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基礎から学ぶQMSの本質 第37回 まとめ-ホンモノ志向の品質経営  (2016-10-04)

2016.10.04

 

品質マネジメントの基礎を語り継いできた「基礎から学ぶQMSの本質」シリーズも、先週の「トップ診断」を最後のテーマとして中締めとします。

終えるにあたり、先週予告しましたように、経営における品質、そのためのマネジメントシステムであるQMSの意義などについての「まとめ」をしておきたいと思います。

 

 

 

■経営における品質の意義

 

経営の目的は,製品・サービスを通して顧客に価値を提供し,その対価から得られる利益を原資として,この価値提供の再生産サイクルを回すことにあると考えられます.

品質とは,一般に「考慮の対象についてのニーズに関わる特徴の全体像」と定義されます.

ニーズを抱くのは顧客ですので,品質とは,製品・サービスを通して提供される価値に対する顧客の評価と考えるべきです.

すると,製品・サービスの品質こそが経営の直接的な目的となります.

 

これに対し,経営の目的は利益であるという論が一般的です.

しかし,その利益をあげるためには,何にもまして売上を増すために顧客満足という意味での製品・サービス品質の向上が必須となることを忘れてはいけません.

社会・顧客への価値の提供という組織設立の目的を考えるなら,利益をあげることそのものが経営の目的というよりは,顧客に価値を提供し続けるために利益をあげるのだと考えるべきではないでしょうか.

 

製品・サービスを通して提供される価値に対する顧客の評価を維持し向上することに焦点をあてたマネジメント,すなわち“品質のためのマネジメント”(=顧客価値提供マネジメント)を「品質マネジメント」と呼ぶなら,品質マネジメントは経営の広い範囲をカバーするツールとなります.

 

品質のためのマネジメントの必要性,重要性は次のように説明できます.

組織は顧客に価値を提供するために設立・運営されます.

その価値は,製品・サービスを通して顧客に提供されます.

その製品・サービスの品質を確かなものにするためには,それら製品・サービスを生み出すシステムに焦点を当てることが有用です.

それが品質のためのマネジメントシステムです.

 

このシステムは,目的に照らして,必然的に,総合的・包括的なものとなり,結果的に組織のブランド価値向上,さらには業績向上につながります.

日本において花開いたTQC/TQMが,こうした考察のもとに生み出された「品質を中核に置く一つの経営アプローチ」と位置づけられるなら,このTQMという経営の方法論は,どのような時代においても有効な経営ツールとなります.

 

 

■品質立国

 

1960年~1985年代半ばに実現した品質立国日本は,工業製品の大衆化による経済の高度成長期にあって,品質が競争優位要因であったことによります.

 

顧客の要求に応える製品を設計し,仕様どおりの製品を安定して実現する能力をもつことによって,良質安価な工業製品が生まれます.

工業製品の企画,開発,設計,生産,販売,サービスで成功するためには,顧客ニーズの構造を知り,ニーズの実現に必要な技術根拠を熟知し,必要な機能・性能・信頼性・安全性・操作性などを考慮した合理的な製品設計をし,品質・コスト・生産性を考慮した工程設計をし,安定した製造工程を実現し,顧客ニーズに適合する製品を提供し続ける経営システムを構築し運営する必要があります.

 

こうして顧客が満足する品質のよい製品を合理的なコストで生み出すことができれば,安定した利益を確保できます.品質の重要性を認識し,これを経営の中心に置いたこと,これが品質立国日本を成立させた理由だったのです.

そのなかでTQC/TQMが経営に貢献してきたのは,TQC/TQMが,競争優位要因である品質のためのマネジメントのモデルとして優れていたからにほかなりません.

 

1980年代半ば以降,日本は成熟経済社会に移行し,これに適応した経営が求められています.

経営の目的が,製品・サービスを通して顧客に価値を提供し,その対価から得られる利益を源泉として,この価値提供の再生産サイクルを回すことにあるという基本概念は不変です.

こうした品質の意味の基本を継承しつつ,時代に適応して適切に拡大・深化させ,さらに品質のためのマネジメント(顧客価値提供マネジメント)のモデルを進化させることによって,TQMは現代の経営においてもなお有用な経営ツールとなります.

 

 

■TQMの全貌

 

現代においても有力な経営ツールになりうるTQMは,基本的考え方,マネジメントシステムモデル,方法論・手法,運用技術など多様な側面を持つ要素から構成されます.

 

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TQMの構成要素
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基本的考え方
・品質,管理・マネジメント,人間尊重

 

マネジメントシステムモデル
・経営トップのリーダシップ,ビジョン・戦略
・経営管理システム:経営管理システムの運営,日常管理,方針管理
・品質保証システム:品質保証体系,品質保証システム要素,ISO 9000との融合
・経営要素管理システム:経営要素管理の運営,量・納期管理,原価管理,
環境マネジメント,安全・衛生・労働環境管理など
・リソース管理:ひと,情報・知識・技術,設備などの質の管理

 

方法論・手法
・科学的問題解決法(QCストーリー),課題達成手法
・QC七つ道具(Q7),統計的手法,新QC七つ道具(N7)
・商品企画七つ道具(P7),戦略的方針管理七つ道具(S7)
・QFD,FMEA,FTA,DR
・他の経営管理手法(OR,VE/VA,IE手法,モデリング手法など)の活用

 

運用技術
・導入・推進の方法論:標準的ステップ,体制・組織,教育・指導,評価・診断
・組織・人の活性化:個人・部門のレベルアップや活性化のための諸活動,

企業の表彰制度(デミング賞,日本品質管理賞,経営品質賞など)
・相互啓発,情報獲得:全国的推進体制,相互啓発・情報交換の場,ベンチマーキング
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わが国において,おもに工業界が,戦後30年ほどでその骨格を形成し,その後も経営の中核に位置づけてきたTQCそしてTQMと称される品質マネジメントの全貌は,製品の検査やクレーム処理といった狭い範囲にとどまらず,プロセスにおける品質の作り込みを基礎として,戦略経営,能力開発,意欲向上,組織改善・革新までをも視野に入れる総合的な経営ツールなのです.

