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ここがポイント、QCツール 第8回 作業標準(2):標準の深遠なる意味 (2016-11-28)

2016.11.28

 

前回から始まった作業標準の2回目です。

 

 

■(3) 標準と標準化

 

「作業標準」というQCツールの解説のために,「標準」そのものの本質の理解のために2回を費やす予定です.

 

 

「標準」や「標準化」という用語から何を思い浮かべますか.

不条理な規制,ルール絶対主義の石頭,マニュアル人間,柔軟性のかけらもない画一化,独創性の敵,多様性の無視などでしょうか.

これらはいずれも,標準や標準化のある側面を物語っています.

でも,多くの場合,標準や標準化の深遠なる意味を理解したうえで,こうしたことを思い浮かべたわけではないと思います.

 

 

標準は,管理・マネジメントにおける「計画」の結果であり,標準化によって「経験の再利用」や「省思考」が可能となります.

標準の内容は「技術・知識基盤」そのものであるべきです.

標準化は「改善の基盤」であり「独創性の基盤」でもあります.

 

今回と次回の2回で,管理・マネジメント一般では常識である標準や標準化が,目的達成のための方法論一般において広く通用する重要な概念であり方法論であることを再認識したいと思います.

 

「標準化」とは「標準を設定し,これを活用する組織的行為」と定義されます.

また「標準」の一つの意味として「関係する人々の間で利益または利便が公正に得られるように統一・単純化を図る目的で,物体,性能,能力,配置,状態,動作,手順,方法,手続,責任,義務,権限,考え方,概念などについて定めた取り決め」と定義できます.

 

この定義から,標準化の目的は「統一・単純化」にあることが分かります.

統一することによって「互換性」が確保され,ネジ,プラグ,電球のようにどこでも使えるようになります.

用語,記号,言語を決めることによって,説明なしで通じて「コミュニケーション」が図れます.特別の説明を要することなく,知識,情報,価値観を「共有」することができます.

 

私たちは日常ほとんど意識することなく,標準化の機能のひとつである「統一」の恩恵を受けています.

子供のころ「人は右,車は左」と教わりました.

道路を渡るときは「まず右を見て,次に左を見て」と教えられました.

これで,日本にいる限りは大過なく暮らせます.

 

海外旅行をして,車が右側を走る場面に遭遇し,世界中同じならよいのにと思ったことはありませんか.

私はその昔アメリカで車を借りたとき,真っ直ぐ走っている間はよかったのですが,曲がったときに反対車線に入ってヒヤリとしたことがあります.

何と,向こうから車が敢然とこちらに向かって来るではありませんか.また,大きな道路に出るときに,まず左を見なければいけないのに,右を見て「よし!」と思って出ようとしたら,左から車が来て,ドキッとしたこともあります.

習慣は恐ろしい! 車の運転で注意しなければいけないのは帰国したときも同じです.

大英帝国連邦の国々からならよいのですが,多くの場合,意識して頭を切り換えないとアブナイ,アブナイ.

幸いなことに,信号の「青は進め,赤は止まれ」は世界共通です.国によって異なると,きっと事故が急増することでしょう.

 

電源プラグで困ったことはありませんか.

電気製品を使うとき,電圧とプラグの形状を気にしなければならないのは,世界的に統一ができていないからです.

それでも数種類に限られているし,多様性に対応する技術的工夫により何とか克服しています.

限定的ではありますが,ある程度の統一が実現しされているおかげです.

 

「単純化」によって,大量生産,効率向上,原価低減,品質向上が可能となります.単純ですから大量に作れますし,単純だから効率が上がり,単純だから安くなるし,単純だから品質が良くなる,というわけです.

一般にこのようにして,標準化によって,質と効率の向上が図れます.

 

物事にはさまざまな面があります.

標準化もまた同じです.

 

標準化とは,結局のところ統一ですから,窮屈な規制・ルールがあり,自由が束縛され,ルール絶対主義の石頭が闊歩し,決まりきったことしかできない無能集団ができあがるに違いありません.

自由な発想が阻害され,その結果として独創性が阻害され,画一的なものの見方が広まり,多様性に対応できなくなり,ものを考えないマニュアル人間が増加することも懸念されます.

 

 

ある方がわめいていました.

さる国際会議のWGでの検討が長引き,まだ少し作業をしなければならないので,休憩と腹ごしらえのために,近くのマックに買いに行ったのだそうです.

「マック20個!」と言ったら,お店の人に「ここでお召し上がりになりますか,お持ち帰りになりますか?」と聞かれたのだそうです.

「腹が減っていることもあったけど,頭に来た.一人で20個も食える訳ないじゃないか.だからマニュアル人間は嫌いなんだ!」と.

 

「そもそも進歩というものは,ルール破りから始まるんだ」とうそぶいている大人物もいらっしゃいます.

こういうことを考えても,標準化が手放しで良いこととは思えません.

強い口調での,こうした疑問・反論が聞こえてきます.

でも実は,これは浅はかな考えなのです.

 

 

 

■(4) 標準=計画

 

「標準化」は,マネジメント/管理について語るときによく話題にされます.「標準化は管理の手段であり,標準とは計画である」ということができます.

 

前回ご説明したPDCAの話を思い出して下さい.

Plan(計画)においては,基本的に2つのことが行われます.

 

P1:目的を決める

・目的を明確にする

・管理項目(管理指標)を決める

・目標(管理水準)を決める

 

P2:目的達成手段を定める

・実施項目,実施手順・方法(作業標準)を定める

 

 

まず,管理の対象の目的を明確にします.

次に目的達成の程度を計る尺度を決めます.

さらにその管理項目に関して到達したいレベル(管理水準,目標)を定めます.

