超ISO企業研究会メルマガ 番外編(2) (2017-9-18)
2017.09.15
ISO9001:2015が発行されてから早くも2年が過ぎました。
ISO9001に基づく品質マネジメントシステムについて、改めて規格の意図について、これから3回にわたって述べていきたいと思います。
第1回目は「マネジメントシステムとは何か」についてです。
当たり前ですが、ISO マネジメントシステム規格(MSS:Management System Standard)は、組織に対して「マネジメントシステム」の構築を要求しています。
2012年に発行された、すべてのMSSに適用される共通テキスト(附属書SLとも呼ばれる規格開発者に要求されるISO指針書)の箇条4.4には、次のように規定されています。
「組織は,この規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,XXXマネジメントシステムを確立し(establish),実施し(implement),維持し(maintain),かつ,継続的に改善(improve)しなければならない。」
組織は誕生した時から、顧客に製品及びサービスを提供し(購入してもらい)、その結果収益を上げることで成長してきていますが、組織はそのやり方を定例化し、毎年少しずつ改善することで、今日のやり方を得ています。
誕生して2、3年の組織は別として、5年も経つとそのやり方はマネジメントシステムと呼んでよく、総ての組織にはマネジメントシステムが(その良し悪しは別として)存在しています。
事業経営において、組織にどんなマネジメントシステムが存在しているかというと、一口で言ってしまえば、期首に事業計画を立て、それを実施し、4半期ごと評価し、修正を加えながら期末に1年の纏めを行うというマネジメントシステムです。
そのためには、売上計画、人員計画、設備計画、実行計画などの個別計画を立て、それらに従って日々目標を達成しようと実行、運用しています(PDCAサイクル)。
これらの一連の活動のことを、附属書SL箇条5.1-2では「事業プロセス」と呼んでいます。
事業経営において、このマネジメントシステムが有効に機能すると、「現在の状態を今後も継続しかつ改善すること」の可能性が高まり、顧客の信頼感もより高まることになります。
ここでテーマ「マネジメントシステムとは何か」について解説をすることになりますが、このテーマは意外と難問です。
附属書SLで定義していますが、マネジメントは理解できても、システムはきちんと考えると奥深い概念であると思います。
因みに、箇条3.4にマネジメントシステムは次のように定義されています。
「方針及び目標,並びにその目標を達成するためのプロセスを確立するための,相互に関連する又は相互に作用する,組織の一連の要素。」
ここでいう一連の要素、すなわちマネジメントシステムの構成要素は、方針、目標、プロセス、組織構造,役割及び責任,計画及び運用です。
なぜそういえるかと言うと、「方針、目標、プロセス」はマネジメントシステムの定義から言えますし、「組織構造,役割及び責任,計画及び運用」は箇条3.4注記2(下記参照)からきています。
「注記2 システムの要素には,組織の構造,役割及び責任,計画及び運用が含まれる。」
組織が品質マネジメントシステムを構築しようとするときに注意しなければならないことがあります。
それは既に組織に存在している事業経営のマネジメントシステムとの取り合いです。
具体的に言うと、マネジメントシステムの構成要素である、方針、目標、プロセス、組織構造,役割及び責任,計画及び運用などと、QMS方針、QMS目標、QMSプロセス、QMS組織構造,QMS役割及び責任,QMS計画及び運用などとの相互関係の分析、評価、関係設定などの活動が必要です。事業方針vs QMS方針、事業目標vs QMS目標、事業プロセスvs QMSプロセス、事業構造vs QMS構造、事業役割及び責任vs QMS役割及び責任,事業計画及び運用vs QMS計画及び運用と多くの対応要素が存在する中、2種類のマネジメントシステムのどちらを優先するかを各要素で決める必要があります。
当然ですが2つのマネジメントシステムは対立構造にはなりません。
しかし、事業経営のマネジメントシステムが優先され、QMSマネジメントシステムは無視されてしまうということはよくあることで、そうなることの危険性は認識しておかなければなりません。
ここで強調したいことは、品質管理の要素(例えば、品質保証、因果関係、ばらつき、層別、源流管理、工程での品質の作り込みなど)が無視されることは無いのですが(日本の企業であればしっかりと根付いている)、それらの一連の要素の相互関係のシステムが無視されやすいと言いたいのです。
附属書SL箇条3.4の注記1には「一つのマネジメントシステムは,単一又は複数の分野を取り扱うことができる。」と書かれていますが、事業経営という一つのマネジメントシステムは事業以外、QMS、EMSあるいは労働安全衛生というような複数の分野を取り扱うことができるという意味に理解することができます。
上記においては事業と品質のマネジメントシステム間の取り合いを説明しましたが、そこに環境、労働安全衛生などのマネジメントシステムがなお加わる状況を想定すると、共通テキスト化の活動を相当積極的に実施しないと、マネジメントシステム形骸化の恐れが高まることは必至であると考えます。
箇条5.1でいう、「事業プロセスにXXXマネジメントシステム要求事項を統合する」とは、この複数のマネジメントシステム構成要素をうまく関係付け、相互依存させたり、相互に影響を及ぼさせたり。融合させたりすること考えなければならないことを示唆しています。
(つづく)
(平林 良人)