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昨今の品質不祥事問題を読み解く 第3回 超ISO企業研究会からのメッセージ 「昨今の品質不祥事に思うこと」(2)  (2018-5-28)

2018.05.28

 

前回から3回に分けてお届けする予定とご案内した

『超ISO企業研究会からのメッセージ 「昨今の品質不祥事に思うこと」』

の2回目です。

今回も忌憚なきご意見、ご感想お待ちしています。

 

 

 

第2回 公式性,遵法,コンプライアンス

 

一連の不祥事に関連して考えたいことの第二は「公式性」です.

つい最近,顧客との契約より厳しい社内基準で運用しているという理由で,契約に定めている検査を経ずに出荷していたという事案が明らかになりました.

「実際には合格しているのだから,改めて検査することもない」という論理なのでしょうが,正規の検査を経て正式に確認されたという「公式性」が重要だという認識をしていなかったのが問題です.

 

 

■苦い経験

 

私自身,似たような経験をしたことがあります.

大失敗でした.

 

原子力安全規制が,現在の体制になるより前,まだ経産省の保安院が規制を行っている時代,私はその一つの部会の委員でした.

品質保証分野の専門性を期待されてのことです.

英国のBFNLという会社から,原子力発電用のMOX燃料を輸入していました.

そこで品質保証データの改竄問題が起きたのです.

 

保証特性は燃料の寸法でした.

製造工程で全数を自動検査するのですが,全く同じ方式の検査を一部のロットについて実施し,検査成績書を添付して出荷していました.

この品質保証検査を実施せずデータ改竄していました.

改竄の方法は,以前の検査ロットのデータをコピーし,一部の数値を適当に操作するという簡単なものでした.

 

保安院が原子力規制を行っている時代,その一つの部会で疑念があると問題になりました.

私はデータの性質から,まず間違いなく改竄していると言いましたが,他の委員は誰も取り上げてくれず,そのまま了承となりました.

私が行ったチェックは簡単なもので,下一桁の数値の前ロットの数値との類似性でした.

一致している割合が異常に高かったのです.

改竄するにしても,何とも芸の無い方法だと苦笑してしまいました.

 

燃料を積んだ船はすでに出航していて,これを途中で止めるとなったら多額の取引に影響がでます.

品質特性は寸法で,容器に入る大きさなら,機能上重要な特性というわけでもありません.

製造で全数検査していますので,改めて品質保証データとして測定しても,たぶん問題はないはずです.

その燃料を購入する日本の電力会社の担当の方も,私の大学の研究室にまでやってきて,「間違いない.大丈夫」と,私を説得しようと懸命でした.

 

私も,改竄してはいるだろうが,実物は大丈夫なのだから,と強弁はしませんでした.

それが間違いでした.

そうこうするうちに,BFNLの担当者が不正をしていたと白状しました.

このとき私が学んだのは,良いということが分かっていても,正規の手続きで正しいということを公式に証明して見せることの重要性でした.

委員会で,このことの意義をもっと説いて,止めるように強く言うべきだったと深く反省しました.

 

私にとっては,長く携わってきた品質分野での痛恨の失敗です.

背景には,日本の品質管理界が考えてきた「品質保証」の思想が,品質保証に関する私の基本的考え方に刷り込まれていたことがあったように思います.

 

 

 

■日本の「品質保証」とISO 9000の「品質保証」

 

日本の品質管理の歴史のなかで「品質保証」という用語が使われ始めたのは1960年ごろと聞きました.

そのころ「品質管理のドーナツ化現象」と言われる現象が起きたそうです.

ドーナツ化とは「中心がない」という意味です.

 

日本は,戦後アメリカから品質管理を学び,電気・機械・化学製品分野で「SQC(Statistical Quality Control,統計的品質管理)」をコアにして,これに人間的側面への考慮を加えて熱心に推進してきました.

しかし,品質抜きの品質管理が目につくようになった,すなわち品質管理の手法を使って,原価低減,在庫削減,生産性向上などの改善が盛んに行われるようになったとのことです.

 

そこで,品質のための品質管理,品質中心の品質管理を進めようということで,「品質保証」という用語を使い始めたとのことです.

そして,品質保証とは「お客様が安心して使っていただけるような製品・サービスを提供するためのすべての活動」を意味し,それは「品質管理の目的」であり,「品質管理の中心」であり,「品質管理の神髄」である,などと言われたそうです.

 

1990年代になって,それまで世界の品質管理の潮流をリードしていた日本に,ISO 9000流の品質管理が入ってきました.

ISO 9000でいう品質保証とは,基本的に「合意された仕様通りの品質の製品・サービスを提供する能力の実証による信頼感の付与」という意味です.

この意味の本質を理解するためのポイントは2つあります.

第一は「仕様通りの」です.そして第二は「実証による」です.

 

日本での「品質保証」の意味は,お客様との間で明示的に約束しようがしまいが,とにかく徹底的に満足させてやろうとすることですが,ISO 9000での意味は,合意した品質レベルの実現です.

