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QMSの大誤解はここから始まる 第20回 QMSって、ISO 9001のことですよね。(1)  (2018-2-26)

2018.02.27

 

 

「QMS」という用語が出てくると、「それはISO 9001のことを言っている」と受けとめる方は意外に多くいらっしゃいます。

 

工業製品の大衆化による高度経済成長を支えてきたわが国の品質管理の発展の歴史を学び、またその進化のためにいくばくかの考察をしてきた者として、この誤解の持ち主に出会うと、何とも言いようのない失望感を抱いてしまいます。

 

QMSとは、言うまでもなくQuality Management System(品質マネジメントシステム)のことです。

意味は、品質のためのマネジメントシステム、あるいは品質マネジメントためのシステム、というところでしょうか。

品質に関わるこの一般名詞を、ISO 9001という固有名詞の意味だと誤解しているということから、ISO 9001の本質をも理解していないことが伺い知れ、したがって、品質概念の深遠さ、経営における品質の意義、ISO 9001の有効活用などについての理解も浅いに違いないと思ってしまい、それが「言い様のない失望感」につながってしまいます。

 

この誤解の解消は、経営における品質マネジメントの意義を理解し、その上でISO 9001の本質を見極め、その有効活用に結び付ける重要な一歩になると信じ、思いを綴ります。

 

 

 

 

■ISO 9000とは何か

 

「ISO 9000」には2つの意味が含まれます。

 

第一は、ISO 9000シリーズというQMSに関する一連の国際規格、とくにISO 9001という規格に記述されるQMSのモデルという意味です。

 

第二は、ISO 9001を基準文書として第三者機関が組織のQMSを認証する社会制度という意味です。

 

すなわち、ISO 9000とは、それを端的に表現するなら、「ISO 9001が提示するQMSモデルを基準とする民間の第三者機関によるQMSの認証制度」ということになります。

 

 

ISO 9000シリーズとは、皆さんご存知のように、1987年3月に制定、1994年7月に改訂、さらに2000年12月に大改訂、そして2008年にISO 9001の追補改訂、2009年にISO 9004の改訂、そして2015年にISO 9001の改訂、そしていまISO 9004改訂の最終段階にある、QMSに関する一連の国際規格です。

 

ISO 9000シリーズを構成するQMSの規格は、ISO 9001とISO 9004の2つの系統があります。

QMS認証の基準に使われていることもあり、ISO 9000シリーズのQMS規格はISO 9001と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、もうひとつISO 9004という規格もあります。

 

ISO 9001は、現在では、QMS認証制度におけるQMSの基準文書と位置づけられている規格で、品質保証(確立した要求事項に適合する製品・サービスを提供できる能力があることを実証することによる信頼感の付与)を基礎として、顧客満足、継続的改善、QMS設計、プロセス重視、リスクの考慮、知識基盤、ヒューマンファクタなどについてある一定のレベルのマネジメントを期待するQMSモデルです。

このQMSモデルの、範囲(Scope)とレベルをどの程度にすべきかは、QMS認証において、どの程度のQMSを確立・維持している組織を認証するのが適当と考えるかという経済社会のニーズに応じたものとなります。

 

 

これに対しISO 9004は、どのような経営環境にあっても持続的な成功を収めるための経営を、品質マネジメントのアプローチ(考え方と方法論)によって実現するための指針という位置づけです。

認証基準として用いるのではなく、組織が自らのマネジメントシステムを構築したり大改革しようとする際の指針であり、推奨事項です。

 

ISO 9001という国際規格は、国際的なQMS認証制度の基準に使われているという理由で、ISOの国際規格のなかで群を抜いて売れたモンスター規格です。

まさに、ISOのメガヒット規格です。

 

現在国際的に運用されているQMS認証制度は、ISO 9001を基準文書として、組織のQMSがISO 9001に適合しているかどうかを認証機関が審査し、適合していると評価されたとき「認証」する制度です。

多くの認証機関がありますので、その認証のレベルの同等性を保証するために、認定機関(日本ではJAB)が認証機関の審査能力や機関運営能力を審査・評価したうえで「認定」するような制度設計になっています。

 

この認証制度の本質は、実は、第三者の認証機関によって評価されるところにあります。

組織のQMSの構築・運営能力が、評価能力があり信頼できる認証機関によって評価され認証されていれば、取引を考えるとき、その評価結果を利用することによって、取引先の選択の質と効率を向上することが可能になります。

これがうまく機能すれば、取引活性化、経済活性化が期待できます。

 

認証制度の意義はこれにとどまりません。認証される組織が認証取得にあたって適切な行動をとれば、認証の過程で組織の能力が向上し、経済社会全体のレベルが向上します。

 

 

 

■QMSの意義

 

後述しますが、現在のQMS認証の基準となっているISO 9001は、それほどレベルの高くないQMSモデルです。

それでも、これに挑戦する組織の期待には大きいものがあります。

その理由は、ISO 9001が品質マネジメントに関わる規格であるからにほかなりません。

 

ISO 9001を信奉している方々には大変申し訳ないのですが、ISO 9001のQMSモデルそのものが素晴らしいからというわけではなく、ISO 9001が品質マネジメントに関わる規格であり、品質が経営において極めて重要だからなのです。

 

経営の目的は、製品・サービスを通して顧客に価値を提供し、その対価から得られる利益を原資としてこの価値提供の再生産サイクルを回すことにあると考えられます。

品質とは、一般に「考慮の対象についてのニーズに関わる特徴の全体像」と定義されます。

実際、ISO 9000シリーズ規格の初版の用語規格ISO 8402:1986ではそのように定義されていました。

ニーズを抱くのは顧客ですので、品質とは、「製品・サービスを通して提供される価値に対する顧客の評価」と考えることができます。

すると、製品・サービスの品質こそが経営の直接的な目的となります。

 

