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昨今の品質不祥事問題を読み解く 第4回 超ISO企業研究会からのメッセージ 「昨今の品質不祥事に思うこと」(3)  (2018-6-4)

2018.06.04

 

前回に引き続いて、

『超ISO企業研究会からのメッセージ 「昨今の品質不祥事に思うこと」』

についての3回目、本テーマは今回でひと区切りになります。

 

 

 

第3回 不祥事・事件を起こす組織

 

 

一連の不祥事に関連して考えたいことの第三は「不祥事・事件を起こす組織」の体質についてです.これまでの数々の事案を見るに,そこには共通の特徴があるように思えるのです.

 

 

■むかし,こんなことがありました

 

私が,不祥事や事件を起こす組織に共通の特徴に関心を持ったのは,2000年ごろのことです.

何らかの見解を披露してほしいと要請されて,分析したことを思い出します.

 

動燃問題: 1997年3月,茨城県東海村にある動力炉・核燃料事業団(動燃)のアスファルト固化処理施設で火災が発生し,37人の作業員が被ばくするという日本の原子力開発史上最大の事故がありました.そして同じ日の夜に,同じ場所で大爆発が起きるという前代未聞の複合事故となりました.そればかりか,この事件は動燃の「虚偽報告」という重大事件に発展しました.

 

JCO臨界事故: 1999年9月,茨城県那珂郡東海村のJCO東海事業所の「転換試験棟」で臨界事故が起こりました.作業員が,手数を省いて作業の能率を上げるために,スチール・バケツの中で莫大な量の濃厚なウラン溶液をスプーンで混ぜていた.そのために容器内の溶液が臨界に達し,作業員は致死量になり得る中性子線にさらされ,2人が死亡しました.周辺の住民は退避させられ,一時310,000人におよぶ東海地区の住民は屋内にこもって,窓を閉め切って待機するように勧告されました.

 

雪印大阪工場食中毒事件: 2000年6月,雪印大阪工場食中毒事件は大きな波紋を呼びました.その後,「品質体制の強化と企業風土改革」などの様々な施策を打ち出し変革への第一歩を踏み出した2002年1月,今度は,グループの関連会社が牛肉偽装事件を引き起こしました.これらの事件は「食の安全・安心」を根幹から揺るがした社会的問題として,さらに様々な社会的価値観の転換をもたらしました.

 

三菱ふそうタイヤ脱落事件: 2002年1月に横浜市瀬谷区で起きた三菱ふそう製大型トラクタのタイヤ脱落事故により,1人の女性の命が奪われました.日本を代表する名門企業が起こした事故隠し事件になり,その背景には疲弊した企業風土が潜んでいたと指摘されました.

 

東電虚偽記載事件: 2002年8月に原子力安全・保安院及び東京電力(株)より公表されて明らかになった,東京電力福島第一原子力発電所,同第二原子力発電所,同柏崎刈羽原子力発電所の原子力プラントの自主点検作業における,シュラウドなどの機器のひび割れなどに関する不正な記載問題は,国民に原子力発電に対する不信感を与えることとなりました.

 

関西電力美浜3号機の2次系配管損傷: 2004年8月,関西電力美浜原子力発電所3号機において,2次系配管損傷事件が発生し,5名の方々が死亡しました.背景に安全文化のほころびがあると指摘されました.この事故調査には私も関わりました

 

JR西日本脱線事故: 2005年4月,JR西日本の福知山線のカーブでスピードを出し過ぎた電車が脱線した後,マンションに激突し107名が死亡するという大惨事が起きました.背景としてJR西日本の収益第一主義等の組織体質の問題が浮上しました.

 

 

 

 

■事故・不祥事はなぜ起こるか

 

 

こうした事故のあと,次のような釈明・反省が表明されています.

 

・いつの間にか創業当時の企業風土が劣化していた.

・いつのまにか利益偏重企業になっていた.

・その事象に対するトップの認識,リーダシップが弱かった.

・組織内に本当のことを議論する自由闊達な雰囲気がなかった.

・組織内にマンネリズムが蔓延し危機感が足りなかった.

・効果ある教育訓練がされていなかった.

 

反省をし,「二度とこのようなことが起きないように」と誓いますが,不祥事・事故は再発しており,社会的学習は進みません.

ときに同じ企業が事件を起こし,企業体質という表現を使いたくなってしまいます.

 

事件・事故が社会的問題とされる状況を理解するには,少なくとも3つの視点が必要と思いました.

 

第一は,

まさに「なぜ起こるか」という発生原因についてです.

 

いろいろあり得ます.例えば,未成熟な技術,マネジメントシステムの不備,ヒューマンエラーが原因となり得ます.

あるいは,真っ当な価値観の欠如,問題のある組織体質・文化が要因かもしれません.

はたまた,起こり得るリスクに対する感受性が乏しいがゆえの,幼稚なリスクマネジメントも考えられます.

 

 

第二は,

「なぜ大きな問題になるか」という問題拡大原因についてです.

