QMSの大誤解はここから始まる 第24回 ISO 9001認証を受けた会社は市場クレームを起こさないんですよね。(3) (2018-3-26)
2018.03.26
IS0 9001認証を受けた会社は、市場クレームを起こさないんですよね?
というタイトルで始めたこのテーマですが、当初構想からだいぶ話を膨らませていくことに
なりそうです。
(1) QMS認証制度
(2) アウトプットマターズ
(3) 認証審査
という3つの整理で書き進めております。今回から3回(予定)に分けて2つ目のアウトプットマターズについて書き進めていきます。
(2) アウトプットマターズ
■ISO 9001の適用範囲
前々回(先々週)、この「誤解」についての検討を始めるときに、この誤解を誤解として片付けてよいものかどうか、非常に複雑な心境と申し上げました。
その理由の一つが、ISO 9001:2015の適用範囲の記述にあります。以下のように規定されています。
1 適用範囲
この規格は、次の場合の品質マネジメントシステムに関する要求事項について規定する。
a) 組織が、顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する能力をもつことを実証する必要がある場合。
b) 組織が、品質マネジメントシステムの改善のプロセスを含むシステムの効果的な適用、並びに顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項への適合の保証を通して、顧客満足の向上を目指す場合。
この規格の要求事項は、汎用性があり、業種・形態、規模、又は提供する製品及びサービスを問わず、あらゆる組織に適用できることを意図している。
どのような規格も、その本文は、その規格がどのような場合に適用されるかを規定する「Scope(適用範囲)」から始まります。
どのような規格であるかを定義、規定、宣言しておかなければ、その規格をどう使ってよいものか分からないからです。
まず、最後の一文で、この規格には汎用性があり、どのような製品・サービスを提供する組織にも適用できると高らかに謳っていることにご注目ください。
次に、a)項を見て下さい。
要求に適合する製品・サービスを提供する能力があることを「実証」するときに、この規格が適用されるのだ、と言っています。
自らの組織にそのような能力があると訴求するときに適用される規格ということになります。
さらに、b)項は、この規格が規定するQMSモデルの目的が「顧客満足の向上」にあると言っています。
ISO 9001における「顧客満足」は、私たちがこの語から受ける印象とは少し異なっていて、提供された製品・サービスに対する顧客の受けとめ方(perception)です。
「満足」というと、基準をはるかに超えて十分に満たすというという意味だと思うかもしれませんが、“satisfaction”というのは、基準を超えていて、充足しているという程度の意味です。
この感覚は、何かを評価するときの“satisfactory”がどの程度のものかを考えれば分かると思います。
本当に良ければ“excellent”というに違いありません。
「どうだ?」と言われて“satisfactory”と答えるときは、ギリギリ合格という程度ではないでしょうか。
それでもここで重要なことは、レベルはそこそこでも“顧客の”評価を問題にしているということです。
ISO 9001は、“顧客の評価基準で”受け入れ可能なレベル以上の製品・サービスを提供できるようなQMSでありたいと言っているのです。
で、もう一度、a)項をお読み下さい。
ISO 9001を適用すると、要求に適合する製品・サービスを一貫して提供できる能力があることを実証できることになります。
ということは、この規格を適用し、ISO 9001の箇条に適合していても品質クレームを発生させてしまうとすると、ISO 9001:2015の箇条はこの適用範囲a)を実現するようなものではない、ということになります。
■アウトプットマターズ
これが、ISO 9001の2008年版の改訂審議の最終段階で出てきた「Output Matters;アウトプットマターズ」という厄介な問題提起だったのです。
Output Mattersを日本語訳すれば、「アウトプット問題」とでもなるのでしょうか。
「手段であるQMS基準に適合しても、アウトプットが保証されないのでは規格のScopeに反するから、望ましい結果が得られるようなQMS規定に書き換えなければならない」というまさに「ちゃぶ台返し」の議論がでてきたのです。
この問題提起にまともに取り合っていたら、ISO 9001改訂にあと何年かかるか分かりません。
仕方ないから、すべての箇条で何らかの要求事項を規定するとき、「期待した成果、意図した結果、所望の結果が得られるような(得られるように)」という形容詞句・副詞句を追加しよう、なんていう意見が真面目に議論されました。
「所望の結果が得られるように」を各箇条の要求事項に散りばめることによって、もし問題が起きれば、それはISO 9001の要求事項の不備ではなく、「所望の結果が得られるように○○をしなければならない」という要求事項に適合していない、と責任回避をすることはできます。
