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メルマガ⑦ 昨今の品質不祥事問題を読み解く

昨今の品質不祥事問題を読み解く 第16回 不祥事を防ぐために何が必要か?(1)  (2018-9-3)

2018.09.03

 

5月から続けて参りました本シリーズ、いよいよ最終ステージに入ります。

今回から2回ほど、不祥事を防ぐために何が必要か?と題してお話ししていきます。

 

 

1.はじめに

 

 

本品質不祥事シリーズのメルマガ内で既に述べられていますとおり,異なる業種・業態の大企業において「品質不祥事問題」が発生しております.

企業は違えど,これら多くの「品質不祥事問題」の大きな共通点の一つは『標準通りに業務を実施していなかった』という点であると思います.

 

しかも,その製品分野において固有技術的に非常に高度で未知な領域で起こった問題ではなく,既に技術的にはわかっていて,作業内容自体の難易度はそれほど高くない作業で起こっているという事実は何を意味しているのでしょうか.

 

今回と次回では,このような観点から「品質不祥事問題」に対してどのような対策を取ればよいかについて,筆者なりに掘り下げてみたいと思います.

 

 

 

 

2.基本動作の徹底に対する誤った解釈,アプローチ

 

 

『標準通りに業務を実施していなかった』ということですから,基本的にはQMSやTQMの基本である日常管理,ISO9001で言えば基本動作の徹底がなされていなかったということになります.

しかしながら,このような問題が発生した企業はいずれも名の知れた大企業であり,しかも品質管理やTQMについてそれなりに力を入れてきた,または自他ともに認めるところです.日常管理はTQMの基本中の基本であるので,それがまったくなされていない,というのはにわかに信じられません.

この裏には,まず基本動作の徹底に対する誤った解釈,アプローチがあるかと思われます.

以下に2点ほど説明します.

 

1点目は,「標準の不遵守を個人の問題だと捉えている」ことが少なくないように思います.実際に,ある組織で起きた不具合のうち,手順の不遵守に関わるものを分析したところ,以下のようなことがわかりました.

 

○そもそも標準を知らない

→どのような標準があるかを知らせる(文書管理の仕組み)

○標準の内容を間違って教えられていた

→標準に基づいた教育の仕組み構築,文書管理の仕組みの改善

○標準を守ろうとしなかった

→標準を守ることの重要性,意義の教育

→組織風土の醸成

○標準を守ろうとしたが,守れなかった

・守りにくい手順であった               →遵守しやすい手順へ

・ヒューマンエラーがあった           →エラープルーフ化の対策

・スキル不足であった                      →教育の仕組みの改善

・作業環境が不適切であった           →作業環境の改善

 

第1に,“そもそも標準を知らない”ことが原因として挙がりました.

この背景には,自組織,自部署内にどのような標準があるかを容易に検索・閲覧できない状況があることがわかりましたので,組織内の手順書を一元的に管理する文書管理の仕組みに問題があったことが原因だと考えられます.

 

第2に,“標準の内容を間違って教えられていた”とは,当事者が先輩から標準ではなく,その先輩流のやり方を教えられ,その通りに実施したけれども不具合が起きてしまったという事例です.

この場合,標準に基づいて教育が適切に行われていなかったことが原因となります.

また,標準と実際の先輩のやり方が一致していないことも問題です.

 

第3の原因としては“標準を守ろうとしなかった”というものです.

これは,標準を守らなければならないという点は伝えているものの,その標準を守ることの重要性(守らないことによって起こりえる危険性なども含めて)を教育しておらず当事者が意図的に守ろうとしていなかった場合と,当事者に限らずその部門では標準を守らないことが常習化しており,標準を守らなくてもよいという風土,雰囲気があったという場合の2つがありました.

 

第4の“標準を守ろうとしたが,守れなかった”ことに当てはまった事例が一番多かったのですが,その詳細を見てみると“守りにくい手順であった”,“ヒューマンエラーがあった”など4つの原因が挙がりました.

とりわけ,“守りにくい手順であった”という点に関しては,とりあえず作業者のほうに問題があると必ず考え,“次からはちゃんと守りなさい”という対策が少なくありません.

しかし,作業者は守ろうとして守れなかったのであり,これではまた再発してしまうでしょう.

 

以上から,これらはいずれも個人の問題ではなく,会社の仕組みの問題であると捉えるべきことです.

                                                                                                     

2点目は,「基本動作を徹底させることに対する軽視」が挙がられそうです.

