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QMSの大誤解はここから始まる 第12回 今回の更新審査も指摘がゼロでよかったです!   (2017-12-25)

2017.12.25

 

ご好評をいただいております「QMSの大誤解シリーズ」、年内最後の項になりました。

それでは本日号をどうぞ。

 

 

筆者は種々の産業分野におけるISO9001:2000以降の認証審査の実態を見てきました。

 

この品質マネジメントシステム(QMS)規格の改正から17年の歳月が流れ、“継続的なQMS有効性の改善”や“プロセスアプローチ”という言葉が、普通に語られるようにはなってきましたが、認証審査のアウトプットである指摘事項は、組織のQMS改善に有効に利用されていないように思えます。

 

お金をかけた認証審査からのアウトプットを有効に利用しないのは実にもったいないことですが、これは単に組織の問題だけでなく今までのISOの歴史を考えると他にも原因があるようです。

その原因の中で、組織のISO9001認証取得の動機が何であったかが大きく影響しているように思えます。

 

 

ISO9001の認証取得の動機が、お付き合い、顧客からの要求、入札等の条件などで、組織自らがISO9001を導入して事業改革や改善を行おうという目的ではない場合が、この表題の誤解を生んでいるようです。

 

また、審査のアウトプットを利用しないということは、指摘事項 注1)  が組織にとって事業改善のために役立たないという状況もあるかも知れません。

何の指摘もないことが良いことである、という誤解について色々な側面から考えたいと思います。

 

注1 : 審査における指摘には、不適合(ISOの定義:要求事項を満たしていないこと)及び観察事項があります。

観察事項の定義は審査機関が決めていますが黒(不適合)に限りなく近いものから改善した方が良いものと幅が広いので、審査機関によっては“改善の機会”(OFI : Opportunity for Improvement)とか推奨事項などと使い分けているところもあります。

 

 

 

 

その1組織による誤解

 

ISO9001認証を“ISO看板”が目的と考えている経営層

 

―もともと、事業とQMSの統合などの考えが希薄で、ISO9001の維持は余分な仕事と考えている。

―このような経営層の下では、組織の要員のISOへの理解は乏しい。

―ISO事務局の要員に組織を束ねるような職制は少なく、組織内への影響力もない。

―画一的な品質マニュアルと関連規定文書は、審査のあるタイミングでしか見ることはない。

―内部監査はISO維持のための年中行事でしかなく形骸化している。また経営者も内部監査に何も期待していない。

―審査でもらった指摘については、是正・改善活動で余計な仕事が増やされたと考えている。

―審査では、何の指摘ももらわないことが最善と考えているので、指摘がないことが良いと考えている。(これはISO9001を正しく評価していないことの裏返し)

―このような組織では、指摘を受けた部門(責任者)は被害者意識に陥り、組織内における自分の評価にも影響するので審査員に対し指摘の受け入れに抵抗する。

―指摘を出さない審査員を有する審査機関に流れてゆく傾向がある。

―認証機関に支払う費用は安い方がいいので、審査維持費用が安い機関へ移転してゆく傾向がある。

 

このような状況を作ってきた原因には、ISOの初期導入時期から始まった「手順を定めて文書化する」及び「記録を維持する」という要求事項が、組織本来の業務とは別次元の画一的な文書・記録体系を作り、それを認証審査のために運用するという間違ったISO文化を作ってしまったことが始まりと考えています。

 

文書・記録主義で運用するISOの癖がついてしまった組織は、ISO9001:2000で、組織の品質マネジメントシステムへの大変換があったにも拘らず、プロセスアプローチの概念で運用することへの転換は容易ではなかったようです。

これには、審査側にも問題がありました。(その2.に続く)

 

 

 

 

その2.審査における誤解

 

ISO9000シリーズが1987年、JIS化が1991年に行われてから約10年、ISO9001:2000の大変換までのISO9000シリーズ初期普及期で形成された文書・記録主義に慣れ切ってしまった審査側もISO9001:2000のQMS概念である組織本来の業務プロセスの運用に焦点をあてる「プロセスアプローチ」審査への変換は簡単ではなかったようでした。

 

ISO9000初期普及期の多くの審査で行われていた文書主体の品質記録に偏った審査からの変換ができなかったことも、事業に役立つ審査アウトプットが出てこない原因の一つと考えられます。

 

また、上記その1.の中で述べたような組織においては、審査員が指摘を出すと抵抗するので審査員は組織との衝突を避け、結果的には指摘を出さない、または指摘のレベルを下げる(例えば不適合でなく観察事項への格下げ…これをソフトグレーディングという)という状況も時に観察されました。

また、審査機関はISO初期普及時代が終わり顧客獲得の競争が始まった頃から顧客囲い込みのために厳しい指摘を出さなくなった、ということも聞きます。

 

まさに、これがISO審査の負のスパイラルなのです。

 

