昨今の品質不祥事問題を読み解く 第5回 品質不祥事を切る!(1) (2018-6-11)
2018.06.11
5月から始めた新シリーズ「昨今の品質不祥事問題を読み解く」、
いよいよ今回から具体論に入っていきます。
以下からどうぞ。
昨年(2017年)後半から、品質に係る企業不祥事が次から次へと発覚しています。
それも我が国の製造業を代表するような企業ばかりです。
“JAPAN QUALITY”(日本品質)ブランドが、音をたてて崩れ落ちてゆくようなショックに見舞われました。
品質に係る仕事をしている者として、我が国の製造業の国際的評価に悪影響がでることを大変危惧しています。
1.JAPAN QUALITY
1970年代~1990年代前半まで、日本は製造業を始めとして、現場における品質管理と品質改善を実践しながら、“JAPAN QUALITY”(日本品質)の進化を遂げてきました。
これは、QCサークルを始めとした現場を中心にした活動から、全社品質管理(TQC)に展開してゆく中で実践されていた、品質啓発、品質管理教育と、その実践活動が功を奏した結果だと思います。
自動車産業を例にとれば、アメリカのBIG3(当時のGM、フォード、クライスラー)が、日本の自動車産業で実践されていた品質管理の手法を取り入れ、ISO 9000シリーズをベースにした「QS-9000」という自動車セクター基準を1994年に制定しました。
これはISOをベースにしたセクター規格のモデルとなって、その後、他のISO 9000由来のセクター規格の制定に繋がっています。
QS-9000は、その後ISO/TS 16949に進化し、さらに2016年には、IATF 16949と名称を変え、世界の自動車産業サプライチェーンの必須QMSとなっています。
また、“3S”とか“KAIZEN”は、今では国際語となっており、ISO 9000の「品質マネジメントの原則」においても、わが国で実践された品質概念が導入されていることは喜ばしいことです。
“JAPAN QUALITY”を確立できたのは、“Japanese Quality”(日本人の質)があったからだと考えています。
70年代~80年代は、まだISO9000の品質システム制定前でしたが、日本では製造業を中心にして、品質管理ツールの教育から、その活用が現場で実践された結果、日本製品の高品質が世界的に評価されました。
この日本型品質保証はTQCと進化し、TQMの原形としてQMSのモデルとして定着したのです。
これがまさに“JAPAN QUALITY”を創った “Japanese Quality” (日本人の質)の高さと思うのです。
2.不祥事の始まり
我が国において、企業不祥事の報道が目立ち始めたのは、20年ほど前からです。
社会的な問題として世間を騒がせた自動車リコール隠し、食品偽装、建物耐震偽装などが、その始まりでしょう。
重大品質問題を含め、不祥事企業には、自動車、電機、建設、食品、鉄鋼、金属、ゴム、石油など、日本の代表的な産業の会社ばかりで、ほとんどが、ISO認証を受けた大手企業です。
最近の品質不祥事は、顧客と合意された基準が守られてない、法規制への抵触などコンプライアンスに関するものが大半で、製品回収を伴う事態はないにしても、ISO9001 QMSの大基本である「顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する」ことが、会社内で共有されていなかったことに起因しています。
これは、“Japanese Quality”(日本人の質)以前の問題であり、品質不祥事を起こした大企業は、いつから、そんな状況になってしまったのかを考えると、古くは1991~92年のバブル崩壊、そして1997年の緊縮財政から始まったデフレ期の、いわゆる“失われた20年”という時代に、設備投資、公共投資、そして人材投資が停滞したことが、間接的に“Japanese Quality”の劣化につながったのではないかとも推測します。
2000年といえば、ISO 9001:2000の大改訂で、「品質保証のための品質システム」から「品質マネジメントシステム」に大きく変革し、購買~供給の取引ツールから、企業組織が活用できる品質マネジメントシステム(QMS)のモデルとして、文書偏重の規格から、事業のプロセスにフォーカスした「プロセスアプローチ」が導入された時期でもありました。
品質不祥事を起こした企業では、このISOの変革が正しく理解されていなかったのかも知れません。これについて、私なりの分析になりますが、大手の製造業は、初期のISO9000シリーズ「品質保証のための品質システム」の認証を取得した組織が多く、ISO9000の導入当時、日本型品質保証と違う「文書・記録主義」と受け止められ、ISO9000は画一的な文書、記録ばかりを作る、事業には役立たない規格との認識が経営管理層にあったのではないかと推測しています。
2000年改訂で、品質マネジメントシステム(QMS)への大変革があっても、それまでにしみついた初期のISO9000概念を払拭できずに、新しいQMSを理解しないまま年月を経てしまったことが、多くの経営者に共通していることではないかと思います。
マスコミ報道で知る限りでは、不祥事を起こした会社の多くは、突発的な問題で不祥事を起こしたのではなく、90年代から常態化したコンプライアンスに係る不正があったようです。
重大な安全欠陥などにつながらないとして、データ改ざんやデータ流用などが日常的に行われていたケースが大半です。
また、同じ会社が品質不正を繰り返している例も少なくありません。
3.企業の健全性
企業責任(Corporate responsibility)とQMSの関係について、ISO9001:2015で考えてみたいと思います。
箇条5.リーダーシップの要求事項となった「組織の事業プロセスへのQMS要求事項の統合を確実にする」を切り口として、企業の「健全性」について、倫理、コンプライアンス、財務という側面で考えてみました。
不祥事を起こした会社の多くは、この「健全性」(倫理、コンプライアンス、財務)に問題があることがわかっています。
一般的に、この健全性は、QMS適用範囲には、直接含めていませんが、企業経営にとって最も重要な部分です。
財務領域で粉飾の不正で上場廃止の危機に陥った大手電機会社、製品の安全欠陥に適切な対応をせず自滅した自動車部品会社の例など、この健全性の失敗事例の典型です。
健全性に関して、大企業では監査機能(監査室など)が、会社の財務、コンプライアンスなどの領域を監視する役割を担っています。
監査機能における内部統制は、経営上のリスクを一定水準に抑え、「業務の有効性と効率性」、「財務報告の信頼性」、「法令遵守」、「資産保全」を確保することが目的だとされています。
内部統制の中で実施される内部監査とQMSの内部監査は、監査基準と対象範囲が違うだけで、目的はどちらも事業活動を監視するものです。
製造業の大企業には、品質及び製造のトップとして、品質担当取締役、製造担当取締役がいて、職制からの報告などによって、現場の状況や現実を把握し、経営上の判断をしているのが普通であり、この人達が問題を把握していなかったとは、考えにくいことです。
また、取締役の業務執行を監視する役目の監査役は、機能していたのかも気になります。
このような重層の監視構造にも拘わらず、不祥事が起ったということは、何が悪かったのでしょうか?
監査で発見できなかったのか、それともわかっていたのに隠していたのか、いずれにせよ、企業としてのガバナンスが機能していなかったことは確かです。
不祥事報道によれば、多くの場合、管理層と現場に大きなかい離があったことが、根本的な原因であったと伝えられています。
不祥事を起こした企業は、常態化したコンプライアンス意識の欠如が、企業内にしみついてしまっているように思えます。
次回は、引き続き企業の本質的な問題点、及び認証制度における不祥事対応について触れてみようと思います。
(長谷川 武英)