作業内容的に難しくなく,それを日々同じ作業をやることは簡単であるため,そこにそこまでの手間をかけるのであれば,今直面している最先端で技術的に困難な問題に取り組んだほうが良いという認識です.

しかし,本当にそうでしょうか.

作業者は変わることがありますし,同じ作業者でも毎日同じパフォーマンスは出せません.

設備も使えば使うほど劣化していきますし,作業量や温度・湿度等の作業環境も変動しています.

電車通勤の場合で言えば,同じルートをたどったとしても同じ時間に会社に着けるとは限りません.

信号トラブル,人身事故,悪天候による影響,自宅を出る時間の誤差などの多様な変動がある中で,会社には365日,決められた時間に遅刻無く到着しておかなければなりません.

実際に,2日連続して遅刻したら社会人としてほぼNGとなるでしょう.

このように,様々な変動の中で毎日同じパフォーマンスを継続的に出していくことは難しいことであり,かなりの事前準備,段取りが重要であると認識し直すべきです.

日常的に当たり前のようにやらなければならないことに手間を惜しんで,その先にあるさらに困難な問題に先に取り掛かろうとするのは,本末転倒ではないでしょうか.

 

 

 

 

3.誰もが手順を正しく理解している状態を作り,それを維持する.

 

 

基本動作が大事であり,手間を惜しんではいけないとわかっただけでもダメです.

その基本動作としての標準手順が確実に関係者に正しく知ってもらっている状況を作りださなければなりません.

 

このためには,当たり前のことにも思えますが,次の4点が必要です.

 

① 必要な手順が決められている  → 標準化・文書化

② 手順が共有化されている    → 検索・閲覧性,アクセス性,教育・訓練

③ 手順の中身が理解されている  → 作業者の力量に合わせた詳細度での記述

④ 手順が実体を反映している   → 実体と手順書の乖離の解消

 

 

①については,読者の皆様に今更言うことでもありませんが,作業者に実施してもらいたい手順が決められ,文書として見える状態になっていなければなりません.口頭で使えるということもあり得るかもしれませんが,業務のやり方や方法の詳細を間違えなく,他の複数の人に確実かつ効率的に伝えるには“見える化=文書化”という手段が一番です.

 

②については,文書化・電子化し,会社内のイントラネットやどこかの共有フォルダに入れておけばよいというわけではありません.

その標準を使う方にとって欲しいときにすぐに検索・閲覧できるアクセス容易性が大事となりますし,それを見ただけでは業務は実施できませんので,当然ながら,教育・訓練がなされる必要があります.

前者については,ICT技術を生かせる余地が大いにありそうですし,後者の教育・訓練については景気に左右されることなく,中長期視点に立って辛抱強く教育投資を続けていくことが重要だと思います.

 

また,教育・訓練の際には標準を用いることになりますが,この標準がどの程度の詳細度で記述するべきか(③)についても留意が必要です.

一般的に,どこまで細かく書けばよいかは,その標準を見て業務を実施する人の力量で決まります.

「○○業務を実施してください」とその人に端的に一言伝えるだけで,その業務を間違えなく実施できる十分な能力を持っていれば,手順書などの文書は必要ないか,最低限のことだけ書いたごく短い文書でよいでしょう.

一方で,文書がない,ごく短い文書だけで何をどこまで実施すればよいか理解できないのであれば,文書を新規に作成したり,既存の記載内容をより詳細なものに書き直すことが必要となります.

要は,この標準を使う人はどんな力量を持った人であるかを想定し,その人が理解し,業務を間違えなく実施できる程度に標準を記述しておく必要があります.

 

近年は,だいぶ昔に作成した手順書が多少の修正は施されていますが,ほぼそのまま現在も使われていることがあるようです.

作成者が当時想定していた使用者と,現在の実際の使用者の間には大きな差異がありえそうですから,この観点から一度,標準を見直してみてはどうでしょうか.

 

最後に④に関しては,あくまでも標準は決め事であり,それが実際の活動の中に反映されて初めて効果を発揮します.

しかしながら,多くの現場で実体と手順書の(一部の)内容が大きく乖離している,ひどい組織では全く別物として管理していることもあります.

このような状況が続くと,作業者は標準を見ても仕方がないと思い,標準に沿った作業を軽視することにつながりかねません.

実態との間に乖離が大きい標準がどれであるかを早急にチェックし,その乖離を解消する活動を実施すべきでしょう.

 

 

来週に続けます。

 

(金子 雅明)

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