ここがポイント、QCツール 第2回 QFDとは何か (2016-10-17)
2016.10.17
前回の予告通り,今回から3回を使ってQFDについて解説したいと思います.
QFDの第1回目の今回は概要編となります.
■QFDが開発された経緯,目的
QFDとはQuality Function Deploymentの略であり,日本語では品質機能展開と呼ばれています.
1960年代に既に開発・提唱されたツールであり,1978年に「品質機能展開」の本(「品質機能展開」,日科技連出版社)が出版されました.
品質管理分野の中でもかなり昔から製造業を中心としながらも,国内・国外を問わず,様々な業種・業態,部署で広く使われています.
毎年,QFDシンポジウム(国内),国際QFDシンポジウムが行われ,2016年現在で22回目の開催となりました.
QFDがこれほどまでに広く普及し活用されてきた理由には,それが必要とされた時代背景があります.
品質管理のこれまでをざっと見ますと,
1)顧客に不良を流出させない「検査重視型」の品質管理活動
2)工程内で不良を減らすために,製造条件・方法・プロセスの改善活動が主となる「製造プロセス重視型」の品質管理活動
3)“売れる”製品・サービスを提供するために,より上流に位置する企画,設計活動を重視する「企画・設計重視型」の品質管理活動
4)方針の立案,展開を始めとしたあらゆる企業活動が全員参加で実践する「総合的品質経営(いわゆるTQM)」の品質管理活動
に分けることができます.
QFDは,上記の3)の「企画・設計重視型」のためのツールであり,とりわけ製品の設計仕様をどのように決めればよいかについての体系的な方法論を提供したことに大きな意義がありました.
それより前までは,多くの企業・組織では顧客に不良を流出させず,製造工程内での不良低減活動について積極的に進めてきました.
これはこれで品質ロス・コストの大幅な低減につながることに成功しました.
しかしながら,そもそもの製品設計が的外れなものであったとしたらその後の製造工程や検査をどんなにきちんとやっていたとしても,その製品は売れず,会社の売り上げ,利益に貢献しません.
売れる製品とは,顧客ニーズに合致した製品をいうのですから,顧客ニーズを確実に反映した製品設計ができることが経営上重要な関心事となります.
また,製品のライフサイクルが短命化し,その質を維持しながら新製品開発スピードを大幅に改善する必要があったなどの環境変化が重なったことにより,それを解決するための方法論を提供してくれるQFDは広く受け入れられた,ということになります.
■QFDの2つの役割
上述しましたように,QFDは“品質機能展開”と訳されますが,厳密に言えば以下の2つの異なる役割を有したツールだと言えます.
役割1:品質の展開
役割2:品質機能の展開
役割1の品質の展開とは,“顧客のニーズを製品の品質特性(の仕様)に落とし込むこと”を指します.
「品質」の定義が,顧客ニーズに合致した製品の提供を意味するのですから,その定義を忠実に実践することを意味します.
顧客のニーズを把握する原始情報は主に顧客の声になりますが,それは曖昧で捉えづらいものであることが多々あります.
それらの中から重要な情報を抜き出し,体系的に整理して明確にしておく必要があります.
また同時に,これらの顧客のニーズを実現するために製品の品質特性のどこをどのような仕様(スペック)にすべきかを特定する必要もあります.
製品を設計するとは,まさに製品が最終的に有すべき品質特性の仕様を決めることですから,QFDの第1の役割はこの活動を支援するツールとしてもっとも有名な「品質表」なるものを提供しています.
役割2の品質機能の展開とは,“品質を実現するために必要な職能及び業務を明らかにすること”を意味します.
略して表現すると品質機能展開となり,QFDの日本語訳と同じ表現となるため,これを区別するために狭義の品質機能展開,品質機能の展開,業務機能展開と表現することがあります(本メルマガでは,これ以降は業務機能展開と表現したいと思います).
役割1の品質の展開が,主に製品の設計段階で適用されることに対して,役割2の業務機能展開は設計段階だけでなく,購買,製造,営業・販売などあらゆる部門で実施される業務を対象に適用できます.
以上から,QFDとは顧客のニーズに合致した製品を設計することと,その実現に必要な組織内で行われる業務を明確にすることのふたつの役割を持っていることになり,これらの両輪によって,売れる製品を確実かつ迅速に顧客に提供できるような新製品開発体制の構築に大きく寄与することができたのです.
時代は高度経済成長期を終えて成熟経済社会に移行し始めた1980年代のとき.多くの競合製品が市場に投入され,顧客ニーズの多様化・複雑化に対応するために,まさに新製品開発体制の充実が多くの企業にとっての喫緊の経営課題だったのです.
次回から,これらふたつの役割についてそれぞれ詳しく解説したいと思います.
金子 雅明(東海大学)