 

さらに,日本の品質保証は,製品に語らせる,あるいは提供者を信頼してもらうという感じですが,ISO 9000の品質保証は,「実証」によって信頼感を与えるという意味です.

これから提供する製品・サービスについて実証しなければなりませんので,提供システムが妥当であることを訴えなければなりません.

 

「私たちはこういう仕組み,プロセスを持っているから大丈夫です.その証拠に品質保証体系図,プロセス仕様書があります.それらは,国際標準に準拠しています.それに加え,決められた通りに実施しています.その証拠に記録があります.信頼して下さい」

というわけです.

証拠を示すことによって「これからもずっと合格品を提供できます.信頼して下さい」と訴えること,これがISO 9000でいう品質保証です.

 

1960年ごろに日本で起きた「ドーナツ化現象」の反省は貴重だったと思います.

品質管理という方法論を勉強してきた人々は,このころ「この思想・方法論を原点に返って品質のために使おう,本当にお客様が喜ぶものを作っていくために使おう」と再確認したのですから.

 

同時に,ISO 9000の品質保証の「実証することによる信頼感の付与」という考え方の意義も再認識したいものです.

真の顧客満足のためには,仕様通りの製品の提供では不十分で,ISO 9001をベースにして,日本的な意味での品質保証のためのQMSを構築すべきでしょう.

 

 

 

■品質を「保証する」とは

 

「品質保証」の名の下に何をするか,要は「保証する」とは何をすることか考えてみます.

私たちは,ときに「業務の品質保証」とか,「仕事の質を保証する」なんてことを言いますが,それが何を意味しているのか,考えてみたいと思います.

 

「品質を保証する」とは,品質について「顧客に信頼感を与えることを請け合う」ことだと思います.

ISO 9000の世界では,信頼感を与えるために,仕様通りの製品を提供できる能力があることを「実証」することに力点を置きます.

そして,手順の存在の証拠としての手順書,実施した証拠としての記録など文書類が重要視されます.

自分がまともであることを証明・説明することが基本です.

 

日本で品質保証という用語が広まる契機になった,誠実な品質保証のために何をすべきかという点ではどうでしょうか.

信頼感を与えるためには,はじめから品質の良い製品・サービスを提供できるようにすることと,もし万一不具合があった場合に適切な処置をとることの2つからなるでしょう.

はじめから品質の良い製品を提供できるようにするには,(1)手順を確立する,(2)その手順が妥当であることを確認する,(3)手順どおりに実行する,(4)製品を確認する,という四つの活動になるでしょう.

何かあった場合の対応は,応急対策と再発防止策に分かれます.

 

お客様の満足,感動を実現したいと考え,そう実行することは素晴らしいことですが,改めて「保証」の意味を考察してみれば,ISO 9000の品質保証と同様の趣旨が含まれていることが分かります.

「品質保証」という概念に含まれる「公式性」を再認識したいものです.

 

 

 

■ABCのすすめ~賢者の愚直

 

約40年前のことです.ある製品の調整工程で,さる優秀な調整者が産休に入り,その後にこれまた優秀な人をラインに投入しました.

すると,調整不良の山となりました.

そこで新たに投入した作業者に手順通り実施したかどうか確認しました.

「調整手順通りに作業した」とのことです.

手順に不備があることになります.

そこで産休に入った作業者に聞いてみました.

「手順通りにやるとうまく行かないので自分で工夫した」とのことです.

 

どう対応するかを巡って,製造課長と私の意見がぶつかりました.

課長は,「調整作業標準が適切でなかったのに,よくぞ工夫してうまく調整していてくれた」というのです.

私は,「冗談じゃない.(ソクラテスじゃないけれど)悪法も法だ.悪法を正した(正しい調整標準に改訂した)うえで,新たなルールに従うべきだ」と言いました.

そうしなければ,何が基準で,何が標準作業か分からなくなりますし,目的達成のための良い手段・方法を組織で共有できません.

組織的な改善もできません.

 

その後,「ABCのすすめ」なんてことを言うようになりました.

ABCっていろいろありますが,ここでの意味は,

 

「(A)当たり前のことを,(B)ばかにしないで,(C)ちゃんとやる」

 

ということです.

「(A)当たり前」とは,望ましい結果が得られる優れた方法を知っているということです.

「(B)ばかにしない」とは,望ましい結果が得られる理由を知っているということです.

そして

「(C)ちゃんと」とは,やるべきことは誰も見ていなくも愚直にやるという意味です.

 

私は,これに「賢者の愚直」という副題をつけました.

賢い人は,「正しいことを,愚直に,継続的に行う」という意味です.

「愚直は,浅薄な小賢しさに勝る」ということです.

コンプライアンスとか遵法精神の基本はこのあたりにあるのではないかと思っています.

そのような組織体質がどのようなものか,次週検討してみたいと思います.

 

(飯塚 悦功)

 

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