ここがポイント、QCツール 第11回 QC七つ道具(1):概要,パレート図 (2016-12-19)
2016.12.19
今回からQC七つ道具を取り上げて解説します。
QC七つ道具は,QCサークルが1962年に誕生して以来第一線職場の管理・改善において広く活用し,品質,コスト,量,納期,安全,人材育成などいろいろな領域で成果を上げていることなどから,馴染みの深いQCツールです。半世紀以上にわたってその本質的な意義を失わず,QC七つ道具が活用され,日本の品質管理の発展に少なからぬ貢献をしていることは驚くべきことと言えます。
QC七つ道具が管理・改善の有効なツールとして,今日なおどのような意味をもって活かされているのかについて,ひも解いていきます。
■□■ QC七つ道具 ■□■
本シリーズでQC七つ道具と呼ばれている一つひとつの手法を解説するに当たり,QC七つ道具の全般を俯瞰して,その意義を読み解こうと思います。
1. なぜQC七つ道具と呼ばれるようになったのか
QC七つ道具はどのような意図をもって命名されたのでしょうか。
1964年と66年に発刊された石川馨氏の「新編 品質管理入門(A)・(B)」ではQC七つ道具という言葉は見当たりませんが,パレート図,チェックシート,ヒストグラム,グラフ,管理図,特性要因図,散布図,層別が随所に解説されており,QC七つ道具の要素は既に網羅されています(文献1)。
なお,「品質管理」誌の1961年10月号で石川先生は「QCの七つ道具」に触れていますが,七つ道具としての一意的な手法までは特定していません。
米山髙範氏の「品質管理のはなし」でもQC七つ道具という言葉は使われていませんが,「現場とQC」誌(現「QCサークル」誌)の第1号(1962年4月)~50号までに掲載されたQCサークルの体験談で,どのような手法が何回使われているのかを調べた結果が掲載されています。
それによると,一番多い手法が,特性要因図で157回,その次がパレート図で129回と,順次,グラフ(106回),管理図(79回),チェックシート(60回),ヒストグラム(56回),散布図(14回)となります(文献2)。
これらの一連のツールを明示的にQC七つ道具と命名していなくても,「QC手法」や「現場のQC手法」などの呼び方で,手法の考え方や使い方が浸透してきており,現場の管理・改善で数多く役立てられていることが伺われます。
QC七つ道具という名前を冠した最初の書物は,1980年に発刊された「やさしいQC七つ道具」(細谷克也,他著)と言われています(文献3)。
続いて1982年に発刊された「QC七つ道具」の序文で,石川馨氏は,「“QC七つ道具”という名前をつけたのは,弁慶の七つ道具からとった名前である。」(文献4)と述べています。
第一線職場で働く人々が管理・改善を実践するうえで実際に役立つ基本的な手法の集まりをQC七つ道具としてまとめて名づけ,その考え方と使い方を普及・浸透してきたことが,現在に至るまで,また将来にわたり,品質を中核にした管理・改善に役立つ基本的なツールとしての位置づけを確立してきたと言えます。
2. QC七つ道具とは
それでは,QC七つ道具とは,具体的に何を指すのでしょうか。
QC七つ道具を一言で表すならば,「品質管理を進めるうえで,基礎になるデータのまとめ方に関するツールの集合。」(文献5)のことを言います。
通常,①パレート図,②チェックシート,③ヒストグラム,④グラフ/管理図,⑤特性要因図,⑥散布図,⑦層別の7手法を指します。
一方,層別は手法と言うよりも考え方という観点や,グラフと管理図とは目的・理論・用途が異なり別の手法とした方がよいという観点もあります。
この観点では,層別をQC七つ道具からはずして,①パレート図,②チェックシート,③ヒストグラム,④グラフ,⑤管理図,⑥特性要因図,⑦散布図の7手法をQC七つ道具と言うこともあります。
3. QC七つ道具の意義は何か
QC七つ道具は,どのような意義をもっているのかを考えたいと思います。
石川馨氏は,「弁慶は七つの武器をもっていたが,これだけあればどの戦闘にも勝ったといわれている。同様に,私の経験では,このQC七つ道具をうまく活用すれば,みなさん方の身の廻りにある問題の95パーセントは解決できるのである。」,
「QC七つ道具は,たくさんあるQC手法のうちでもっともやさしく,トップから一般社員の方々の誰にでもわかりやすい,また目で見てわかりやすい手法をえらびだして,使いやすくしたものである。特にQCサークル活動では,このQC七つ道具を身につけておけば,鬼に金棒であろう。」
と述べています(文献4)。