 

事件を起こしたこと自体に関わる価値観・文化,組織体質などや,職業的正直さ(Professional Honesty)の欠如,あるいは稚拙なリスクコミュニケーションなどが,問題を大きくしている例もあります.

 

 

第三は,

社会ニーズの変化,感受性の高度化でしょうか.

 

医療事故に関する社会の感受性が高まっていることは間違いないと思います.

社会の価値観の変化に応じて刑事訴追への閾値も低くなっているように思います.

説明責任(アカウンタビリティ)やCSR(Corporate Social Responsibility;企業の社会的責任)に関する,社会の感覚も鋭くなっていると思います.

そして,事件が起きた後の対応のまずさ,すなわちリスクコミュニケーションの稚拙さにも鋭い反応をする社会になっているように思います.

 

いろいろな意味で,不祥事・事件が起きやすい社会になっていると考えた方がよさそうです.

 

 

 

 

■事故・不祥事を起こしやすい組織

 

この20年ほどの様々な不祥事・事件を見てきて,私は,事故・不祥事を起こしやすい組織には,多かれ少なかれ以下のような特徴があると思うようになりました.

 

・内向き

・内部コミュニケーション劣悪

・属人的意思決定

・希薄な思想・哲学

 

「内向き」とは,思考・行動様式が,組織内部の価値観重視,利己的で,外部から何を期待されているか,どう見られているかにあまり意識が向かないという意味です.

 

逆に,優れた組織は「外向き」と思います.

それは外部に迎合するとか,自分がないという意味ではなく,自律していて,かつ周囲の環境のなかで自分が何をすべきか問い続ける組織風土を意味しています.

一つの方法は,外に対して開くことで,透明性の確保,積極的な公開・開示,説明責任意識,IRの重視などでしょう.

もう一つは,外部の血を積極的に入れることで,人事において価値観の異なる人材を積極的に登用するとか,見識ある社外取締役を採用するなどでしょう.

 

個人の場合ですと,利己的,自己中心的,過度な自己愛ということで,程度にもよりますがあまり歓迎されず,一概には言えませんが,優秀な割に良い仕事ができないようにも思います.

 

「内部コミュニケーション劣悪」とは,組織内部の上下・左右のコミュニケーションが悪く,おかしなことが起きても見逃されやすいということです.

いつだったか,事件後の記者会見の席で,社長が現場の状況をよく把握していない実態を生々しく見せてしまった例もありました.

 

優れた組織は,風通しの良い,自由闊達な意見を言える風土を確立しています.

まずは,組織内部の透明性の確保に力を入れるべきで,それにより情報共有,価値観共有が進みます.

さらに,意見を表明しやすいコミュニケーションルールを確立すべきで,建設的な批判が自由にできるようにしたいものです.

 

「属人的意思決定」とは,意思決定にあたり,妥当性・合理性よりも,誰が何を考えているかに左右されるという意味です.

社長や会長の顔色を窺って,事実や論理に反する意思決定を容認してしまうような組織風土のことです.

タイコ持ちの多い企業はアブナイということです.

 

この手の組織の病巣は深く,経営上層がおかしなことになったとき抑えが効きません.ワンマン社長にモノも言えず,黙ってろ文化が蔓延し,見ざる言わざる聞かざる,そして考えない組織は危険です.

ワンマンになる理由がその優秀さにありますし,狂ってきたときにそれを抑止するのは容易なことではありません.

でも,権力は腐敗しますし,どんなに優秀でも段々周りが見えなくなって判断を誤るようになるのが人間というものです.

 

 

組織には階層がありますので,たとえ正しいことでも上にモノを言いにくいという現象が多かれ少なかれ起きます.

これを打破するのが,事実重視,たとえ誰が何と言おうともクロはクロという原則の浸透です.

また,上に立てばたつほど,指示事項の根拠を説明することを心掛けるのもよいことです.

さらに,トップが狂ったら首を切れる組織構造を工夫するのも手です.

家老に政治をやらせ,番頭に経営をやらせ,殿様やオーナーという別系統の諫言する人や人事権者を置くという方法は昔から使われてきました.

 

そして「希薄な思想・哲学」とは,いわゆる組織のDNAと言われるような,真っ当な価値基準や行動原理が確立していない組織という意味です.

家訓,社是,理念,○○Wayなど,組織が重視する価値観,思想,行動原理が確立していないと,いざというとき軽薄な合理主義が頭をもたげ,判断を誤り,そしてその判断の誤りを長いこと修正できなくなります.

 

企業は,哲学者の集まりでもありませんし,また宗教集団でもありませんが,何らかの行動をするときに,事細かな理屈を抜きにして遵守すべき基本的考え方や行動原理を定めておく方が間違いないと思います.

すべてを考慮して常に正しい判断をすることは一般に難しく,そうであるなら,深く考えずに従ってしまう真っ当な思想や行動原理を決めて,自然体で行動できるように浸透させておくのがよいと思います.

 

(飯塚 悦功)

 

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