活動報告 超ISOメンバーによるつぶやき 第8回 村川賢司
2016.10.30
無料通話アプリLINEの株式が米ニューヨーク証券取引所で7月14日に,その翌日の15日には東京証券取引所第1部で上場されました。
今年最大の上場案件という期待とともに,史上初の日米同時上場が大きな話題を巻き起こしました。時価総額は約1兆円とのことです。
LINEの月間利用者は,サービスを開始して約5年という短期間に,日本では6,100万人,全世界では2億1,800万人と言われています。
急成長を遂げるSNSによるビジネスモデルの成功を物語る象徴的な事例になりました。
一方,基幹産業の一翼を担い,高い技術力で世界をリードした日本有数の家電企業が,21世紀に入って間もなく経営危機に見舞われました。そして,外国資本の傘下に入らざるを得ない企業の出現は,日本の産業競争力の危うさへの危機感を募らせました。
これは,競争優位にあると思われている企業であっても,いつ何時同じ危機に遭遇して凋落するか予断できない経営環境にさらされていることを暗示しています。
対話アプリ市場でも,利用者数約10億人のワッツアップやフェイスブックなどが世界規模で利用者獲得の熾烈な競争にしのぎをけずっており,浮沈の激しい事業環境にあります。
フェイスブックは競争力を失わないように,反面教師としてイノベーションができずに経営不振に陥ったソニーの失敗を教訓に,オープンスペースで移動や対話しやすい社屋,ブートキャンプと呼ばれる新人研修,専門外の領域に取り組むハッカソンなどの仕組を工夫したと言われます。
さて,この教訓とは何だったのでしょうか?
それは,「サイロ・エフェクト」であるとジリアン・テット氏は分析しました(「サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠」,文藝春秋,2016年)。
フィナンシャル・タイムズ紙アメリカ版編集長である同氏は,社会人類学の観点から組織論を展開し,ユニークな洞察を導きました。
サイロとは,家畜のえさにする牧草や穀物をしまっておく塔のような貯蔵庫です。
「サイロ・エフェクト」は,高度に複雑化した顧客・社会のニーズ・期待に応えるための術を誤ると,専門家集団の強固な縦割りのサイロと呼ぶべき組織化が進み,変化への柔軟な対応ができなくなることを意味します。
つまり,組織が大きくなるにつれて,サイロのように孤立し専門化した部署が多数できてしまう。そして,部署間の相互交流が阻害されることにより,部分最適であっても全体最適という観点ではムリ・ムダ・ムラを内在した無秩序な経営資源の投下など,知らないうちに多くの問題が発生し,企業が競争優位性を失っていくというものです。
飛ぶ鳥を落とすがごとくに見えるフェイスブックのような優良な大企業であっても,激変する経営環境のもとでは未来永劫な盤石さは約束されません。
では,企業が末永く競争優位であるための即効薬はあるのでしょうか?
残念ながら速効の妙薬はないと言わざるを得ません。
だからといって諦めることはありません。というのは,どんな業態や規模の企業でも,次の4つの視点での行動が,長寿企業として生き残る知恵と思うからです。
1.製品・サービスを通して顧客に提供する価値は何かを明確にする。
とくに,顧客は誰か,その顧客は競合者の製品・サービスに比べて自組織の製品・サービスに対してどのような価値を見出して購入しているのかを理解する。
2.顧客価値提供のために自組織が持つべき能力と,活かすことができる特徴を明確にする。
3.明確にした能力と特徴を考慮し,提供価値に対する顧客の評価に関わる競争優位の視点から組織能力像(競争優位であるために組織が持つべき能力の全体像)を明確にする。
4.明確にした組織能力像を実装するQMS(品質マネジメントシステム)を構築し,維持する。
ここに示した4つの視点は,JIS Q 9005「品質マネジメントシステム-持続的成功の指針」の「4.2顧客価値提供における成功」を導くための推奨事項です。このようなQMS実現への具体的な手引は,同規格を参照してください。
グローバル化を避けられない趨勢の中で激しくかつ早く変化する現代社会を乗り切るうえで,サイロ・エフェクに陥らず,前記4つの視点での真摯な取り組みを持続することが大切と思います。
このことが,どのような経営環境でも顧客に受け入れられる製品・サービスを実現できる企業へ一歩ずつ近づく道筋であるとの観を深めています。