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ここがポイント、QCツール 第34回 統計的手法(1) (2017-6-25)

2017.06.29

 

■品質管理における統計的方法の位置づけ

 

品質管理の発展とともにさまざまな手法が開発され適用されてきました.

なかでも「統計的方法」は,近代の品質管理の歴史の初めにSQC(統計的品質管理)の名とともに登場する中心的方法論でした.

 

わが国における品質管理は,その後TQC,TQMと発展を遂げてきましたが,SQCあるいは統計的方法がいまもって重要であることに変わりはありません.

 

なぜでしょうか.

品質管理が対象とする品質というものに「ばらつき」があり,しかも品質管理が「科学的方法」を志向してきたからです.

 

 

科学においては,「観察」「仮説」「検証」「法則」のサイクルを回しながら,対象に対する理解を深めていくという方法論を採用します.

観察の結果を解釈する仮説を設定し,事実に基づく論理的思考によって検証するということを繰返しながら,さまざまな現象を支配する一般法則を導き出そうとします.

導き出された一般法則は,他の現象を説明したり,予測したりすることに利用されます.

もし,説明や予測に失敗すれば,仮説を修正し,より一般的な法則を導くことを繰返します.

いわゆる「科学的弁証法」と言われる方法論です.

 

「観察」の過程においては,測定誤差やサンプリング誤差による「ばらつき」を含む情報から,対象のありさまに関する真実を知るために,統計的方法が必須の技術となります.

その観察結果を説明する仮説を「検証」する過程においては,さまざまな他の観察,調査,実験が行われ,その結果としてデータが得られ,こうした一連のデータに含まれる本質的な情報を抽出するためにも,やはり統計的方法が必要となります.

 

品質を科学的に管理しようとするならば,まずは品質に関する観察を行なうことになるでしょう.

すると何らかの事実やデータが得られます.

対象としている品質がばらつきますので,これらの事実やデータには「ばらつき」が含まることになります.

ばらつきを含むデータから正しい有効な情報を抽出し,これを管理しようとすると,どうしても統計的な考え方や手法が必要になるのです.

ばらつく品質を科学的に管理する際に,ばらつきの科学である統計的考え方や手法を用いるのは至極当然のことであり,また本質的なことなのです.

 

科学や工学において「観察(計測)」と「データ処理(統計)」は,きわめて基礎的なものであって,品質管理においてのみ重要というわけではありません.

「計測工学」と「統計的データ解析」はいつでもどこでも,いま問題にしている分野を支える基礎的な科学・技術なのです.

あらゆる科学者・技術者は,計測に関する基礎と,データ処理に関する常識を持ち合わせなければ一人前とは言えないでしょう.

 

 

 

■品質管理における統計的方法の活用

 

ばらつく品質を科学的に管理しようとすれば,品質管理のあらゆる場面で統計的方法が使われることになるのは当然で,改めて品質管理において統計的方法がどのように使われ,またどのように使われるべきであるかを論ずるのは,かえって難しいことです.

 

やや抽象的・一般的な表現になりますが,以下のようにまとめられるでしょう.

 

・製品企画 市場の要求の構造とその変化を理解する

要求内容と製品コンセプトの関係を把握する

・研究開発 断片的事実からそれらを支配する法則を見いだす

仮説を実験的に検証する

試験結果を正しく評価する

・設計開発 特性値をばらつかせる主要な要因を特定する

特性値と因子との間の定量的関係を知る

主要な因子についての最適水準を知る

・製造   工程の状態を正しく知る

品質特性と製造条件との間の関係を知る

不良の原因を探す

・検査   合理的な検査方式を設計する

・販売   需要の構造を理解する

需要の予測をする

・サービス フィールド品質情報を分析する

 

少し例を挙げることにします.製造や検査における統計的方法の活用については,品質管理手法として長い歴史がありますし,手順化されてもいますので,ここでは特に企画・開発・設計において適用可能な統計的方法について概観することにします.

 

市場動向の調査と潜在需要をもつ製品の発掘には,各種グラフ,クロス集計表,数量化Ⅲ類・Ⅳ類,多次元尺度構成法などが使われます.

