超ISO企業研究会

最新情報

メルマガ⑦ 昨今の品質不祥事問題を読み解く

昨今の品質不祥事問題を読み解く 第8回 自動車産業と品質不祥事(2)  (2018-7-2)

2018.07.02

 

 

前回に引き続き、自動車産業と品質不祥事と題した後半をお届けします。

 

 

 

自動車のリコールは、技術上の失敗、品質管理上の失敗などによる製品の安全欠陥であり、法規制に従って、適切かつ迅速な対応がとられれば、あとはメーカーの是正・改善処置で再発防止の活動に反映してゆく形で収斂して行きます。

ただ、個々の事例を分析してみると、技術上の失敗や、品質管理上の失敗が何故起こったのかを追及してゆく必要があり、深層にある根本的問題を解決しない限り完全な再発防止にはなりません。

前号では、製品安全のための開発及び自動車部品メーカーのリスクという自動車産業特有の側面について述べましたが、ここではリコール事例の分析結果から、その要因に何があるのかを探ってみました。

 

 

 

 

1.QMSプロセスにおける問題分析

 

【その1】

 

自動車メーカーでは通常サービス部門が顧客クレーム窓口となり、ここを起点として社内の技術部門において調査と対応を実施しています。

自動車メーカーが最も緊張するのは、今までに報告されてない“初めての故障”です。

もし、その故障が安全欠陥の疑いがある場合、クレームを安全欠陥として認識するまでのプロセスです。

このプロセスで重要なのは初動のアクションであり、これには関連部門間の迅速なコミュニケーションが後の対応に大きく影響します。

そして、この技術的問題の解析(クレーム解析)を行う部門の要員の力量に大きくゆだねられるのです。

 

これは、解析テストを実施する部門の資源(技術力量、試験・測定機器など)が原因の調査・特定に大きく影響します。自動車メーカーの多くは、主力を開発、生産面に振り向けるため、クレーム解析のようないわゆる“負”の部分の業務に従事する資源が軽視される傾向があります。自動車メーカーならずとも、リストラを進めた結果ベテラン技術者が少なくなってしまい、質の高い技術解析力が不足するという状況も発生しているのです。重要な再現テストなどは、時間とコストが掛かるので経営資源の乏しい組織では対策が進みにくいのです。

 

 

【その2】

 

製品品質の源流は設計・開発部門にあることが多いのですが、実証テスト(ISO的にいうと妥当性確認)を十分に実施しなかったことが原因である例が少なくありません。

タイトな開発計画及び開発コストの圧縮で必要な実地テストを行わずコンピューターによるシミュレーションで代用するなど、開発段階で手抜きをした結果、ユーザーに渡ってから問題が顕在化することが少なくありません。

前号で述べたとおり、この10年では、ソフトウエア―のプログラムミスによる問題がリコールの中で急増しており、これが「妥当性の確認」の不足の結果ということです。

 

 

【その3】

 

サプライヤーとの連携及びコミュニケーションの問題もあります。

前号で述べたAPQP(新規製品品質計画)では、設計・開発の各段階、試作、量産試作、量産の段階の前に自動車メーカーが専門部品メーカーにおけるテスト結果を一緒に検証するなど、共同作業で完成車としての妥当性を検証することになっていますが、自動車メーカーが部品メーカーに丸投げしているような状況が問題を見逃しています。

これは、昔の日本型自動車産業モデルであった系列による相互補完体制が、サプライヤーのグローバル化により崩れた結果、自動車メーカーが重要なプロセスを部品メーカーに丸投げするという傾向が発生しています。

2016年の三菱自動車の燃費データ改ざんは部品メーカーではありませんが、子会社にテストを丸投げし、目標燃費データをでっちあげるという不正が起きました。

 

 

 

 

2.企業体質の問題

 

リコールに相当する問題かどうかはクレーム解析で認識しますが、リコール実施の決定は通常、最上位の品質会議でなされます。

問題は会議に上がっていたかどうかということです。

責任者が上部に悪いニュースを報告できないような社風なのか、あるいは会議に上がっていたものを、顧客の信頼喪失や多額の費用を伴うリコールは行わないと決定したとすれば、経営層の倫理の問題でしょう。いずれにせよこのような企業体質は意識改革をするためには長い時間がかかります。

特にクレーム担当部門(品質保証部など)は、ユーザーの訴えと会社のリスクとの狭間で、良心の呵責がある社員により内部告発を生む結果になるのです。

過去における日本のリコール隠し事件のほとんどは内部告発であり、現場社員の考え方を共有化できない経営陣がいる会社が悲劇を生んでいるのです。

 

