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基礎から学ぶQMSの本質 第29回 クレーム処理の仕組み(後編)  (2016-08-08)

2016.08.07

 

 

まず、クレーム処理の手順の全体像について以下に再掲します。

****************************

(1) 応急処置

①苦情の受付

②現品調査または実地調査

③クレーム判定

④クレーム品に対する修理・取替えなどの処置

⑤クレーム処理報告書の発行

 

(2) 解析

⑥現象の的確な把握

⑦重要品質問題への登録

⑧解析担当部門の決定

⑨解析担当部門による現品調査または実地調査

⑩不具合原因の究明

⑪品質保証システムの不備の解析

 

(3) 対策

⑫対策案(方法、範囲)の立案

⑬クレーム品と同一の製品に対する処置

⑭他の製品に対する処置

⑮設計・製造・評価プロセスに対する処置

⑯品質保証システムの改善

 

(4) 苦情情報の活用

⑰クレーム処理報告書の作成

⑱苦情情報の分析と活用

*****************************

 

前回の「クレーム処理の仕組み(中編)」では、上記のクレーム処理の一連の手順①~⑱のうち、⑥~⑪までの「(2)クレーム解析」について説明しました。

今回は、それに引き続いて、「(3)対策(再発防止策)」および「(4)苦情情報の活用」の手順である⑫~⑱について一気に解説します。

少し長くなっていますが、ご了承ください。

 

 

(3)対策(再発防止策)

前回の「クレーム解析」で説明した方法で、クレームを発生させるに至った種々の原因が明らかになったら、以下のような再発防止を目的とする対策を打つことになります。

 

・クレーム品と同一の製品に対する処置

・(同一の原因で起こると考えられる)他の製品に対する処置

・設計・製造・評価(検査)プロセスに対する処置

・品質保証システムに対する処置

 

 

対策案の立案

 

問題の性質に応じて、対策を実施する範囲を決定します。変更を行なおうとする時には以下の2点に注意する必要があります。

 

・新たな問題を引き起こさない

・全体として統一のとれた変更を完全に実施する

 

対策案の実施に伴う変更の思わぬ副作用で、別のクレームに結び付くことは、よくありますので、変更の影響の評価が必要です。

 

 

クレーム品と同一の製品に対する処置

 

再発防止の第一は、クレームを起こした製品と同一種類の、既に製造された製品に対する処置です。

この処置は、クレームを起こした欠陥の影響が大きく、既に製造・販売された製品についても処置をとる必要がある場合にとられます。

 

すでに顧客の手に渡っている製品について、状況によっては人に危害を及ぼす恐れがあると推測されるときや、機能・性能上看過できないときには、欠陥のある製品が含まれる製品群について、その欠陥について公表し、無料で点検し、所要の修理・取替えを行ないます。この処置は、“リコール”と呼ばれます。

 

この処置を的確に行なうためには、欠陥の原因の特定を速やかに行なうとともに、日ごろから、いつどのように作られた製品群がどの顧客群に渡ったのかが特定できるという意味での製品の追跡性(トレーサビリティ)についての考慮がなされている必要があります。

 

既に販売された製品以外についても、販売店など流通経路にあるもの、製造者の倉庫にある在庫製品、あるいは製造工程の途中に仕掛かっている中間製品についても、販売済み製品と同様の処置が必要です。

 

 

他の製品に対する処置

 

クレームの原因となった部品、機構、原理を用いた製品はクレーム品と同一の製品以外にもありえますから、これらの製品群についても対策する必要があります。その方法については前項⑬に準じます。

 

 

設計・製造・評価(検査)プロセスに対する処置

 

前項⑬、⑭はすでに製造されていたり、製造途中にある製品群に対する処置ですが、クレームの再発防止のためには、これだけでは不十分です。

これから製造する製品に対しても次の1)~4)の処置をとる必要があります。

 