 

 

■TQMのコアコンセプト:ホンモノづくりによる持続的成功

 

成熟経済社会においても有効な経営科学の方法論としてのTQMのコアコンセプトは「ホンモノづくりによる持続的成功」です.

 

ホンモノづくり
成熟経済社会においては,顧客に提供される製品・サービスは「ホンモノ」でなければなりません.ここで,「ホンモノ」とは,以下の3つの意味でのことです.

 

①ニーズ:満たすべきニーズの充足
・真のニーズを満たす
・満たすべき潜在ニーズを満たす
・真っ当な,まともな,正しいニーズを満たす

 

②技術:超一流の技術,プロセスの適用
・最適な技術(=ニーズを満たす実現方法・手段)の選択
・高度な技術,成熟度の高い技術
・深慮技術(使用・環境条件に対する広く深い考慮,予測と予防)
・機能美,究めるこころ,こだわりの技術

 

③こころ:心を込めて作り上げる一流のひと
・高い意欲,心意気
・広く深い豊かな知識
・高い技能,スキル

 

すなわち,それは,真のニーズ,潜在ニーズ,正しいニーズを満たすホンモノであり,また超一流の技術・プロセスによる,配慮の行き届いたホンモノであり,さらに,一流の人が心を込めて作り上げたホンモノです.

 

 

■TQMの行動原理

 

こうしたホンモノづくりに必要な行動原理は以下の4項から構成されます.

 

①顧客志向,顧客中心
・顧客の期待・ニーズに対する鋭い感受性
・顧客価値創造・実現の重視

 

②システム志向,プロセス重視
・目的志向の思考・行動(管理の考え方,PDCA)
・目的達成手段への展開(計画,設計)
・要因系の管理(プロセス重視,源流管理,予測と予防)
・学習(真因分析,本質把握,教訓獲得,改善)

 

③ひと中心
・人間性尊重(自己実現)
・技術とマネジメントの補完・超越(知の創造)
・全員参加(全ての要員の経営参画)
・チーム,組織(個と組織のWin-Win関係)
・人の弱さの克服・許容・補完(ヒューマンファクター工学)

 

④自己変革
・変化の様相とその意味を知る(学習能力)
・自己の強み・特徴を認識する(強み・特徴,成功へのシナリオ)
・あるべき姿を認識する(競争優位要因,組織能力像)
・自己を変革する(革新,異質性の許容)

 

「顧客志向,顧客中心」とは,製品・サービスの提供側の価値観でなく,受け取る側の価値観を第一に考えるという,品質概念の原点そのものです.

品質は「考慮の対象についてのニーズに関わる特徴の全体像」と定義できますので,製品について品質を考察するのであるなら,製品についてのニーズを有する顧客が品質概念の中核になるのは当然のことです.

 

「システム志向,プロセス重視」とは,目的達成に必要な思想・行動の原則を理解し実践できる思考・行動様式を意味しています.

それらは,管理の基本やPDCAの理解と実践,目的を達成するための手段への展開(計画・設計の合理的な方法),良い結果を得るための要因系の管理(プロセス重視,源流管理,予測と予防などの考え方や方法),さらに学習(深い分析に基づく本質把握,改善)など,珠玉のようなマネジメントの知恵から成り立っています.

 

「ひと中心」の根本思想は,組織のパフォーマンスは人で決まるという哲学にあります.

良い製品・サービスを提供するためには,製品・サービスに固有の技術,その技術を生かすマネジメント,さらにその固有技術の埋め込まれたマネジメントシステムで動くひとが重要です.

それらのひとに内在する知識,技能,意欲が一流でないと,技術もマネジメントシステムも生きてきません.

それゆえ,人々の知識,技能,意欲の向上に意を注ぐ経営を推奨します.ひと中心経営では,人間,人間性を尊重します.また,個と組織のWin-Win関係に腐心します.

さらに,人の弱さの克服・許容・補完に意を注ぐ経営を行います.ひと中心とは,何とも日本的,東洋哲学的な,短期的視野,限定された範囲での科学的合理性を超える懐の深い悠久の経営です.

 

成熟経済社会において持続的成功の基盤となる行動原理として,どのような経営環境の変化にも的確に対応する能力・文化として,改善能力を基盤としてこれを拡大・深化させた「自己変革」という行動原理が必要となります.

成熟経済社会には,規模・量の変化はわずかですが,質的変化が大きく速いという特徴があります.

この変化の激しい事業環境で成功し続けるためには,環境変化に応じて,自らの組織を適切に変化させる能力を有していなければなりません.

この能力は,変化への対応が重要であることを認識し,変化の様相とその意味を知る能力を有し,自らの特徴を十分に認識した上で,組織のあるべき姿を描き,自らを変革していく能力を有している必要があります.

すなわち組織としての学習能力,競争優位要因の認識,自己の特徴の認識,組織能力像の認識,自己変革能力,異質性の許容などが望まれており,現代のTQMの重要な要素と認識されています.

 

さてさて、これにて「テーマ3:基礎から学ぶQMSの本質」を終了します。

次回からは、品質経営、品質管理のツールを取り上げて解説をしていこうと思います。

引き続き、お楽しみに.いやどうか寛容の精神で,引き続きどうぞよろしくお願いいたします.

 

(飯塚悦功)

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