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QMSの大誤解はここから始まる 第23回 ISO 9001認証を受けた会社は市場クレームを起こさないんですよね。(2)  (2018-3-19)

2018.03.19

 

 

前回からスタートした、弊会会長飯塚悦功による、「ISO 9001認証を受けた会社は市場クレームを起こさないんですよね」の続きになります。

 

 

 

■有用な認証制度の条件

 

さて、上述したような性格を有する認証制度が、社会にとって有用である条件について考えてみます。

新たな認証の設計や、現行の認証制度の変更にあたって考慮すべき側面とも言えます。

 

 

第一は「認証基準の妥当性」です.

 

その評価対象分野に対する社会ニーズがなければなりません.

認証基準の範囲(Scope)とレベルが適切でなければなりません.

例えば,ISO 9001:2015は現在の経済社会ニーズに応えるものでなければなりません.

後ほど検討しますが、ISO 9001のScope(適用範囲)や要求事項のレベルが社会ニーズに合致していなくてはなりません。

市場クレームを発生させないQMSであるかどうかで認証の授与を決めることが社会ニーズであるなら、現在のQMS認証は、基準であるISO 9001も、認証プロセスも根底から考え直さなければならなくなります。

 

 

第二は「基準適合行動の適切性」です.

 

認証を取得したいと考える組織が,認証基準の意図を正しく理解し,適切に行動し,基準に適合するQMSを実現しなければなりません.

二枚舌で認証を取得するなどもってのほかです.

 

 

第三は「認証プロセスの適切性」です。

 

評価基準、評価者、評価計画、評価方法が適切でなければなりません。

評価・検証・審査の技術の確立も必要です。

評価者は、それに従って的確に評価しなければなりません。

評価結果には権威があり、正式・公式と認められ、信頼されるものでなければなりません。

また、認証プロセスの透明性もある程度確保され説明責任を果たせなければなりません。

さらに、評価そのものばかりでなく、認証の授与や維持の判断の適切性もまた重要です。

 

 

第四は「認証結果活用の適切性」です.

 

認証対象組織の顧客や社会などの評価結果の利用者は,選択・取引の質と効率の向上などのために,証明された「能力」を有効活用していただかなければなりません.

自らの選択,能力証明された方は,評価で保証される「能力」を適切に訴求しなければなりません.

これらは,評価の価値,適合性評価ブランドなどを考えるときに焦点を当てるべき事項です.

 

 

 

 

 

■QMS認証の効果

 

認証制度の社会的意義について考察した際に、目的の第一が「能力証明」にあり、これによって選択の質と効率の向上、取引活性化が期待できること、第二の目的が認証プロセスを通じての認証対象の「能力向上」にあり、これによって国力・産業競争力の強化が期待できると申しました。

 

以下の表は、QMS認証について、「能力証明」及び「能力向上」という2つ視点で、様々な関係者にどのような価値を与え得る制度であるかを示したものです。

類似の表を示したことがありますので、どこかでご覧になったことがあるかもしれません。

 

 

目的

立場

 

能力証明(認証結果の利用) 能力向上(認証の副次効果)
提供組織 ・QMS能力(経営管理能力)の訴求

・製品品質(製品競争力)の訴求

・QMS(経営システム)の透明性確保

・二者監査の削減によるコスト低減

 

・QMS能力(経営管理能力)の向上

・製品品質(製品競争力)の向上

・業績の向上

業界 ・業界のQMS能力の訴求

・当該事業分野の製品の優秀性の訴求

 

・当該事業分野の製品レベルの向上

・業界全体のレベルの向上

サプライ

チェーン

・取引の質・効率の向上

・取引の活性化

 

・取引の質・効率の向上

・川下の製品の競争力向上

購入者 ・供給者組織選択の質・効率の向上

・購買管理プロセスの質・効率の向上

・供給者QMSの透明性向上による購買管理の充実

 

・供給者組織・パートナーのレベルの向上

・購買製品の競争力の向上

・購入者自身の製品競争力の向上

最終顧客

社会

・良質製品の入手可能性の向上

・経済の活性化

 

・製品・サービスレベルの向上

・国力・産業競争力の向上

事業支援

(保険・融資)

・支援対象者(投資先、被保険者)選択の質・効率の向上

 

・妥当・合理的な支援(価格、条件等)

・被支援者(提供組織)の能力向上

行政 ・民間の評価能力活用による規制緩和

 

・政治・行政の効率向上

 

 

製品・サービスの提供組織にとっては、QMS(≒経営管理システム)能力、製品競争力が向上し、またその優秀さを訴求することができます。

また、取引先ごとに要求される二者監査の一部を第三者認証で代替することによるコスト低減も期待できます。

こうしたことの総合結果として、業績向上を期待できます。

 

