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ここがポイント、QCツール 第9回 作業標準(3):組織運営基盤としての標準 (2016-12-05)

2016.12.05

 

 

「標準」そのもののお話しを続けます.

 

 

■(6) 標準=技術基盤

 

先端技術分野の研究者・技術者・管理者,高度な資格を有する専門家,それに大学の先生は,一般に,標準や標準化がお好きでない,いや価値を認めていないように見えます.

標準化などしたら自分の存在意義がなくなり,自分の地位を脅かすとお考えの方もいらっしゃるようです.

でも,その考え方は正しくありません.

一流の人間は「型」を尊重します.

定石を無視せず,これを踏まえて超越します.まさに「守・破・離」です.

 

 

品質の良い製品・サービスを効率的に提供するためには何が必要でしょうか.もっと一般的に,質の良い仕事に必要な要件は何でしょうか.

私は以下の6項目に整理できると考えています.

 

(a)動機:品質への取組みの動機,インセンティブ,ドライビングフォース

(b)思想:品質に関わる基本的考え方,コンセプト,フィロソフィー

(c)技術:品質を確保するために必要な当該分野に固有の技術・知識,再現可能な方法論

(d)管理:技術を生かすマネジメントの仕組み,システム,プロセス,手順,インフラ

(e)ひと:能力,意欲,意識,感度,認識

(f)推進:運動論

 

 

第一に,品質に取り組もうという気になることが必須です.

当たり前と思われるかもしれませんが,実は「ことを起こす」ためにはこれが最も重要です.

そのために,インセンティブやドライビングフォースが必要となります.

 

 

第二に,品質に関するまともな価値観が必要です.

思想,哲学と言ってもよいでしょう.

例えば「品質第一」「顧客志向」というような基本的な考え方がそれです.

こうした思想や価値観が確立していることによって,様々な新たな方法論の開発の方向性が正しいものとなります.

 

 

第三に,質と効率を確保するために必要な「技術」や「知識」が必要です.

餅は餅屋と言います.

餅屋になるには,餅の原材料,処理法に関する技術・知識が必須です.

そうした専門性があるから,任せておけるのです.

 

 

第四に,それら技術・知識を業務手順のなかに埋め込んで,現実にそうした技術・知識が生かされるようにしなければなりません.

実施方法を手順化したり,責任・権限を明確にしたりして,仕組みを構築し,仕掛けを作っていくことが必要です.

 

 

第五に,そうして決めた仕組み通りに実施できる「ひと」を鍛えておかねばなりません.

技術が確立し手順化してあっても,技能の点で劣る人がいるし,必要な知識を持ち合わせていない人がいるし,やる気のない人がいたら,質も効率も確保できません.

 

 

第六に,上述したことを推進していくための,推進論,運動論,いわばイベント,お祭り,盛り上げもまた必要です.

 

 

さて,ここに挙げた6つの項目のうち「(c)技術」は,標準化の対象となる,品質の良い製品・サービスを生む,あるいは質の良い業務を行うために必要な,目的達成のための再現可能な方法論を意味します.

そして,「(d)マネジメント」において技術的根拠のある方法が標準化されます.

この意味で,標準とは,質と効率を確保するために必要な技術・知識基盤の,組織が共有すべき,可視化・構造化・最適化された技術・知識コンテンツと言えます.

 

 

 

■(7) 標準化=改善の基盤,独創性の基盤

 

質や効率への取り組みにおいて「改善」は重要です.

 

欧米との対比における日本の品質管理の特徴であり,日本製品の品質向上に大きな貢献をしました.

その基本思想は,私たちが基盤にしている技術も管理(マネジメント)も完全ということはなく,常に上をめざしていくべきと考えるところにあります.

その改善を進めるときに何が重要でしょうか.改善意欲,改善手法,問題解決法,組織的運営などいろいろ考えられます.

どれも重要です.どれも重要なのですが,それでも改善の基盤が標準化にあることを忘れてはなりません.

 

ところで改めて,「改善」とは何でしょうか.

悪い点を直すことでしょうか.

確かにそうなのですが,何か足りません.

改善においては,悪い現象そのものよりもその原因系に目を向け,これを改善しようとします.

 

原因系に目を向けるとは,具体的には何に注目することなのでしょうか.

それは,現状の方法,材料,機器,装置,ひとの能力などです.改善しようとするとき,現状が満足すべき状況にない原因を,これらの要素の計画や基準に求め,計画・基準,すなわち標準の改訂によってマネジメントシステムの改善を図ろうとすること,これが改善の基本的な考え方であり,方法でもあるのです.

