ここがポイント、QCツール 第15回 QC七つ道具(5):特性要因図,散布図 (2017-1-23)
2017.01.23
QC七つ道具の5回目は,特性要因図と散布図を取り上げます。
■□■ 特性要因図 ■□■
●特性要因図とは,その目的
特性要因図は,「結果の特性と,それに影響を及ぼしていると思われる要因との関係を整理して,魚の骨のような図に体系的にまとめたもの。」(文献1)を言います。
特性要因図という名前は,石川馨先生が名付け親です。
石川先生は,特性要因図の目的を「管理するには,目標を示して頑張れ頑張れというのではなく,要因の集まりである工程をしっかり押さえて,よい製品・目標・結果をつくりこむという工程(プロセス)管理の考え方を理解してもらうために開発したものである。」(文献2)と述べています。
品質,コスト,売上・量・納期などの仕事の結果(特性)は,作業者,材料・部品,設備・機械,作業方法などの工程(いわゆる,要因の集まり)によって,その良し悪しが大きく左右されます。
安定した状態に工程を維持することや原価低減などの管理・改善を適切に実施するためには,結果と原因との関係を知っていなければなりません。
そこで,魚の形を模して,目的とする特性を魚の頭に置き,その特性に影響を及ぼしていると思われるいろいろな要因を魚の骨上に書き表すことで,特性と要因との関係を図で整理しました。
このようにして「品質を工程でつくり込む」ことを強く意識した特性要因図が編み出されました。
なお,JIS Q 9024:2003では,特性要因図を「特定の結果(特性)と要因との関係を系統的に表した図である。」(文献3)と説明しています。
●特性要因図の実施手順の本質
特性要因図は,目的とする特性に影響すると思われる要因を連鎖的につないだTree(樹木)構造で系統的に整理することを特徴としています。
そのため,要因と要因とが複雑に絡み合っている構造は表しにくい面があります。
このような場合,新QC七つ道具の一つである「連関図」を用いて,要因間の因果関係(結果が原因の原因になるような関係)を論理的につなぐことが行われます。
また,原因追究において,特性要因図に表された直接的な要因に着目するのは当然として,背景となっている要因や誘因(因果関係を促進又は阻害するような要因)へも目を向けることが必要です。
役に立つ特性要因図を作成・活用するために,次のことに留意してください。
・衆知を集めます。重要な要因を洗い出すには,プロセスに関係するすべての人の意見を漏れなく集めることが不可欠です。
・頭で考えないで,事実・データを集めます。特性要因図が抽象的にならないように,事実・データに基づいて作成することが大切です。
・特性はできる限り具体的に表します。特性と要因との因果関係を事実・データで分析して,効果を確認するには,特性が抽象的な場合は容易ではありません。したがって,特性は,具体的に,できる限り数値で表せるものにします。
・重要な要因に印をつけます。このことにより,管理・改善や,異常発生時の原因追究をするときに,過去の知見を活かして重点指向で迅速な対処が可能になります。
・特性に関係すると仮定した要因は,特性と要因との因果関係を事実・データで検証することが必要です。ブレーンストーミングや投票だけに頼って原因を決めつけることは避けなければなりません。
・必要に応じて,特性ごとに何枚も特性要因図を作成します。1枚の特性要因図だけで問題解決できないことがあります。その場合は,特性要因図の大骨・中骨などで取り上げた要因を特性にし,特性ごとに幾つもの特性要因図を作成してより深い分析を試み,具体的な対策を講じていきます。
・常に検討を加えて改善します。特性要因図を書いただけで机の引き出しにしまっていては絵に描いた餅になってしまいます。職場の見えるところに掲示するなどして,常に新しい情報・ノウハウを書き加えていくことで,仕事に生きる特性要因図になっていきます。
特性要因図の大骨として4M(Man,Machine,Material,Method)を取りあげることは,特性に対する全貌の理解,分類,整理に有効ですが,因果構造を考察する場合は注意を要します。
結果である特性が起きるメカニズムに照らして考察し選択した最重要な要因を特性要因図の大骨に据えないと,特性と要因との因果関係の明確化が難しくなります。
●特性要因図の適用場面と得られる効用・メリット
特性要因図は,次に例示する,a)原因追究,b)手段抽出というような多面的な場面で適用され,実務に役立てられています。
1.不適合品や不良などの不具合が発生したとき,その原因を追究するために,不具合と要因との関係を図で分かりやすく整理することができます。そして,重要な要因を絞り込み,事実・データで原因を追究して対策を立てることで,要因を一つずつつぶしていき,不具合の再発防止に効果を上げることができます。
2.品質向上,受注拡大,原価低減,生産性向上などを特性に取り上げたとき,その改善の手段を出し合って特性要因図に整理することができます。「受注高を拡大したい」という目的に対して,いろいろな手段を抽出して整理し,重みづけることで,どの手段から着手するかを検討し,実行に移すことができます。
●他の手法との関係-特にQC七つ道具
特性要因図の特性に,パレート図で抽出した重要な項目を取り上げることで,重点指向で工程の改善を行うことができます。
QC七つ道具ではありませんが,要因を洗い出すときにブレーンストーミングが使われます。
また,要因に関する事実・データを,チェックシートで収集し,分析していくことがよく行われます。
●実施・運用時の注意・留意事項
特性要因図の要因を抽出するときの注意・留意事項を次に例示しますので,チェック項目として利用してください。
・要因の抽出に漏れはありませんか?(特性に対する知見・経験・技能などをもっているすべての関係者に聞くことで確認できます。)
・特性に関係のない要因が入っていませんか?