 

ひとつの組織ではなく業界の多くがQMS認証を取得すれば、その事業分野全体の製品・サービスのレベルが向上し、業界全体のレベルアップにつながるとともに、その優秀性を訴求できます。

業界全体の地位向上、小さなパイの取り合いではなくパイ全体を大きくするためにこの制度を利用することができます。

より切実な事業環境として、ニーズを満たす手段が複数あり実現手段の間に競争があるとき、業界を挙げて認証を取得することがその業界全体の競争力向上につながることが考えられ、競争のなかの共同歩調ともいうべき戦略にもなり得ます。

 

業界という水平方向ではなく、取引の垂直方向、すなわちサプライチェーンを構成する一連の組織が認証を取得することにより、垂直方向の一連の取引の質と効率が向上し、取引の活性化を期待できます。

結果的に最終製品に近い川下の製品の競争力が向上し、それは供給者である川上の組織の繁栄をもたらすことにつながります。

こうした仕組みを業界全体で適用することもあり、いわば水平・垂直両方向から、安全・安心のため、またはその製品・サービス群に対する信頼性確保・地位向上のために、業界を挙げた事業基盤強化策として導入されることもあります。

TL9000にはその狙いがありました。

 

 

立場を変えて、製品・サービスの提供組織から製品・サービスを調達する、組織間の取引における購入組織の側から考えてみると、経営において重要な購買機能のレベルアップを期待できます。

まず、供給者組織の選択の質と効率を向上できます。

広範囲の供給者候補の能力を詳細に調査・評価することなく、優秀な候補者に絞り込むことができます。

こうして、認証制度を活用することによって、購買管理プロセスの質と効率を向上できます。

さらに、供給者のQMSの透明性の向上により、重要なプロセスの管理や、問題発生時の適時的確な解決・是正など、購買管理の充実を期待できます。

そればかりでなく、供給者組織のレベル向上、購買製品の競争力向上(安価で良質な製品)により、購入者自身の製品競争力の向上も期待できます。

 

購入者の業界が歩調を合わせ自らの業界の事業基盤強化のために供給者業界にこの認証制度を導入することもあります。

これは、購入者・供給者の双方にとって供給者評価に要するコスト低減をもたらします。

自動車部品、航空宇宙の分野でのセクター規格を基準にした認証制度はその好例と言えます。

このように、QMS認証制度とは、直接的には、購入者のための制度であって、優秀な供給者から安価で良質な製品を購入するための産業基盤となる社会制度と位置づけられます。

 

「購入者」の項では、暗に組織間の取引における購入者を想定して認証制度の効果を考察しました。

B to BではなくB to Cの関係、すなわち製品・サービスの最終的な受取手である一般消費者にとってはどのような効果が期待できるのでしょうか。

まず、製品認証ほど明確ではないにしても、製品・サービスの入手にあたり、優れた提供組織を容易に絞り込むことができ、品質の良い製品を購入できる可能性が高まると期待できます。

視野を広げて、どのような社会になっていくかと考えると、優れた組織が増え、製品・サービスのレベルが向上することにより、経済の活性化が進み、国力・産業競争力の向上が期待できます。

 

事業には様々な支援が必要です。

融資や保険などの事業者の立場からは、投資先や被保険者を選ぶ際に、選択の質と効率を向上できます。

すなわち投資のしがいのある確実に返済してもらえる優秀な組織に投資できるし、保険リスクの小さい優れた組織に対する保険を引き受けることができるようになります。

さらに、それら支援対象者のレベルに応じ、融資の利率や保険料率などを、適切に有利な条件にすることも可能で、実はこの誘導によって被支援者(提供組織)の能力が向上することも期待できます。

 

規制や許認可の行政の立場からみると、認証制度のような民間の任意の評価能力を活用することにより、規制緩和が進み、規制・許認可そのものの仕組みの効率が上がる可能性があります。

もちろん行政にとってみれば、民間に任せるのですから政治や行政の効率向上が期待できます。

 

MS認証は、「マネジメント」という訳の分からない機能のための、これまた分かりにくい「システム」に関する適合性評価制度です。

QMS認証は、MSのなかでも組織の事業活動から生み出される製品・サービスの品質のためのシステム能力について評価しますので、実は、様々な評価対象が備えるべき「能力」の基盤をなすものとなります。

どのような分野の認証であれ、そのシステム基準(ISO 9001のQMSモデル)は常識として知っているべきです。

 

(飯塚 悦功)

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