QMSの大誤解はここから始まる 第8回 ISO 9001に基づくシステム構築は品質部門の仕事です(1) (2017-11-27)
2017.11.27
「QMSの大誤解はここから始まる」シリーズ、4つの目のテーマは、
「ISO 9001に基づくシステム構築は品質部門の仕事です」
まずはその前編です.
一般的に,誤解している人は,自分が正しく誤解しているとは毛頭思っていないのが普通です.
こういう方々の誤解を解くことができるかどうか,できるだけ分かりやすく話を進め,一人でも多くの方の誤解が解け,ISO 9001を有効に活用していただければと思っています.
ISO 9001は,顧客ニーズに合った製品・サービスを持続的に安定して提供するための品質システム規格です.
品質システム規格を有効に機能させるためには,以下の事項を十分理解する必要があります.
- ・マネジメントシステム規格の特性
- ・マネジメントシステム規格とシステムの目的
- ・マネジメントシステム文書とは
- ・マネジメントシステムを確立するとは
ISO 9001に則ったシステム構築は,一般的に品質部門が担当していますが,残念ながら多くの場合,これら品質部門の担当者が,上記を正しく理解しているとは言い難いのです.
ここでの品質部門とは,全社の「品質」に関わる主管業務を行う部門と言う意味で使用しています.
品質部門の業務は,組織の状況によって異なりますが,基本的に以下の4つの業務の一部またはすべてを含んでいます.
- 1. 品質保証(狭義)活動:クレーム処理,試験設備管理,検査業務管理,品質監査の企画・実施,品質報告書などの発行
- 2. 全社的調整:品質会議の主催,部門間にわたる品質問題に対する調整,全社重要品質問題解決にかかわる調整,クレーム処理についての全社的調整
- 3. 全社的品質保証/管理体制の充実:品質保証/管理規定の改廃の起案,品質保証/管理体制の整備・推進,PLP体制の整備・推進,・QMS認証の維持・活用
- 4. 経営陣のブレーンとして:経営陣に対する品質状況の報告,品質方針の起案,年度品質保証/管理計画の起案
上記業務は,生産管理や技術管理部門が行う業務同様,バリューチェーンの主プロセス担当部門の業務とは性質が異なります.
品質で言えば、品質部門が、品質の維持・向上のすべてを計画・実施しているわけでなく,品質に関わる全社の業務の支援、調整、促進、推進、管轄などの横串機能と、一部の主プロセス業務(検査など)の実施を担当しています.
ISO 9001のマネジメントシステムの目的は,顧客価値の創造と顧客満足の促進であり,横串機能も重要ですが,システムの目的達成により大きく影響するのは,設計や製品・サービスの実現などバリューチェーンの主プロセスです.
ISO 9001のマネジメントシステムの有効性は,主プロセスの質,すなわち主プロセスが蓄積(標準化)してきた技術やノーハウ,人間関係を含めた組織文化などが土台となっており,横串機能を担う品質部門だけでは有効なISO 9001のマネジメントシステムの構築は望めないのです.
私の知り合いが,中規模の組織の品質管理部門で働いています.
先日,久しぶりに会う機会があったので,お酒を飲みながら,彼の近況について聞いてみました.
ここ数年はISO9001の導入とシステムの維持を主な業務としているとのこと.
ISO 9001認証取得後の効果はどうか聞いてみました.
彼の言によると,
それまで彼が所属する品質部門は,信頼試験の実施,品質問題の解決の窓口,クレーム処理を主な業務としていたが,ある日突然,ISO 9001の認証取得を社長に指示された.
起こった問題をその都度対応する「もぐら叩き」的体質を改善するいい機会と思い,十分な時間を掛けISO 9001規格を理解し,細心の注意を払い品質文書を作成,無事ISO 9001認証取得を果たした.
当時は,社長から褒められたが,その後認証を維持するも,社長が期待した効果が出ていない.
最近では,ISO 9001への興味を失くしたのか,マネジメントレビューに参加はしているが積極的な発言は見られなくなった.
このままではISO9001認証の維持もままならない,
どうやったら,ISO 9001の効果が発揮されるのか悩んでいるとのこと.
でした.
ISO 9001導入に至った経緯を少し詳しく聞いてみました.
社長が何故急にISO 9001について興味を持ち始めたか定かではないが,地域の経営者の懇談会か何かで,ISO 9001を導入し経営の効率化,組織の体質改善に効果を発揮した話を聞き,我社も同じ効果を得たいと思ったようだとのこと.
どうもISO 9001認証をとるだけで自動的に効果が出ると期待していた節があるのです.
ISO 9001は,マネジメントシステム規格です.
ISO 9000:2015によれば,マネジメントシステムとは,「方針及び目標,並びにその目標を達成するためのプロセスを確立するための,相互に関連する又は相互に作用する,組織の一連の要素」と規定されています.
ここでの要素を規定することで,目標を達成するための組織の構造,役割及び責任,計画,運用,方針,慣行,規則,信条,目標及びプロセスが確立されます.
これらの要素の基本特性を規定した規格がマネジメントシステム規格であり,組織が維持してきた組織構造,役割・責任及び強みなどがその土台となります.
ISO 9001は,組織で従来統一されていなかったこれらの要素の基本特性を規定することで,一貫性を持ち,持続的なマネジメントシステムの構築運営を可能とするために作成された規格です.
ここで重要なのは,マネジメントシステムには目標が必須ということと,組織が蓄積してきた技術や組織文化を土台にせず,にわか作りしたマネジメントシステムは有効に機能しないということです.
ましてや,ISO 9001認証取得の窓口機能を持った品質部門が,組織内の主プロセスを受け持つ部門が蓄積してきた技術,ノーハウ及び組織文化を無視して,頭で考えたシステムを押し付けようとしても,プロセス責任者がついて来る訳がないのです.
この私の知り合いの方の話はもう少し続きます.
次週に続けさせて頂きます.
(住本 守)