 

 

 

その3.誤解を解く

 

でも、そのような負の審査パターンばかりではありません。

プロセスアプローチをとれる審査員と、それを理解する組織側のコンビネーションは組織のQMSの改善に対して効果的な結果を出しているのも事実です。

例えば、経営者への面談の場面などで経営者が“プロの厳しい目で見ていただき有効な指摘を多く出してください”などと発言するケースがあります。

これは審査員にとって励みになり、各部門で思い切り審査できることになります。

ただし、経営者が期待する審査アウトプットを出すためには審査員の力量が必要です。

改善の玉になる良い指摘は力量がある審査員でないと、なかなか出せないので審査員へのプレッシャーになりますが、審査員として切磋琢磨の良い刺激になります。

 

 

ISO9001:2000以降は、自動車や航空宇宙を始めリスク思考の強い産業分野ではISO9001をベースにしたQMSセクター規格の制定が進み、プロセスアプローチに基づく内部監査、及び審査においてもプロセス毎に現場を対象にした実践的な活動が審査されるようになりました。

セクター規格は、業界ニーズに基づいた厳しい要求事項が加えられていること、審査員には資格要件、研修、試験が課せられており、一定の専門的力量基準が担保されているので顧客VS供給者の関係で有効に機能しているようです。

 

 

通常のISO9001では、業界の固有要求事項はないので、一般化された要求事項に対して組織がどのようにISO9001のQMSモデルを自社の事業プロセスに組み込むかを経営層が判断することが重要になります。

これがISO9001:2015箇条5.リーダーシップの要求事項にある「事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする」ということなのです。

 

 

ISO導入後の組織の活動が事業改善に結びついている事例は、経営層がISO9001の本質(注2:品質マネジメントの原則)を理解してリーダーシップをとっている事例が大半であり、優秀な事例はJABアワードなどで紹介されています。

 

2品質マネジメントの原則(JIS Q 9000:2015より抜粋)

 

・顧客重視:品質マネジメントの主眼は、顧客の要求事項を満たすこと及び顧客の期待を超える努力をすることにある。

・リーダーシップ:全ての階層のリーダーは、目的及び目指す方向を一致させ、人々が組織の品質目標の達成に積極的に参加している状況を作り出す。

・人々の積極的参加:組織内の全ての階層にいる、力量があり、権限を与えられ、積極的に参加する人々が、価値を創造し提供する組織の実現能力を強化するために必須である。

・プロセスアプローチ:活動を、首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスであると理解し、マネジメントすることによって、矛盾のない予測可能な結果が、より効果的かつ効率的に達成できる。

・改善:成功する組織は、改善に対して、継続して焦点を当てている。

・客観的事実に基づく意思決定:データ及び情報の分析及び評価に基づく意思決定によって、望む結果が得られる可能性が高まる。

・関係性管理:持続的成功のために、組織は、例えば提供者のような利害関係者との関係をマネジメントする。

 

 

 

 

その4.審査のPDCA

 

審査機関が策定する審査プログラムは認証周期(3年)における審査活動において、組織のQMSの継続的改善のきっかけを与えるために重要な意味をもっています。

 

認証審査の審査プログラムは、初回認証から始まる3年周期の審査(サーベイランス→サーベイランス→更新審査)及びその後の更新周期における個々の審査で何を(重点的に)評価してゆくかという、いわば審査のPDCAになるものです。

組織の外部、内部の状況が及ぼすQMSに関連した変化点、及び審査におけるアウトプットに対して審査プログラムを見直し、各審査の審査計画を策定することになっています。

 

3年間の認証周期内における個々の審査でのアウトプット(指摘)が組織にどのような効果をもたらしたかと評価することにより、組織のQMS改善状況と同時に審査の継続的な有効性を測ることができます。

組織としても審査対価を払っているのですから、審査のアウトプットには期待すべきです。

そして個々の審査におけるアウトプットを3年間のスパンで見た時に、組織のQMSひいては事業プロセスにどのように役立ったかを評価することを強くお奨めします。

審査機関に対しても、個々の審査の指摘に対する有効性をフィードバックすることは認証審査の価値向上につながります。

 

 

審査で指摘をもらわないことが必ずしも良いことではないこと、そして良い指摘をもらうことで組織のQMS改善が促進されることがお分かりいただけたと思います。

 

組織側としては、トップマネジメントがQMSの有効性に説明責任を負うこと、組織の事業プロセスとQMSの統合を確実にする、というISO9001:2015の要求事項を正しく理解したうえで審査を有効に活用すること、また、審査機関側は、組織のQMSを通して事業プロセスを継続して改善させるような審査のアウトプットがだせる審査の提供と、組織ごとに有効な審査プログラムを策定し審査のPDCAを廻すという、双方の取り組みが重要ということです。

 

(長谷川 武英)

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