1)設計に対する処置

クレームを起こした製品と同一の製品あるいは他の製品の設計仕様に、誤り・不備・あいまいさがあるなら、これを改めなければなりません。

 

2)製造工程についての処置

製造技術上の問題については、技術者がこの工程について研究し、より良い標準を作成すればそれでよいでしょう。

作業ミスについては、作業者の教育・訓練とともに、できるだけミスを起こさないような工程の工夫、ミスを発見できる方法を考える必要があります。

 

3)品質評価(検査)についての処置

これを防ぐためには、部品の受け入れ検査、工程中の検査、最終検査における検査項目の追加、測定機器の改善、測定方法の改良、判定基準の改訂などが必要です。

 

4)包装・輸送・保管中の扱いについての処置

この場合には、包装方法の変更、輸送手段の変更、保管環境の改善、出荷時の検査などが必要になります。

 

せっかく再発防止のための対策を打っても、それが長続きしなければ、また再発することになります。

こうならないように、しっかりと「歯止め」をかけておく必要があり、そのために「標準化」を徹底することが求められます。

この「標準化」とは、単に対策を文書(標準書)にするということではなく、関係者にできるだけ分かりやすい標準を作り、それを関係者に周知させ、もれやミスなく確実に実施することを意味しています。

 

 

品質保証システムの改善

 

前項⑮の対策は、現在、製造・販売中の製品に対する再発防止策です。

再発防止を真に実りあるものにするには、将来、企画・設計・製造・販売する製品群に対して何等かの処置をとる必要があります。前回の⑪の解析は、クレームの直接原因ではなく、そのクレームを引き起こした品質保証システムの不備の発見とその除去を行なうためのものです。

 

そのために、その原因に応じて、以下の1)~4)の処置をとる必要があります。

1)関連する重要特性が設計仕様に盛り込まれていないために起きた

→仕様項目の抜けを無くすための方法を考え出す

 

2)関連する特性が試作時に試験されずに見逃されていたために起きた

→試験項目の選定方法を改善する

 

3)製造工程で作業標準通りに作業されていないために起きた

→作業者に対する作業標準の内容の教育・訓練の方法を改める

 

4)関連する特性について最終検査をしているにも拘わらず、判定基準が不明確なために見逃された

→判定基準の定め方を改善して、検査の計画時にその明確さを確認する

 

たった1件のクレームに対してここまでの対策をとる必要があるのだろうか?と疑問をもたれるかもしれません。

 

1件のクレームは、運が悪くたまたま出たものと思われがちですが、多くはそうではありません。

その会社の「品質に対する考え方」、「仕事のやり方」、「品質を達成するために必要なその製品に固有の技術」など、本質にかかわるところに何らかの問題があって、その結果クレームが起きるのであり、「たまたま」ではなく「そもそも」と考えるべきでしょう。

安全に関する「ハインリッヒの法則」と同様に、1件のクレームの陰には何件ものクレームまたはその予備軍が潜在しているのです。

失敗に対して、応急処置に終始せず、これを生かすために必要な解析をして品質保証システムのレベルアップを図る必要があります。

 

 

(4)苦情情報の活用

 

クレーム処理報告書

 

クレーム処理報告書は、クレーム処理を円滑に進め、クレームの内容・処置の記録を残し、クレーム情報をのちに解析できるようにするために書かれます。

クレーム処理報告書には、少なくとも以下の事項が含まれるようにします。

 

(a)ユーザ名

(b)クレーム品の製品名、製品番号、製造番号(またはロット番号)、使用開始時期、使用頻度に関する情報

(c)欠陥部位、欠陥内容、欠陥発生状況(欠陥発生月日、欠陥発生時の使用方法・使用環境など)

(d)クレーム品に対する処理月日、処理内容、処理費用

(e)クレーム解析担当部門、クレーム発生の技術上の原因(欠陥発生のメカニズム)、クレーム発生の管理上の原因(品質保証システムの不備)