 

これに対し、経営の目的は利益であるという論が一般的です、その利益をあげるためには、何にもまして売上を増すために顧客満足という意味での製品・サービス品質の向上が必須となります。

社会・顧客への価値の提供という組織設立の目的を考えるなら、利益をあげることそのものが経営の目的というよりは、顧客に価値を提供し続けるために利益をあげるのだと考えるべきです。

 

 

組織は顧客に価値を提供するために設立・運営されます。

その価値は、製品・サービスを通して顧客に提供されます。その製品・サービスの品質を確かなものにするためには、それら製品・サービスを生み出すシステムに焦点を当てることが有用です。

それが品質のためのマネジメントシステムです。

このシステムは、目的に照らして、必然的に、総合的・包括的なものとなり、結果的に組織のブランド価値向上、さらには業績向上につながります。

 

ISO 9001は、限定されているとはいえ、経営において重要な品質のためのマネジメントシステムQMSの国際的なモデルです。

そのQMSの意義を、この用語を構成する3つの単語Quality(品質)、Management(マネジメント)、System(システム)のそれぞれの意義から考えてみます。

 

 

Q: Quality品質

 

経営、組織活動において、何ごとにつけ、「顧客」に焦点を当てるべきです。

上述したように、経営の目的は顧客価値提供にあり、そのためのマネジメントとはすなわち「品質マネジメント」にほかなりません。

顧客志向の考え方は、外的基準で物事を考えることであり、それは「目的志向」にほかなりません。

経営・管理におけるこの思考・行動様式は、様々な良い影響をもたらすに違いありません。

 

 

M: Managementマネジメント

 

品質の良い製品・サービスを提供するには、何よりもその製品・サービスに固有の「技術(=目的達成のための再現可能な方法論)」が必須です。

同時にこれらの技術を生かして、日常的に目的を達成していくことも必要で、その方法論である「マネジメント」の重要性を認識すべきです。

また、マネジメントの原則、例えばPDCAを回す、標準化、プロセス管理、事実の重視、改善、原因分析、ひと中心経営などを理解し、その原則に従い合理的、効率的に目的を達成していくが重要です。

 

 

S: Systemシステム

 

個人の思い、頭の中の漠とした思いを、目的達成のための仕組み、仕掛けにより、確実に形にしていくことが必要で、この意味での「システム化」に焦点を当てるべきです。

「システム」とは、全体としてある目的を持ち、多くの要素から構成され、要素間の関係、目的との関係を知って、目的達成、最適化を図るときに使われる用語です。

その意味での「システム志向」を重視すべきです。

組織全体で目的を達成するために、組織を構成する各部門、各機能、各人の役割を認識し、統合化していくことも必要です。

 

 

 

■QMSモデルとしてのISO 9001の位置づけ

 

ここまで述べてきましたように、品質は、経営の目的である製品・サービスを通して顧客に提供する価値に対する顧客の評価という意味で極めて重要です。

 

この意味で、品質は経営の最重要課題であり、それほど重要なのですが、ISO 9001のQMSモデルは、品質のためのマネジメントシステムモデルとしては、それほどレベルは高くはありません。

 

ISO 9000シリーズ規格のもう一つのQMSモデルISO 9004は、ISO 9001より広く深いQMSモデルです。

品質立国日本の実現に寄与した日本のTQC(Total Quality Control;総合的品質管理、全社的品質管理)は、それよりさらに包括的な品質マネジメントの思想であり方法論です。

TQCから発展をしたTQM(Total Quality Management)はさらにレベルの高い、まさに品質経営というに相応しい品質マネジメントのモデルです。

 

こうした様々なスタイルの品質マネジメントのなかで、ISO 9001は、国際標準化されたQMS要求事項モデルとして、QMSの基盤になり得ます。

少なくとも、これを超えるモデルとしてのISO 9004の指針を参考に、組織は自主的にQMSを構築・運用できます。

組織が構築したいのは、さらに上の、競争力のある製品・サービスを提供するための総合的な品質マネジメントシステムのはずです。

 

ISO 9001という基盤のうえにどのようなQMSを構築するかということが課題であって、ISO 9001こそがQMSの唯一のモデルと考えたり、ISO 9001への適合そのものを目的にするようなQMSの整備は、賢いこととは到底いえないのではないでしょうか。

 

ISO 9001のQMSモデルや認証制度を、経営の道具・手段としてどのように活用すればよいでしょうか。

ISO 9001の有効活用とは、「組織の目的を達成する上で、ISO 9001を基準とするQMS認証が有している本質・特徴を活用することによって、より効果的、効率的、適切に実現する」ことを意味していると思います。

そうであるなら、ISO 9001の有効活用のためには、以下のような考察が必要となるでしょう。

 

・現在および将来の経営環境の認識と対応方針

・品質に関わる経営目的

・ISO 9001を基準とするQMS認証の本質・特徴の理解

・目的達成に有効な本質・特徴の選択

・本質・特徴の活用による目的達成の容易化、有効性向上、効率向上

 

ISO 9000を知り(本質、特徴を理解し)、己を知れば(自らの組織の目的を明確化し、問題点を理解すれば)、自ずと道具であるISO 9001の使い方も分かるはずです。

 

 

(飯塚 悦功)

 

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