「会社の問題の95%はQCの七つ道具で解決できる」,「QCは管理図に始まって管理図に終わる」,「層別しなければ解析も管理もできない」などの格言を石川先生は残されています(文献6)。
QC七つ道具が元来もっている意義は,石川先生の前述の言葉で言い尽くされているように思います。
ちなみに弁慶の七つ道具は「鉄熊手,大槌,大鋸,まさかり,つく棒,さすまた,そでがらめ」と言われています。
4. QC七つ道具の特徴-効用・メリット
QC七つ道具の特徴は多々ありますが,主な効用・メリットとして次を例示します。
- 製造職場をはじめとして管理・間接職場など,組織のあらゆる活動で使用することができ,適用範囲が広い。
- 問題解決・課題達成などの多種多様なテーマに対して,活用することで大きな効果が期待できる。
- 難しい計算や作図の必要が少なく,やさしく,少し勉強すれば作成・使用できる。
- 図表化することによって,目で見てすぐにわかり,理解を早められる。
- 第一線職場の管理・改善,QCサークルなど,みんなで使うことができる。
5. QC七つ道具の活用
さて,本シリーズの読者の皆さんで,実際に手を動かして作成し,活用している方はどのくらいおられるでしょうか?
QC七つ道具の使い方を知らない,知っていても使わない,誤った使い方をしているなどが避けられるように,日頃から心がけてほしいと思います。
QC七つ道具は,高度なQC手法を使ううえでの基礎となるものとして,知っているだけではダメで,職場の管理・改善で自らQC七つ道具を使いこなせることがとても大切です。
QC七つ道具は,事実に基づく管理と言う大切な考え方を,職場の実務で具体的に実践する場合に活かせる,最も基本的で代表的なQCツールなのです。
それでは,具体的にQC七つ道具の各ツールを解説していきます。まず最初はパレート図です。
■□■ パレート図 ■□■
1. パレート図とは,その目的
パレート図は,「項目別に層別して,棒グラフを出現頻度の大きさの順に並べるとともに,累積和を示した図。」(文献5)を言います。
パレート図によって問題解決に際して取り上げる項目を重点指向で決めることができます。
例えば,不適合品を不適合の内容別に層別して不適合品数の順に並べることで,不適合の重点順位を知って対処しなければならない問題を絞り込めます。
重点指向という考え方を実務で実行するうえのツールとして,パレート図の役割は重要です。
また,改善活動において,改善前後の2つのパレート図を並べて比較することで,実施した対策の効果を把握できます。
パレート図は,不適合品数や損失金額の大部分は,多くの項目のうちのごくわずかな項目で占められているという考え方を基本にしています。
すなわち,損失がわずかな多くの項目(多数軽微項目;trivial many)よりも,損失が大きな少ない項目(少数重点項目;vital few)に着目する視点です。
どのような現象を重点的に攻めたら効果的であるかを導くためのツールとして有効です。
パレート図は,どのようにして編み出されたのでしょうか。
パレート図の名前は,イタリアの経済学者であるパレート(V.Pareto)が1897年に示した所得の分布が不均等であるという説に由来しています。
これと同じことを1907年にアメリカの経済学者ロレンツ(M.C.Lorenz)が図(ロレンツ曲線)で表しました。
この図を応用してジュラン博士(J.M.Juran)が,横軸に不良項目を不良品数や損失金額の大きい順に並べ,縦軸にその累積百分率をとったグラフを書き,不良品数や損失金額の大部分はごくわずかな不良項目によって占められることを示し,これをパレート図と呼びました(文献4)。
このようにパレート図は,取り上げる項目を適切で正しく理解できれば,項目を幾つかに分類したときにパレートの原則が成り立つと言う経験則・認識に基づいています。
なお,JIS Q 9024:2003では,パレート図を「項目別に層別して,出現頻度の大きさの順に並べるとともに,累積和を示した図。」(文献7)と説明しています。
2. パレート図の実施手順の本質
パレート図を使うときに見逃してはならないことは何なのでしょうか。
次の意味を理解し,パレート図を作成し活用することが大切です。
- 品質問題を件数,不適合品数などで表すだけでなく,損失金額でも表します。その意味は,数量の場合と金額の場合とで,パレート図の項目順位が逆転するケースがあり,企業業績への影響度合いから損失金額を把握することが大切なためです。これも重点指向の考え方に則っています。
- 最も大きな問題をさらに分けて,パレート図を作ります。このことによって,重点指向で問題を絞り込み,重要な問題から一つひとつ具体的に再発防止処置をとれます。