また,ユーザーニーズの調査とマーケット・セグメンテーションには,調査結果の集計,分割表,数量化Ⅲ類,主成分分析,因子分析,クラスター分析,官能評価手法,サンプリング手法などが使えるでしょう.

 

要求品質の重要度づけ,要求品質と製品品質特性の関連づけ,製品品質特性に関する仕様の決定などの製品企画活動においては,クレーム件数・アンケート結果の集計,モニター調査,数量化Ⅰ類,重回帰分析,官能評価手法を用いた実験,主成分分析,数量化Ⅲ類などが使えるでしょう.

また,製品企画の一部としての販売価格・販売時期・販売量の決定には,重回帰分析,数量化Ⅰ類,時系列解析手法(指数平滑法など),ロジスティック曲線(製品ライフサイクル予測)などが使わるでしょう.

さらに原価企画には,コストテーブル(表,グラフ,重回帰分析,数量化Ⅰ類)が使われ,販売方法・サービス体制の検討には,市場調査結果の分析,販売地域のユーザー特性分析,信頼性予測手法などが利用されます.

 

新製品開発における,構想設計や各構成要素の仕様決定,生産方法の検討,製品評価方法の検討では,ヒストグラム,管理図,散布図などの基礎的統計手法や,回帰分析,実験計画法,SN比による解析などが用いられます.

また,製品開発における技術問題の解決にあっては,基礎的統計手法,実験計画法と実験データ解析法,回帰分析,多変量解析など,定量的な分析が必要な場面で,ありとあらゆる統計的手法が使われます.

さらに,信頼性予測・トラブル予測のために,ワイブル解析,ハザード解析,試験データの解析などが利用されます.

 

新たな技術的知識を獲得するために,現に存在している情報から本質を抽出するために,もっともっと統計的方法が活用されてしかるべきです.品質管理の高度化とともに,技術者の素養としての統計的考え方と手法の重要さを再認識せずにはいられません.

 

 

 

■これからのSQC

 

わが国における品質管理は,検査および製造工程の管理に統計的方法を活用することから始まりました.

そのような近代的品質管理をSQC と呼んだためか,SQC という呼称にある独特のイメージができあがってしまったように思います.

 

SQCと言うと,例のやさしすぎて役に立ちそうにないQC7つ道具,何のために学んだのかよく分からない確率論,何度聞いても理屈の分からない検定・推定の考え方,いまではほとんど使っていない管理図,理屈など知らなくても標準に従えば何とかなる抜取検査の理論,何がどう分かったことになるのか皆目分からない実験計画法や実験データの解析法,理屈が難しいわりにせいぜいワイブル確率紙しか使わない信頼性手法など,昔からある,一度は習ったことのある,結局はあまり役に立たなかった,あの「SQC 手法」のどこが現代の品質管理にも重要なのかと疑問をもつ方がいらっしゃるかもしれません.

 

SQCというものは,これまで品質管理に適用されてきた「統計的手法の集まり」などではなくて,品質管理においても,事実とデータに含まれる本質的情報を抽出するための科学としての統計的方法を最もふさわしい形で活用していこうという「考え方」とその「実践」なのです.

品質管理の対象となる分野が拡大し高度化するに従って,また統計の分野における発展とコンピュータの進歩に応じて,その活用の形態を変幻自在に変えていけばよいだけのことです.

 

品質管理の力点は確実に源流に移行しています.

マーケッティング,商品企画,基礎的研究開発,製品開発,工法開発において,ますます統計的手法の活用の場が広がってきています.

これに応えるかのように,多変量解析,時系列データ解析,計数値データ解析,感性品質データの解析などの分野で,新たな手法の開発や既存の手法の適用上の改良がなされています.

パソコンで高度な統計的手法が,普通の人々にも十分に使いこなせるような環境が整っています.

 

 

もし「SQC は古い」などと考えているとしたら,それは,統計的手法の深さと広がりとコンピュータの驚異的な進歩という,私たちが現に手にしている技術資産を有効活用せずに,無駄な試行錯誤によって現代社会において最も貴重な「時間」を浪費し,獲得するために多大な努力を払っている「情報」をみすみす喪失することにつながるに違いありません.

 

(飯塚悦功)

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