 

 

 

3.根本原因

 

リコール事例を分析すると、その根本原因には、企業倫理、経営資源、技術力、コミュニケーション、企業文化にまたがる要因があることがわかります。

 

▲企業倫理の欠如

自動車以外の事例も含めて、わが国の企業不祥事で共通していることは企業倫理が働いていなかったことです。

法令違反をはじめ、マネジメントシステムの「トップマネジメントのリーダーシップ」が果たされていなかったことであり、企業文化も、その要因の一つかも知れません。

事実が経営陣に伝わらない、本音が言えない社風、上役に対するイエスマン指向、顧客に目が向けられず企業の都合で簡単にリストラなどをする会社などが危ないのです。

 

 

▲経営資源の問題

自動車の開発には膨大なコストが掛かり、前号で述べた量産前に実施すべき安全機能のテストや検証に人、物、金を十分投入できなくなると、製品安全への技術力、問題解析力の不足などが製品欠陥を作る原因となります。

技術力は最大の経営資源であり、定年やリストラなどにより熟練した社員がいなくなって固有技術が継承されず技術力が低下する場合もあります。

また、自動車開発のための試験設備の更新などへの投資が出来ないことから最新の技術をキャッチアップできなくなることもあります。

このように経営状態が悪くなると負のスパイラルに陥る恐れがあるのです。

 

 

▲コミュニケーションの問題

品質不具合の有効なフィードバックと適切な処置が行われないことが、問題の顕在化を妨げています。

品質不具合対応プロセスに携わる人的な資源は重要な要素ですが、社内の階層間及び部門間のコミュニケーションが途切れることで重要な問題が見逃され大きな問題となってゆくのです。

自動車セクターのIATF16949ではQMSの重要なプロセスは部門横断機能(CFT)を活用することを求めており、情報のリアルタイム化と共有化による連係プレーを期待しています。

また、上申プロセス(escalation process)で、問題発生した場合の上部階層への打ち上げも規定しています。

 

組織内のコミュニケーションは、トップマネジメントをはじめ部門長の「リーダーシップ」と「全員参加」、また、部品メーカーとの連携とコミュニケーションは「関係性管理」でISO9000の「品質マネジメントの原則」の実践として認識することが重要です。

 

 

▲技術的な力量の問題

欠陥リスク防止のための有効な技術的ツールは、FMEA(故障モード影響解析)と妥当性の検証でしょう。

設計・開発の段階において、これらを確実に実施することが最も重要です。

それには、実施側の要員及び評価側の要員の力量を確保することが必須です。

前述の経営資源とも関係ありますが、技術力の伝承ができない状況はリスクを生みます。

ISO9001:2015では7.1.6 において組織の知識とその獲得・蓄積が新たに加わりました。

組織内部のOJT、外部専門機関等による新しい技術の習得なども技術資源の維持・向上は、特に自動車産業では不可欠です。

 

 

 

 

 

4.まとめ

 

ISO9001:2015ではリスクに基づく考え方が重要な概念になりました。

IATF16949の自動車固有要求事項においても、リスク分析、評価、回避の要求事項が多く登場しました。

また、企業不祥事の防止について、IATF16949の5.1.1.1 「企業責任」では行動規範、倫理的な方針を定めて適用することを求めています。

 

リコール事例の分析から、技術的な問題のほかに企業倫理の欠如、経営資源の問題、コミュニケーションの問題、サプライヤーとの連携不足、要員の力量不足(教育・訓練の不足)が関連していることが分かります。

QMSの製品実現プロセスの源流である設計・開発と妥当性検証が確実に機能しない限り欠陥発生は防止できません。

そのためには要員の力量を確保することは極めて重要であり、問題が発生した場合は事実に基づきタイムリーに経営陣に報告されるという仕組みを確実にする必要があります。

 

安全欠陥に繋がりそうな問題がないかどうかを検証する有効な手段は内部監査です。

内部監査では、FMEA、設計の妥当性確認など欠陥リスクの防止活動が適切に実施されているかどうかを検証すること、内部監査には監査プログラムに適した力量のある監査チームを編成し、プロセスを実際の現場、現物で検証することが重要です。

 

締めくくりにあたり、自動車産業と品質不祥事のテーマで書いた内容は、前号の冒頭で述べた2000年と2004年の月刊誌「アイソス」に書いたこととほとんど同じことを言っていると実感しました。

 

 

(長谷川 武英)

 

一覧に戻る