超ISO企業研究会

最新情報

  • HOME >
  • 新着 >
  • ここがポイント、QCツール 第37回 製品安全(1) (2017-7-18)

新着

ここがポイント、QCツール 第37回 製品安全(1) (2017-7-18)

2017.07.18

 

 

製品安全の最終目標は、購入から廃棄に至る製品、プロセス及びサービスのライフサイクル期間中で、財産、環境への影響、或いは人に危害を及ぼす製品事故を零にすることにあります。

我々が身近に感じる製品安全に関連する事項として、電気製品などの製品安全規格及びそれに基づく製品安全認証があります。

これらも、製品安全を担保する仕組みの一つです。製品安全は、安全規格への適合に加え製造者の安全設計、安全を優先した製造及び安全を考慮したメンテナンスを伴って最終目的達成に近づきます。

 

2回にわたって、製品安全の話をさせていただきます。

 

初めにISO/IEC Guide 51に規定されている安全の概念、リスクアセスメント及びそれに基づく安全設計の話、最後に、「製造物責任法」の話をしたいと思います。

 

 

 

安全の概念:

 

ISO/IEC Guide 51をベースに、安全の概念を説明します。ISO/IEC Guide 51は、規格に安全に関する規定を導入するためのガイドラインとしてISO/IECの両組織が共同開発し、1990年に初版が発行され、その後1999年に改訂されました。

同規格は2004年JIS8051:2004としてJIS化されている。ISO/IEC Guide 51は以下の4つの特徴を持っています。

 

(1) 安全はリスクを経由して定義される

(2) リスクアセスメントの実施要求

(3) リスク低減の方法論

(4) 規格の階層構造

 

ISO/IEC Guide 51で示される安全性は、絶対安全を意味するのではなく、危害の発生確率と危害の程度の組み合わせをリスクとして見積もって、そのリスクが受容できるかどうかにより安全であるか否かを決めるものです。

尚、ISO/IEC Guide 51は、関連する多くの規格が存在し、その基本体系は、基本安全規格(A規格)、グループ安全規格(B規格)、製品安全規格(C規格)の3種類の規格の階層構図になっています。

 

 

ISO/IEC Guide 51で定義されている用語

用語 定義
安全(Safety) 受容できないリスクがないこと
リスク(Risk) 危害の発生確率およびその危害の程度の組み合わせ
危害(Harm) 人の受ける身体的障害若しくは健康障害、又は財産若しくは環境の受ける害
危険事象(Harmful event) 危険状態から結果として危害に至る出来事
危険源(Hazard) 危害の潜在的な源
危険な状態(Hazardous situation) 人、財産又は環境が、一つ又は複数のハザードにさらされている状況
許容可能なリスク(Tolarable risk) 許容可能なリスク(Tolarable risk):社会における現時点での評価に基づいた状況下で受け入れられるリスク
保護方策(Protective measure) リスクを低減するための手段
残留リスク(Residual risk) 保護方策を講じた後にも残るリスク
リスク分析(Risk analysis) 利用可能な情報を体系的に用いてハザードを特定し、リスクをも積もること
リスクの評価(Risk evaluation) リスク分析に基づき、許容可能なリスクに到達したかどうかを決定する過程
リスクアセスメント(Risk assessment) リスク分析及びリスク評価からなるすべてのプロセス
意図される使用(Intended use) 供給者が提供する情報に基づいた製品、プロセス又はサービスの使用
合理的に予見可能なご使用

(Reasonable forseeable misuse)

供給者が意図しない方法であるが、人間の挙動から生じる容易に予測しうる製品、プロセス又はサービスの使用

 

 

 

リスクアセスメント及びリスク対応:

 

リスクアセスメントは、リスク分析とリスクの評価で構成され、リスク分析では、ハザードの特定及びリスク見積もりを行います。

 

・ハザードの特定はシステマティックで、包括的な危険源分析の手法を用いることが望ましい。

危険源分析の手法には、演繹的方法と帰納的方法の2つがある。演繹的法の代表例はFTA、機能的方法の代表例は、FMEA、PHAなどである。

・リスク見積もりには、リスクマトリックスを使用する。

リスクマトリックスは、要素を4分類する場合、6分類する場合などさまざまである。

 

 

以下に例示。

 

 

頻度

結果

破局的な

(catastrophic)

重大な

(critical)

軽微な

(marginal)

無視できる

(neglible)

頻繁に起こる(frequent)

I

I I

II

かなり起こる(probable)

I

I II

III

たまに起こる(occasional)

I

II III

III

あまり起こらない(remote)

II

III III

IV

起こりそうもない(improbable)

III

III IV

IV

信じられない(incredible)

IV

IV IV

IV

 

 

等級I:        許容できないリスク。

等級II:    好ましくないリスク。リスク軽減が非現実的、リスク軽減にかかる費用対効果比が著しく不均衡な場合だけ許容。

等級III:     リスク軽減にかかる費用が得られる改善効果を超える時に許容。

等級VI:     無視できるリスク。

 

 

 

・リスク分析の結果を受けリスクの評価を行う。

ここでのリスクの評価とは、リスク見積もりの後、許容可能なリスクが達成されているかどうか、適切にリスクが低減されているかどうか、判断基準となるリスク基準に基づいて決定する。

 

リスク領域の概念は次の3つに分類されます。

①許容できないリスク領域、

②広く一般に受容されるリスク領域、

③トレラブルリスク領域。

 

これらリスク領域で①の全て及び③の一部でリスクの低減が必要になります。

リスクの源は、機械の故障、ハードの劣化、ヒューマンエラーなど多様に存在します。これらの源をカバーするリスク低減策の決定が重要になります。

リスクの低減において考慮すべき事項を以下に列挙します。

 

・高信頼度部品などを使用することで機械そのものを故障しないように作る。(フォールトアボイダンス)

・ソフトにバグが入り込まないように、設計に誤りが入り込まないように作る。(人間の設計ミスを少なくする技術)

・冗長技術を利用する。(フォールト・トレラント)

・設計の段階から安全を考慮する。(本質安全設計、フェールセーフ設計、フールプルーフ設計、テストの容易化・保全容易化設計、等)

・人間の注意により安全を確保する。(マネジメント、組織、管理、等)

・制度により安全を確保する。(法制化、標準化、認証制度、等)

 

安全という用語は、一般には形容詞的用法で使用され、何かを保護する、人が危害に合わないようにする或いはそのための工夫がなされている、と言う意味を表しています。

これらの用法では、安全は、必ずしも絶対安全を意味して使用されてはいません。

この考えを基に安全は、許容できないリスクがないことと定義されています。

リスクを構成する二つの要素の関係は、「リスク=危害の発生確率・危害の程度」で表され、「・」は、組合せを表しており、必ずしも掛け算ではありません。

リスクは低い方が良いのですが、実際には、何かものを使用する、或いは何かの行為を行うことは、リスクを取ることを意味しています。

この意味でビジネスの多くの場面でリスクを取り過ぎる傾向にあります。リスクを零にする必要はありませんが、安全に関してはリスクを慎重に特定し、評価し、許容できるレベルに低減することが重要です。

 

(住本 守)

一覧に戻る