 

 

改善とは,思いつきによる変更の連続ではありません.

 

現状の不備を明確にして,その不備を論理的・体系的に修正することです.

このような修正が正しくできるためには,現状がどのように実施されているのか明確になっていなければなりません.

いつも異なった方法で実施していると,現状が一定ではないし,また現状を記述できません.

改善の出発点が明確に記述できないということです.

改善(=変化,変更)と標準(=一定,規則)は相容れないように思うかもしれませんが,基礎がしっかりしていて,そしてスタートラインが明確であって初めて飛躍が可能となります.

 

 

PDCAのDo(実施)において,標準で定められた手順どおりに実施してもうまくいかないとき,自分で手順を変えて良い結果を出すことは良いことでしょうか.

私は,断じてそうは思いません.

 

ルールを守ることが原則で,ルール・手順の不備に気がついたら申し出て組織的に修正すべきです.

ルール・手順に,組織の知恵を標準(良い,正しいモノ,方法)として蓄積し,改善において,その組織の知恵の実体である標準を変更し組織として成長すべきです.標準とはそのような「成長の基盤」なのです.

 

 

標準化は,改善の基礎のみならず,独創性の基盤でもあります.

「まさか…?」と思われるかもしれません.

標準化に関する誤解に基づく非難は,この点に集中するのですから,まさかと思うのは当然です.

独創性には何が必要でしょうか.意外なところに重要な視点があるのです.

 

 

質の高い効率的な仕事をするための秘訣をご存じですか.新しいこと,難しいこと,重要なことに,リソース(人,時間,カネ)をつぎ込むことです.

分かっていること,やさしいことに多大な時間を使うのは賢くありません.

どうすれば良いか分かっていることについては,考えない(省思考)で良いものを適用するのが賢い方法です.

つまり標準化されたモノや方法と知識を使うのです.

標準化は独創性の芽を摘むという指摘がありますが,それは誤解です.良い結果を生むモノや方法を標準化しておいて,改めて計画する必要性を減らし,その分を独創的な仕事に振り向けるべきです.

 

前回,「知識の再利用」による「省思考」のお話しで,IBMに伝わっているという“Save thinking!”(考えることを省け)という教えを紹介しました.

「考えるな」という意味ではありません.

「独創的であるためには,考えずに済むことは考えるな.その分,考えなければならないことをとことん突きつめて考えろ」という教えです.

 

どうすればよいかほぼ分かっていることに,ご自身発案のくだらない工夫を加えて,回りの者を混乱に陥れ,組織全体の仕事の質と効率を落とすことは避けたい……,と心から思います.

 

 

 

■(8) 標準化阻害因子とその対応

 

ここまで,標準や標準化の意味と意義を説明してきました.

 

それでも,標準化を阻害するさまざまな要因が相変わらず存在し続けることでしょう.いくつかの典型とその対応策について考察しておきます.

 

阻害要因の第一として「技術未成熟」を挙げておきます.

目的達成のための再現可能な方法論・手段としての技術的根拠がまだまだ不明確で,それでよいかどうかよく分からないということです.

加えて,そのために関係者の間でいまだ合意が形成されておらず,標準化できないという意味です.

 

これは,第一に,標準化すべき知識コンテンツそのものが不十分ということ,第二に,それらの知識コンテンツが存在しても,適度に一般化・抽象化され,再利用可能な知識として構造的に可視化されていないこと,第三に,構造化知識が存在しても,その妥当性について然るべき関係者の間で合意が得られていないことを意味します.

 

標準化=技術基盤という性格を考慮すれば,標準化ができないのは理の当然であって,仕方のないことです.コアになる技術がなければ標準化はできません.技術の確立をめざして,研究・開発,抽象化・一般化,構造化,合意形成を進めていくしかありません.

 

第二に「多様性」を挙げます.いろいろあって標準化できない,標準化してしまったら,多様性に対応できない,というごもっともな論です.

 

私は,この15年以上,医療の質・安全に関わってきました.医療分野には,患者の多様性に応じて適切な介入をすべき医療において標準化はそもそもそぐわない,というもっともらしい,しかし実は賢いとはいえない論が根強く残っています.

 

10年以上前に,興味深い経験をしました.

それは,とても賢いお医者様との楽しい「激論」でした.

その方は知識豊富,即座の最適解探索,即断・即決の優れた方でした.

同時に,いわゆるマネジメント軽視論者でした.

 

「そんなものがあっても良い医療はできない」というのです.

「患者はいろいろで,診断から治療方針決定の思考プロセスをいちいち語ることなどできない.ケースバイケースだ」とおっしゃるのです.

