基礎から学ぶQMSの本質 第28回 クレーム処理の仕組み(中編) (2016-08-01)
2016.08.01
前回の「クレーム処理の仕組み(前半)」で、クレーム処理の手順①~⑱のうち、①~⑤までの「(1)応急処置」について説明しました。
今回は、それに引き続いて、「(2)クレーム解析」の手順である⑥~⑪について解説します。
前回説明した「応急処置」で、クレームの現象そのものがなくなれば、当面は顧客の不満は解消するかもしれません。
しかし、これはISO 的な用語では「修正」(検出された不適合を除去するための処置:ISO 9000 3.12.3)に過ぎません。
これに留まらずに、「是正処置」(不適合の原因を除去し、再発を防止するための処置:ISO 9000 3.12.2)が求められます。
要は、同様のクレームが続々と発生することを防ぐためには、欠陥現象そのものの除去のみならず欠陥の原因を除去しなければなりません。
品質管理のレベルを上げるために、クレームの原因を究明し、これに対して処置をとる活動が必要です。
これらの活動は、1つの失敗を他へ波及させないためと、この失敗からできるだけ多くの事を学びとるための活動であり、「失敗に学ぶ」ことに他なりません。
以下に、手順⑥~⑪まで説明します。
⑥クレーム現象の正確な把握
クレームの原因を究明するための最初の重要なステップは、欠陥現象の正確な把握であり、以下のような項目を、もれなく確実に把握・記録する必要があります。
・クレーム品の製造番号
・クレーム品の使用開始時期・使用頻度
・欠陥が発生した部位、欠陥の内容・発生月日
・欠陥発生時の使用状況・使用環境
このうち、最初の「クレーム品の製造番号」については、製品製造時の製造履歴の記録(トレーサビリティ)と対応させることによって、クレーム原因の調査の重要なデータとなります。
逆に、クレーム原因の調査には製造時のトレーサビリティの記録が欠かせないともいえるでしょう。
そして、できる限り現品を入手するか、必要なら現地を調査することが良いでしょう。
⑦「重要品質問題」への登録
クレームのうち使用・安全に影響が大きいもの、あるいは解決に部門間の連携が必要となるもので、全社的見地からみて重要なものは、全社的にオーソライズされた「重要品質問題」として登録し、クレーム解析・対策の進捗状況のチェック、対策の有効性の確認、および対策完了の判定による登録解除を定められた手続きのもとに実施し、早期解決と処置の徹底を図ると良いでしょう。
特に、新製品の初期流動段階のクレームは、この「重要品質問題」として登録したほうがよいと考えられます。
⑧ クレーム原因の解析担当部門の決定
クレームの原因究明を担当する部門を決めます。担当部署はそのクレームの原因に関する固有の技術を有していなければなりません。
調査・研究、設計・開発、製造、品質保証等の部門がある場合は、クレームの内容に応じて、主担当部門を決めると良いし、複数の部門の協力・連携が要る場合もあるでしょう。
⑨ 解析担当部門における現品調査と実地調査
解析担当部門が、欠陥の原因究明を目的として、現品を調査し、また必要なら現地の調査を行ないます。例えば、顕微鏡による観察、化学分析、精密測定などを行ない、クレーム品を詳細に観察します。使用環境などに問題がありそうな時は、現地に出向き詳しく状況を調査します。
問題解決にあたり、現地(現場)に行き、現物を観察することは極めて大切な事です。
そして現場にいる人の話を真摯に聞くことが望まれます。これらのことを、「失敗学」の権威の畑村洋太郎先生は「現地」「現物」「現人(げんにん)」の「三現」と言っています。
「クレーム原因の究明は多面的に行う」として、以下の手順⑩~⑪をまとめて考えます。
⑩ 欠陥の原因の究明
⑪品質保証システムの不備の解析
<クレームの原因究明は多面的に行う>
クレームの原因は、一般には単純ではなく、種々の要因が重なっていることが多いので、
原因究明は次のように多面的に行う必要があります。
(1)欠陥発生のメカニズム(物理化学的な技術的原因)と管理上の問題点に分ける
(2)発生原因と流出原因に分ける
(3)品質システム上の原因分析
(4)関連標準との関係を解析
(1)欠陥発生のメカニズムと管理上の問題点に分ける
その欠陥がどのようにして発生したかの“メカニズム(物理化学的な技術的原因)”を究明することと、「管理上の問題点」はないかと二つに分けて考えるのが良いでしょう。