 

ここまでが管理の目的を明確にするという行為です.

それが正しいかどうか,明確かどうかは別にして,たぶん誰もが無意識のうちに行うでしょう.

 

 

しかし実は,P2の目的達成手段(実施項目,実施手順・方法)を正しく決めることが重要です.

計画とは,そのとおりに実施して自然に目的が達成できるようなものをいうからです.

目標だけ示して実現手段を全く考えていない計画は,計画とは言えません.

夢まぼろし,白日夢といったところです.

 

 

Plan(計画)に引き続き,Do(実施)において,計画で定められた実行手順どおりに実施します.

Check(確認)において,目標を達成しているかどうか確認します.

Act(処置)において,目標との乖離に対する処置をとります.

不具合現象そのものの除去とともに,二度とそのような問題が起きないように原因を除去することも必要です.

それは,おもに計画における実現手段,実施手順が不適切だから問題が起きたと考えているからです.

目標達成手段の不備という原因を取り除くこのような処置を「再発防止」とよび重要視します.

なぜならこれこそが管理,マネジメントのレベルを上げる中心的行為だからです.

 

 

計画(Plan)のうちの「P2:目的達成手段を定める」という機能は,例えば作業標準,マニュアル,ガイドラインを定めることです.

その意味で,標準とは,ある目的を達成するための実現手段の実施計画にほかなりません.

私たちは何かしようとするときに「どのようにしてこれを実現しようか」と考えます.

この思考の結果を「計画」といいます.ある業務の実施にかかわる標準とは,この業務をうまく進めるための計画の内容そのものにほかなりません.

 

 

 

■(5) 標準化=知識の再利用

 

「標準とは目的達成のための実施計画である」と申し上げました.

ある業務を実施するために手順書,マニュアルを作る理由は,その業務が繰り返し行われるからです.

その業務を実施するたびに,「どのようにして実施すればよいだろうか」と目的達成のための良い方法を考えてもかまいません.

しかし,同じような業務を行うのなら,毎回どうしたらよいかと計画し直すことなく,いつものとおりに実施したらよいはずです.

標準化とは,その意味で「計画の簡略化」(正確には「目的達成手段策定の簡略化」)ということができます.

 

 

例えば,現在の職場での勤務が始まったころのことを思い起こしてみて下さい.

通勤のために何時ごろ家を出て,どの経路で通うのがよいか少しは考えたことでしょう.

通勤時間帯によって,経路を変えるとか,ひと駅戻り始発駅まで行って乗るという方法を考えるとか,何両目のどの辺で乗るのが好都合とか,いろいろ工夫をしてきたかもしれません.

帰宅するときにも,移動時刻によって手段を工夫していると思います.

しかし,何度かの試行錯誤によって,いまでは眠いとか疲れていて頭がボーッとしていても,とくに考えることなく最適な手段で通勤をしているのではないでしょうか.

これは,ある時刻に目的地に着くという目的を達成するための,通勤方法という手段について,繰り返し適用できるように標準化しているからと考えることができます.

 

標準と呼ばれるものには,2つのタイプがあります.

 

第一の標準は「決めなければならない標準」です.

 

その目的は「統一による混乱の回避」です.

例えば,前述した右側通行・左側通行の例は,原理的にはどちらでもよいと思いますが(いや実は,人間は完全な対称ではありませんので,どちらかが優れているのかしれませんが),とにかくどちらかに決めておく必要があります.

さもないと正面衝突が頻発することになるでしょう.

そういえば,沖縄は返還にあたりこの変更を行ったわけで,大変なことだっただろうと思います.

 

 

第二の標準は「決めたほうが良い標準」です.

 

このタイプの標準が,いまここで考察してみたい標準です.

 

この種の標準は,経験の活用,計画の簡略化のための標準と言い換えてもよいと思います.

「決めたほうが良い」とは,そのとおりに実施すると効果的・効率的という意味です.

すなわち,この意味の標準とは,教科書でも,雑誌でも,仲間の経験でも,自分の経験でも,とにかく何らかの形で,「すでに経験して良いということが分かっているモノや方法」という意味です.

良いモノだからまた使う,良い方法だから次もその方法で行う,という訳です.

繰り返しがありますので,最適を求めてそのたびに思案投げ首で悩むことなく,標準的なモノを使い,標準的な方法に従うのです.

 

 

このような標準の活用は,「知識の再利用」「経験の有効活用」「省思考」といえます.

ここで省思考とは,考えることを省く,すなわち,考えなくてもよいことを考えないという意味です.

IBMがそう言ったと聞きました.“Save thinking!”(考えることを省け!)です.

でも一方で,IBMは“Think!”(考えよ!)と言います.

 

これは矛盾していように思えますが,そうではありません.

考えなくてもよいこと,すなわち,どうすればよいか分かっていることは考えるな,考えるべきことを考えよ,ということなのです.

 

 

経験をして良い結果が得られることが分かっていることを標準に定め,それに従うから,当然のことながら良い結果が得られます.

ものの本や経験から得られた知識を繰り返し使うために標準を定めておきます.

目的を達成する手段を考えることを省くために標準を定めておくのです.

標準化は,断じて,浅はかな画一化などではありません.

統一するには理由があります.

標準化の極意は,現時点で最適と思われるモノや方法の採用にあり,実施のための計画立案における省思考にこそあるのです.

 

 

標準化の目的は良いこと,正しいことの適用です.

誰かが経験をして,正しく良いことがすでに分かっているモノや方法を適用することにより,質と効率の同時達成を図ること,これが標準化のねらいです.

その意味で,標準化とは「ベストプラクティスの共有」のための手段とも言えます.

 

飯塚 悦功(東京大学)

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