橋はお父さんが作ったんだよ」と言ったという美談を聞きました.

もちろん,一監督者して橋の建設に加わっただけなのですが,「お父さんが作った」という表現に,心を込めて建設に加わり自己の業務責任を果たしたという感覚が現れているなぁ,と思いました.

この人が何らかの管理・監督を担当したとして,よもや基準外を基準内に変えてしまうことはしないだろうと確信できます.

 

ある工業製品の設計・製造・販売会社の品質保証部長が,上から横から,陰に陽に,様々な圧力がかかろうとも,自身に与えられている出荷停止権を毅然と発動し,「○○の名(会社名です)にかけて恥ずかしいものは世に出せない」と一歩も引かなかったことを,身近で経験したことがあります.

別に,誰かに意地悪をするとか,自分に大きな権限があることを見せびらかしているわけではあません.

業務への忠誠心,権限の意義の理解と実行です.

 

 

私は,ときどき品質向上プロジェクトの共同研究を行いますが,「品質」というのは正しいことを行うための優れた概念だと強く感じます.

速く作る,沢山作る,安く作るということより,「質の良いものを作る」ということの方が根元的だし,多くの人々を正しい思考・行動様式に導くのではないかと思うのです.

実際,品質改善に取り組むグループが担当する製品・サービスの品質は良くなりますが,それ以上に真っ当な人間が出来上がるような印象を受けています.

 

市場ニーズの激しい変化,技術革新,新たなビジネスモデル,そしてメガコンペティションと呼ばれる国境を超えた激しい競争のなかで,ホンモノ志向,真っ当な意味での品質を追求する会社が不祥事を起こす可能性は相当に低いだろうな,と思います.

 

 

次回(最後になります)に続けます。

 

(飯塚悦功)

 

 

一覧に戻る