これを明確にしておかないと、技術的な原因究明を怠って、単に「不注意だったので、これから気を付けなさい」という「管理上の対策」で逃げることになり、再発を招きかねません。
なお、次のステップで再発防止を図るときに、一般的には、「不注意防止」に逃げる恐
れがある「管理上の対策」ではなく、できるだけ「技術的なメカニズムからの対策」で押さえる方が歯止めが利きやすいという点から望ましいでしょう。
クレームを起こした欠陥がどのようにして発生したのか、そのメカニズムを究明するには、製品に固有の技術とともに、統計解析、実験計画法、故障解析などの手法を利用すると効果的であり効率的です。
時には、シミュレーション、試験、再現実験を行なうとよいでしょう。
再現実験とは、クレームとなった欠陥が発生する条件を確認するために、クレームと同じ欠陥を意図的に発生させる実験であり、原因究明の手段として有効な方法です。
(2)発生原因と流出原因に分ける
クレーム品が作り込まれ、種々のチェックで見逃され、ついには顧客の手に渡ってしまったからには、次に示すように発生と流出という二つの観点で原因を考える必要があります。
1)クレームとなった欠陥をつくり込んでしまった工程とその原因(発生原因)
2)その欠陥を見逃してしまった工程とその原因(流出原因)
なお、次のステップで再発防止を図るときには、「流出」ではなく、できるだけ「発生」で押さえる方が源流管理(「元を断つ」)という観点から望ましい。
(3)品質システム上の原因分析
クレームにつながった欠陥は、その欠陥に関する製品特性の設計仕様に盛り込まれていなかったために起きたのかもしれません。
また、ある欠陥は、その特性が品質試験時に試験されずに見逃されたために起きたのかもしれません。
このようないろいろな分析を通して、品質システムの不備を発見し、改善に結び付けることも必要です。
お客様クレームにつながる製品の欠陥の原因を分析する時に、以下に例を示すように品質システム(設計→製造→試験・検査→出荷 等の各工程を通じた品質保証の仕組み)のどこ(どの工程)に原因があったのかを特定し、品質システムの不備を発見することが大切です。
そしてその不備をなくすことが改善につながることになります。
製品の欠陥の原因を工程別に分析した例
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<工程> <欠陥の発生又は流失(見逃し)原因>
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設計 ・その欠陥に関する製品特性が設計仕様に盛り込まれていなかったために起きた
製造 ・製造工程で作業標準通りに作業されなかったために生じた
試験・検査 ・その特性が品質試験時に試験されずに見逃されたために起きた
・最終検査を実施したにもかかわらず判定基準が不明確なために見逃されて発生した
出荷 ・出荷時に伝票の添付ミスで現物と製品表示が入れ替わった
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(4)関連標準との関係を解析
クレーム発生時に標準との関係を解析することも、大切です。
この場合、決めたルール(標準書)と、その教育訓練と実際の実施状況等とは区別しなければなりません。
このために、下記のような「チェック表」を使うのも有効です。クレーム発生時に、標準との関係を確かめるために、左(1次要因)から順次該当する□に「レ」印を付けて右に展開していくと、最も根本的な(関連標準についての)原因にたどり着けます。
クレーム発生時の関係標準チェック系統図
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□標準はあった □標準を守らなかった □標準を知らなかった □標準を教えられていなかった
□標準を覚えていなかった
□標準を知っていた □標準が守りにくかった
□標準遵守の意識が低かった
□標準を守った □標準が不適切だった □標準以外の要因があった
□標準はなかった
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この後は、⑫以降の「4)再発防止策」となりますが、それは、次回に回します。
(松本 隆)