基礎から学ぶQMSの本質 第35回 品質改善活動の推進-QCサークル活動 (2016-09-20)
2016.09.20
「基礎から学ぶQMSの本質(運用編)」の今回のテーマは,品質改善活動の推進の大切さについて,小集団による改善活動の原型となったQCサークル活動に的を絞りひも解いていきます。
■全員参加の改善
日本のTQMの特徴を概括すれば,品質を中核にした全員参加の改善を重視する経営管理手法と言えます。
全員参加の改善は,欧米の管理思想では希薄だった管理における人間的側面に光を当て,日本の品質管理をリードするうえでの重要な原動力となりました。
ISO 9000:2015の品質マネジメントの原則でも「成功する組織は,改善に対して,継続して焦点を当てている」と謳っているように,世界的な共通認識において改善の重要性が訴求されています。
■品質保証システムの不完全性と改善
持続可能で健全な組織を実現するために欠くことのできない考え方として,品質保証システムに関してPDCAのサイクルを確実かつ継続的に回すことが挙げられます。
この考え方の背後には,最初から理想的に成熟した品質保証システムを確立することは不可能であるという認識があります。
先ずは,現状の固有技術・管理技術のレベルに基づいて目的を達成するうえで最も適切とみなせる品質保証システムを構築し,運営管理します。そして,その実施の結果を見ながら逐次的に修正などの処置をしていくことで,次第に完成度の高い品質保証システムに近づけていくという思想です。
品質保証システムは,いつ,いかなる時も常に不完全であると自覚することで,組織にかかわる全員の参加を得た改善活動の実践が不可欠かつ重要となります。
小集団による改善活動は,第一線職場の管理・改善で唯一無二の役割を担うQCサークル活動,各部門に展開された全社的な問題・課題に対する管理職やスタッフによる改善活動,部門をまたがる問題・課題を解決するためのタスクチームやプロジェクトチームによる改善活動など,組織において多種・多様な取組みが為されています。
■小集団による改善活動の2つの側面
小集団による改善活動は,次の2つの側面から特徴を捉えることができます。
第1の特徴は,「職場型」(同一職場内で同じ又は類似の仕事をしている人々によって小集団を編成する),又は「横断型」(職場をまたがる又は職域が異なる人々によって小集団を編成する)の活動という側面です。
第2の特徴は,「継続型」(一つの問題を解決する,又は課題を達成した後も引き続き同じ編成の小集団で違った問題・課題に取り組む),又は「時限型」(一つの問題を解決する,又は課題を達成した後に小集団を解散する)の活動という側面です。
QCサークルは,「職場型」で「継続型」の代表的な小集団活動として発展してきました。
■全員参加の改善の場としてのQCサークル
QCサークルは1962年に誕生し,第一線職場で働く人々が継続的に製品・サービス,仕事などの質の管理・改善を行う小グループです。
QCサークルは,日本の品質管理の特筆すべき方法論である全員参加の改善を実務において有効に機能させる枠組みとなり,第一線職場の作業者層全員に改善の場をもたらしました。
QCサークルが自立的に職場の改善を継続的に行うことによって,製品・サービスの質と生産性が向上し,仕事への自負心も高まりました。
コツコツと継続される小さな改善の一つひとつの効果は際立って大きなものではないかもしれませんが,なにしろ足が地についた全員による改善の積み上げは馬鹿にできません。画期的な革新は頻繁に起こせるものではなく,過度の期待は禁物なのですから…
QCサークル活動は,全員参加による改善の重要性と,その有効性を遺憾なく実証し,管理論における思想革命を具現化する場となりました。すなわち,プロセスオーナー(私の工程)意識の高揚,全員が管理者の実感,また第一線職場で働く人々の経営参画意識をひきおこしました。
■QCサークル活動の推進のために
QCサークルが有効に機能するためには,経営者・管理者の理解・指導・支援が重要です。経営者・管理者には,次のことを心に留め,QCサークル活動の活性化への取組みにリーダーシップを発揮することを期待したいと思います。
・チームワークの醸成;サークルメンバー全員が問題を共有し,一人だけでなく全員の知恵を集めて管理・改善を実践する。チーム作りの場は,将来の管理者を育成している。
・科学的方法論の活用;QC七つ道具や新QC七つ道具などのQC手法,問題解決型・課題達成型のQCストーリーの改善手順など,管理・改善に有効な道具類を使いこなせるようにする。
・自主性と自己実現;自らの必要性で,自らの職責範囲を,自らの責任によって活動成果を上げ,成功体験を積む。これは自己実現を大きく促す。
・継続による能力向上;管理・改善を継続することで,サークルメンバー一人ひとりの能力が向上することはもとより,管理・改善の成果を標準化することによって組織の基盤となる固有技術・管理技術の能力を高め,品質に関する競争優位性を強固にしていく。
・組織内での推進の仕掛けの工夫;QCサークル活動の推進組織化,リーダー・メンバー・推進者の育成,多様な改善や推進事例の成果発表会の開催,QCサークルの能力評価など,QCサークル活動を活発化するための仕掛けを工夫する。
・社会的な相互学習の仕組みの活用;社外発表会,リーダー研修会など,約半世紀にわたり築き上げてきた公開のQCサークル活動を支援する教育システムや各種大会をうまく利用する。
・理想のゴールを目指した活動という認識;管理・改善による適価で良い品質の製品・サービスの実現による企業の価値向上,顧客・社会のニーズ・期待を満たす製品・サービスの提供による企業の社会的責任の遂行,従業員の生涯を見据えた能力開発など,普遍的なゴールを目指した活動としてQCサークル活動を捉える。すなわち,QCサークル活動を,組織,その構成員,社会にとって利害が合致している活動にする。
■品質を中核にした全員参加の改善
QCサークルは,QC手法を活用し,継続的な管理・改善を第一線職場で実践しています。個人のみではなくチームとして,科学的な方法論を用いて,問題意識や改善意識に基づき自主性をもって活動しており,これらのことを繰り返し継続的に行うことが,変化に強い人づくり・職場づくりを可能にしています。
サプライチェーンが世界的な規模に拡大し,不透明さを増し激変する経営環境においても,品質を中核にした全員参加の改善の場は不可欠です。それを具現化するQCサークルの本質的な意味を洞察し,職場の管理・改善を自立的に実践できるQCサークルにするための弛まぬ働きかけが重要になっています。
(村川賢司)