- 状況別,要因別など層別してデータをとっておきます。そして,時間別,機械別などで層別したパレート図を作成します。層別の仕方は目的によって変わりますが,これらを行うことによって,工程異常などに対して素早く対処する端緒をつかめます。
- データをとるのに,どの程度の期間を使うのかは,目的によって決めます。データをとるために必要な経営資源や,アクション後の短過ぎず・長過ぎずの期間でデータをとるなどから,データをとる期間を考えます。
パレート図は,取り上げる項目を幾つかに分類したときにパレートの原則が成り立つと言う経験則・認識に基づくことから,どのような視点から分類するのかと,その分類項目(例えば,機械と言う視点から分類し,分類項目は機械№や機械形式など)を見極めることが重要となります。
パレート図を使う目的(例えば,何が重要かを知りたい,何が要因かの示唆を得たいなど)をよく考え,分類の仕方(分類の視点と分類項目)をいろいろ試行し,vital fewは何かに迫る必要があります。
パレート図の各項目の大きさが横並びでドングリの背比べでは,パレート図の形を成していても本質的な意図から逸脱していることに留意してください。
3. パレート図の適用場面と得られる効用・メリット
パレート図は,取り上げる問題を重点指向で決める場面,対策前後の改善効果を把握・評価する場面,不良や故障など不具合の原因を調べる場面,分かりやすく理解しやすい報告書や記録を作成する場面など,広範に適用できます。
パレート図を使うことで,
a)どの項目が最も重要な問題であるかを見つけることができる,
b)ある項目が全体のどの程度を占めているかを知ることができる,
c)問題の大きさの順位が一目でわかる,
d)改善策がどのくらい効果があったのかを知ることができる,
e)問題の大きさが目で理解できるので説得力がある,
f)複雑な計算を必要としないで簡単に作図できる,
などいろいろな効用があります。
パレート図は簡単な手法ですが,非常に役立ちますので,品質管理はもとより,あらゆる分野で活用することができます。
4. 他の手法との関係-特にQC七つ道具
パレート図は,グラフ(棒グラフと累積曲線)の一種と捉えることができます。
vital few,trivial manyを認識できるパレート図を作成するためには,取り上げる項目の層別がうまく行われていることが基本となります。
ドングリの背比べのようなパレート図の場合は,層別の仕方を見直し,何が重点であるかを判別できるようにします。
パレート図の作成に必要なデータは,チェックシートによって収集できます。そして,パレート図で最重要となった項目を特性要因図の特性にし,重要な要因の絞り込みが行われます。
5. 実施・運用時の注意・留意事項
パレート図の見方・使用上における注意・留意事項を次に示します(文献1)。
- 最も大きい問題を取り上げ,これに関係のある部門の人が参画したチームを編成し,各部門がその解決策を検討し,協力して改善します。
- 毎月,毎期などごとに作成し,a)最も大きいものが急減少している場合は,協力した改善が成功しているか,又は工程が急変したことを示している,b)各項目が概ね一様に減少している場合は,管理が良くなっていることを一般的には示している,c)最も大きい不適合品は毎月変わるが,全体として不適合品率が減少しない場合は,管理されていないことを示している,などを考察します。
なお,パレート図の「その他項目」は分類項目の最後部に配置するのが通例ですが,「その他項目」に含まれる度数や項目数が多すぎる場合は,分類の仕方を再検討することが望まれます。
次回は,チェックシートとヒストグラムを取り上げ,手法の定義,目的,適用の場面・効用・留意事項などを解説します。
■参考文献
- 「新編 品質管理入門(A)・(B)」,石川馨,日科技連,(A)1964・(B)1966
- 「改訂版 品質管理のはなし」,米山髙範,日科技連,1979,p.171,図26
- 「QC七つ道具の原点を探る」,細谷克也,品質,Vol.40,№1,2010,pp.56-60
- 「QC七つ道具」,細谷克也,日科技連,1982
- 「日本の品質を論ずるための品質管理用語85」,日本品質管理学会標準委員会編,日本規格協会,2009
- 「TQCとは何か-日本的品質管理<増補版>」,石川馨,日科技連,1984,p.279
- JIS Q 9024:2003「マネジメントシステムのパフォーマンス改善-継続的改善の手順及び技法の指針」
村川賢司(前田建設工業)