・抽象的な表現の要因が入っていませんか?
・要因の大きさが逆さになっていませんか?
・大骨・中骨・小骨の要因が系統だって,体系的に整理できていますか?
・末端の要因について,具体的なアクションがとれる(たとえば,データをとったり,条件を変えたりできる)ところまで,細かく抽出できていますか?
・要因の重みづけ,分析,対策などの優先順位が決まっており,納得できますか?
■□■ 散布図 ■□■
●散布図とは,手法の目的
散布図は,「二つの特性を横軸と縦軸とし,観測値を打点して作るグラフ」(文献3)を言います。
散布図は,結果をばらつかせている要因を見出すためや,要因の管理の幅にねらいをつけて結果の値を制御するためのツールとして有効です。
●散布図の実施手順の本質
散布図は,次のことに着目して活用することで2組の特性の関係を正しく把握できます。
・相関関係があるのかないのか(例えば,正の相関,負の相関,無相関,曲線関係など)。
・層別する必要はないか(例えば,層別することで2組の特性の関係が変わってしまうなど)。
・偽相関はないか(例えば,散布図上では相関があるように見えても技術的には相関関係が考えられないなど)。
・異常な点はないか(例えば,多くの点の集まりから飛び離れた点があるなど)。
・外挿がないか(例えば,測定範囲を越えた部分にまで相関関係や回帰直線を拡張しているなど),など。
●散布図の適用場面と得られる効用・メリット
散布図は,対になった2組のデータの関係を調べたい場面で適用されています。
対になった2組のデータxとyを採取し,グラフ用紙の横軸にデータxを,縦軸にデータyの値を目盛り,測定データを打点したときに,散布図上の打点の散らばり方を見て相関関係がある(データxとyとの間に直線的な関係がある)かないかを把握できます。
●他の手法との関係-特にQC七つ道具
散布図はグラフの表現形式の一つと捉えることができます。
1つの特性値の数の大小を比較することは棒グラフを作成すれば可能ですが,2つの特性値の数の大小の関係を棒グラフでは知ることが容易でありません。
このような場合,散布図を作成すると対になった2組のデータの関係を理解できます。
QC七つ道具の範囲を越えますが,符号検定法による相関係数の検定や,回帰式を求めることが,散布図によってできます。
●実施・運用時の注意・留意事項
散布図は,次の事項に留意して作成することで,情報を正しく素早く読み取れます。
・対になった2組の特性の一方が結果系,他方が要因系の場合は,結果系の特性を縦軸(y軸)に,要因系の特性を横軸(x軸)にします。
・縦軸は上に行くほど,横軸は右へ行くほど,大きな値とします。
・データは履歴のわかる,できる限り直近のものとし,データの組数は30組以上が望まれます。
・同じ値のデータが重なった場合は,重なりが分かるように表記します。
・必要事項(目的,縦軸・横軸の特性名・単位,データ数,製品名,工程名,作成者,作成年月日など)を確実に記入します。回帰直線を求めた場合は,回帰直線と回帰式を散布図中に書きます。
・散布図は正方形になるように,縦軸のデータ範囲と,横軸のデータ範囲とをほぼ等しくすると分かりやすくなります。
■参考文献
- 「日本の品質を論ずるための品質管理用語85」,日本品質管理学会標準委員会編,日本規格協会,2009
- 「TQCとは何か-日本的品質管理<増補版>」,石川馨,日科技連,1984,p.89
- JIS Q 9024:2003「マネジメントシステムのパフォーマンス改善-継続的改善の手順及び技法の指針」
村川賢司(前田建設工業)