(f)クレームの再発防止策の内容(前回説明した(4)項の内容)、実施月日、実施方法、実施部門、所要費用

 

クレーム報告書が的確に記入されるためには、その記入方法(記入時期、記入内容、記入部門など)について予め明確に定め、関係者に周知徹底しておかねばなりません。

(e)はクレーム解析部門、(f)は対策実施部門において処理後すみやかに記入します。

 

 

⑱苦情情報の分析と活用

 

クレーム処理報告書は、個々のクレームに対する処理の進捗に役立てるとともに、定期的に集約して、製品別、内容別、部位別、使用者別、製造月(または製造ロット)別、重要度別、発生責任部門別、見逃し責任部門別などに分類・整理します。

そのようなデータは、次のアクションに結びつけるために、グラフ化したり、マトリックス図法等を用いて解析をすると良いでしょう。

 

・製品の市場での評価を知る

・社内の品質意識高揚する

・次の新製品開発へ反映させる(例えば、デザインレビューの際のチェック項目とする)

・品質保証システムの改善へつなげる

 

市場評価、新製品開発への反映、品質保証システム改善などの目的のためには、クレーム以外の苦情情報も積極的に活用するとよいでしょう。

 

 

<苦情情報を予防処置につなげる>

予防処置”とは、「起こり得る不適合又はその他の起こり得る望ましくない状況の原因を除去するための処置。」です。

「是正処置は再発を防止するために取るのに対し、予防処置は発生を未然に防止するためにとる。」とされています(以上「 」内は、ISO9000-3.12.1 注記2による。)。このためには、何より潜在する原因の存在をデータから読み取ることが必要になります。これには以下の2つの方法があります。

1)実際に発生したクレームの原因を、他の製品やプロセスに水平展開して、同じようなクレームの発生を未然に防止する。

2)クレームのデータやプロセスの特性等のデータを観察し、解析して、クレームの発生につながる潜在要因を探り出し、これを除去する。

このときに、管理図などのQC手法が役に立つ。

 

さらに、工程能力を上げて品質向上を図ることも、予防処置として考えられます。

 

クレームを防止するための再発防止や予防処置は、製造段階はもとより、設計・開発段階まで踏み込んで検討する必要がある場合が多いようです。特に、設計・開発段階については、「欠陥品の原因の八割が設計不良」という説もあります。

設計・開発段階で、再発防止や予防処置をとるには、一般には次の2つのやり方が考えられます。

1)クレームの記録をデータベース化し、そのデータベースを活用し、個々の設計・開発に反映する。

2)設計審査(デザイン・レビュー)の段階で、過去のクレーム(トラブル)に学んだことを情報として用いる。

 

この1)と2)の2つは独立しているのではなく、2)を効果的・効率的に行うには、1)が必要になります。

 

 

 

<「クレーム処理の仕組み」の「まとめ」>

 

組織の品質管理活動が妥当であるかどうかの総合的尺度は、売上げとクレーム件数と考えるべきでしょう。ある製品・サービスが長期間売れ、その売上げが多いということは、その製品の品質企画が良いことの現れです。

クレーム件数が少ないということは、もし潜在クレームが無ければ、製品・サービスの設計、実現(製造)の段階において、企画された品質が作り込まれ、たとえ欠陥があっても製品・サービスの提供までにはくい止めることができる品質保証システムが整備していることを意味しています。

 

クレーム処理において、クレーム品そのものに対する処置に加えて、再発防止を行なうのは、1件のクレームを教訓として自社の技術をアップし品質保証システムの改善を目指すからです。クレームは設計・実現(製造)において欠陥を作り込み、それを検出することなく市場に出してしまったという意味で、本来あってはならないものです。

それゆえ、深い解析と真摯な反省が必要です。

クレーム処理で最も重要なことは、そのクレームに対する迅速、正確、誠実な処理ですが、1件のクレームから品質保証システムの不備について多くのことを学ぶこともまた重要です。

 

(松本 隆)

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