 

「それじゃあ先生,患者がゴマンといたら,治療方針は5万通りですか」

「ダジャレですか」

「スミマセン.で,50,001人目の患者をどう診るのですか」

「それは過去の経験から……」

「先生,引っかかりました.先生は,症状から本質的特徴を抽出して,パターン分類をしています」

「そんなことは当然です.医療は科学ですから,過去に学んだ法則を活用しなくては」

「ええ,先生は一般化・抽象化能力に優れ,ご自身で類型を認識し,ケースバイケースではなく,タイプ別対応指針を頭の中にお持ちのはずです」

「……」

「それを標準化して若い医師と共有しましょう.“標準”という用語が良くないなら“指針”と呼ぶことにして.学会が作成するガイドラインというのはそういう性格のものですよね」

「こりゃあ,やられましたな」

 

実は,こんなに簡単には運びませんでしたが,それでも,技術とマネジメントの相補関係,技術基盤としての構造化知識,これらに基づく研修医育成など,楽しい議論が続きました.

 

標準化は統一をめざしてはいますが,それは無理に一つに統一することを意味しているわけではありません.

標準化と画一化は全くの別物です.

 

目的達成のための良いモノ・方法を求めているのですから,「このタイプのときにはこうする」という意味での「類型」の認識が必要であり,標準化の際には,パターンやケースごとのガイド,条件つき指針などの考慮が必要となります.

 

 

第三の阻害要因として「インセンティブ」を挙げます.

標準化の推進に貢献しても報われず,標準化が進まないという現象です.

組織によっては,標準化を進めても得にならない,評価されないということがあります.

「そんなつまらないことをやっていないで本業に精を出し,腕を磨け」という周囲の無言の圧力もあるかもしれません.

 

組織として標準化の重要性を認識するなら,なかば強制的にルールに従わせるとか,標準を遵守することによって良い仕事をしている人を認めるとか,あるいは報償するなどの制度を考えるべきでしょう.

しかし現実には,標準化より重要なことがあると皆が思っているのが普通です.

例えば,新規材料の開発研究のほうが,確立している周知の工法の標準化より意味があると考える人が多いようです.

 

こうしたことへの対処としては,価値観の転換を図るしかないと思います.

もちろん新規材料開発は重要です.

でも,それと同等に,いやそれ以上に重要なのは,どうすればよいか分かっていることを,組織をあげて清々粛々とこなしていく体制を作り上げることではないでしょうか.

これも立派な技術(=目的達成のための再現可能な方法論)であると思います.

 

 

第四に「変更への抵抗」を挙げておきます.

「良いモノや方法は分かったけれど,実施するとなったらそれなりの費用が必要で,それに見合った効果を見込めるのか」とか,「効果はあるだろうが望ましくない副作用がありうるので慎重に検討しなければならない」とかの声があがり,標準化が進まないというものです.

 

 

投資効果の評価には見識が求められます.

目に見えている効果だけでなく,組織の底力につながる無形の効果も見抜くべきです.

本当に資金不足で実施できないのなら別案を考えるべきです.

対策というものは実にさまざま考えられます.

例えば,電子化できないから人為ミスを減らせないというのでは,いかにも知恵がありません.

一方で経営者は,これを看過せず,必要に応じ予算確保に動くべきでしょう.

 

副作用の懸念自体は正当で,その評価は正確に実施すべきです.もし想定できるなら,そこで実施を諦めずに,克服策を考えるべきでしょう.

 

実は,このような組織行動の背景には,人間に特有の保守性というものがあるのではないかと考えています.

人は一般に,今までと異なる方法に変えることに抵抗感を持つものです.

この抵抗感を大切にしつつ,改善につながる変更を論理的に進めたいものです.

 

 

■組織的標準化推進体制

 

第五の阻害要因として「組織的標準化推進体制」を挙げておきます.組織の問題解決能力が向上して技術やマネジメントの不備を特定できるようになったとしても,あるグループの知見が組織共有のものにならないという意味です.

 

さまざまなグループが改善を進めているにもかかわらず,それが組織の力にならないのは,確立した技術を周知・共有し,実施に移す仕組み,すなわち標準・ルールの体系・運用に不備があるからで,この仕組みの確立が必要です.いわゆる社内標準化体制,標準の維持・改訂の仕組みの確立が望まれます.

 

 

 

さて,これで「作業標準」の解説のための伏線をほぼ揃えることができまました.

次回は,ようやく「作業標準」のお話しをします.

 

とは言っても,ここまでの3回の語り口から,どんな話しになるか推測することは容易でしょう.

それなりにお楽しみに.

 

飯塚 悦功(東京大学)

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