実は、この問題提起は、ISO 9001を基準文書とするQMS認証制度において、「その効果が見えない」という、認証制度の監視役ともいえる認定機能に関わる国際的な集まりであるIAF(International Accreditation Forum)の指摘が発端になっています。
IAFはこの指摘を、思いつきではなく、QMS認証組織の顧客や利害関係者に対する調査に基づいて行いました。
そして「認証審査において、認証されたマネジメントシステムからのアウトプットを考慮した審査になっていない」と苦言を呈したのです。
2007年のことです。
ISO 9001の審議はTC176で行っていますが、規格はISO(International Organization for Standardization)の名前で発行していますので、IAFとISOは、2009年に、“Expected Outcomes”と呼ばれている、「ISO 9001の認定された認証に対して期待される成果」という共同コミュニケを発行しました。
ISO 9001の2008年版発行のあとです。
その共同コミュニケには、認証された組織の顧客にとって、何が「期待される成果」であるかについて、以下のような記述があります。
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ISO 9001への認定された認証に対して期待される成果(組織の顧客の視点から)
ISO 9001 に対する認定された認証が意味しているもの
適合製品を得るために、認定された認証プロセスは、組織がISO 9001の適用される要求事項に適合した品質マネジメントシステムをもっている、という信頼を提供することを期待されている。具体的には、組織は、次の事項が期待されている。
A. 製品及びプロセスに適し、認証範囲に適切な品質マネジメントシステムを確立してきていること。
B. その製品に関連する顧客ニーズ及び期待、並びに適用法令・規制要求事項を分析及び理解していること。
C. 製品特性が顧客要求事項及び法令・規制要求事項を満たすように規定されてきていることを確実にすること。
D. 期待されている成果(適合製品及び顧客満足の向上)を達成するために必要なプロセスを明確にしてきており、運営管理していること。
E. これらのプロセスの運用及び監視を支援するために必要な資源が利用できることを確実にしてきていること。
F. 定められた製品特性を監視及び管理(コントロール)していること。
G. 不適合防止を目指すこと、及び、次を実施するための体系的な改善プロセスが置かれていること。
1. 生じてしまう不適合は全て修正すること(引渡し後に検出された製品の不適合を含む)。
2. 不適合の原因を分析し、再発を防ぐための是正処置をとること。
3. 顧客からの苦情に対応すること。
H, 有効な内部監査及びマネジメントレビュープロセスを実施してきていること。
I, 品質マネジメントシステムの有効性を監視、測定及び継続的に改善していること。
ISO 9001に対する認定された認証が意味していないもの
1) ISO 9001は、組織の品質マネジメントシステムに関する要求事項を規定しているものであり、その製品に関する要求事項を規定するものではないことを認識することが重要である。
ISO 9001 への認定された認証は、組織が、「顧客要求事項及び適用される法令・規制 要求事項を満たした製品を一貫して提供する」能力に対する信頼を提供するべきである。
組織が常に100%製品適合を達成することは、勿論、恒久的な到達目標であるべきだが、それを必ずしも確実にするものではない。
2) ISO 9001の認定された認証は、その組織が優れた製品を提供していること、又は製品自体が、ISO(又はその他)の規格又は仕様の要求事項を満たしているとして認証を受けていることを意味するものではない。
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これをご覧になると、システム(QMS)でその結果(QMSのOutcome)を保証することの意味や、システム(QMS)の構築・運営・改善によって、その出力(製品・サービスの品質)を保証することの意味や難しさがにじみ出ていることがお分かりいただけると思います。
認証されているということはすなわち、まともなQMSが構築されていることを意味しているということが、A~F、H~Iから読み取れます。
しかし、Gでは、不適合防止を「目指す」こと、不適合や顧客からの苦情にきちんと対応するとありますので、きちんとしたQMSを構築しても不適合が発生する可能性があることを覚悟しなければなりません。
そして、「認証」が意味してないものとして挙げている1)~2)から、QMSからのアウトプットである製品・サービスが完全であることは、これを目標とはするが実現できるとは限らないとあります。
さらに、QMS認証が、製品認証を受けていることは意味しないと記されています。
ここに、私が、この誤解を誤解と言いたくないと思いつつ、システムの意義を訴えたいという思いが凝縮されています。
システムで結果を完全には保証できない苦しさ、限界を感じつつも、それでもシステムによって結果のレベルを向上できるという厳然たる事実を訴えたいのです。
次回に続けます。
(飯塚 悦功)