基礎から学ぶQMSの本質 第27回 クレーム処理の仕組み(前半) (2016-07-26)
2016.07.26
前回の本メルマガ「品質保証体制」で、「品質保証活動の要素」を分解して、以下の(1)~(2)のように、2つに分けて考えることにしました。
(1)“はじめから”品質の良い製品・サービスを生み出せるようにすること
①手順を確立する(顧客満足が得られる品質達成の手順の確立)
②手順が妥当であることを確認する(手順通りの実施で顧客満足の品質達成かの確認)
③手順通りに実行する(手順通りの実施、実施されてない場合のフィードバック)
④製品・サービスを確認する(製品・サービスの品質水準の確認、未達の場合の処理)
(2)“もし不具合があったら”、適切な処置をとること
①応急対策(クレーム処理、アフターサービス、製造物責任補償)を実施する
②再発防止策(品質解析、前工程へのフィードバック)を実施する
上記(2)の「“もし不具合があったら”、適切な処置をとること」の具体的な処置として「クレーム処理」があり、これについて、今回と次回の2回にわたって詳しく解説します。
1)品質管理におけるクレーム処理の意味
「品物やサービスの欠陥などに関して、消費者や製造者が供給者に対してもつ不満」のことを「苦情」といいます。
苦情のうちで、とくに修理、取替え、値引き、解約、損害賠償などの請求があり、供給者がクレームと判定したものを「クレーム」といいます。
なお、苦情(complaint)の国際的な定義は、以下のようになっています。
「製品若しくはサービス又は苦情対応プロセスに関して、組織に対する不満足の表現であって、その対応又は解決を、明示的に又は暗示的に期待しているもの。」
(JIS Q 2000:2015 の3.9.3- JIS Q 10002:2015 の3.5 に“サービス”を追加)
「苦情」は、その表明ならびに判定形態により、一般には次のように分類されます。
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<苦情の分類>
(1)顕在苦情
(1-1)具体的請求を伴う苦情
(1-1-1)クレーム
(1-1-2)クレームと判定されなかった苦情
(1-2)具体的請求を伴わない苦情
(2)潜在苦情
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従って、「苦情」の方が、「クレーム」より幅が広い概念で、「クレーム」は、「苦情」の一部ともいえます。
以上は代表的な一つの解釈又は用語の使い分けで、企業(組織)によっては、これとは別な以下の②の解釈・定義で使い分けていることも多いようです。
②「苦情」は、実質的要求を伴わない不平・不満で、「クレーム」は実質的要求を伴う不平・不満で、両者を識別する。
現実にも、両者の区分は不明確であり、以下では特に区別しないで用いることにします。
クレーム情報は、供給者である企業にとって、以下の①~④に示す点で重要な意味を持っています。
①使用者の不満を解消し、信頼を維持する為の応急処置の出発点になる
②同様のクレームが生じないように予防することができる
③保有する技術の不足や、お客様の要望を知ることができる
④品質システムの不備を知ることができる
このような意味で重要なお客様からのクレーム情報を集め分析することは、失敗に学ぶことであり、改善の絶好のチャンスとすることができます。
まずはこの考え方を社内に浸透させることが欠かせません。
クレームをいただいたお客様は、当社に対して関心を示しているのですから、こういうお客様を大切にして会社を挙げてクレーム処理と防止にあたる会社の姿勢が重要です。
ある食品メーカーの場合は、「クレーム」や「苦情」を含めて、顧客からの商品に関する情報すべてを「ご指摘」と称して、もれなく真摯に対応し、製品品質・サービスの改善に結びつけるシステムを確立して、成果を挙げています。
2)苦情処理の手順(概要)
苦情処理の手順(概要)を以下の(1)~(4)に示します。
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(1) 応急処置
①苦情の受付
②現品調査または実地調査
③クレーム判定
④クレーム品に対する修理・取替えなどの処置
⑤クレーム処理報告書の発行
(2) 解析
⑥現象の的確な把握
⑦重要品質問題への登録
⑧解析担当部門の決定
⑨解析担当部門による現品調査または実地調査
⑩不具合原因の究明
⑪品質保証システムの不備の解析
(3) 対策
⑫対策案(方法、範囲)の立案
⑬クレーム品と同一の製品に対する処置
⑭他の製品に対する処置
⑮設計・製造・評価プロセスに対する処置
⑯品質保証システムの改善
(4) 苦情情報の活用
⑰クレーム処理報告書の作成
⑱苦情情報の分析と活用
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上記の手順の詳細について、以下に解説します。
3)苦情に対する応急処置
苦情処理において、まず苦情を表明した顧客に対する処置が必要です。
この活動は顧客の不満を解消し、信頼を維持するためのものですから、迅速、確実、誠実に行なう必要があります。
この活動によって顧客の怒りが鎮まるばかりでなく、逆に信頼をかち取ることさえできることがあります。
また、貴重なクレーム情報を真に活かすためのポイントは「原因の究明」にあります。
これを確実に実行するためには、初期段階でできる限り詳細な情報を入手しておくことであり、そのための情報収集方法のマニュアル化や教育を行い、社内に徹底しておくことが必要です。
以上を踏まえて、以下の①~⑤の手順を確実に実施することが求められます。
①苦情の受付
お客様からのクレームの受付は、種々の窓口で行われることがありますが、それを集める主管部門を決めておき、迅速にその情報を集約する。
②現品調査または実地調査
できるだけ、現品を入手するか、現地で確認するといった、三現(現場・現物・現実)主義が肝心である。
③クレーム判定
苦情が修理・取替えなど具体的請求をともなう場合、その苦情をクレームとして処理するかどうか判定する。クレーム判定は、製造側において、カタログ・品質保証書などに記載されている事項を基準として行なう。
クレーム判定を小売店、サービス店等に依頼する場合は、判定基準の明確化(標準化)が必須です。
④クレーム品に対する修理・取替えなどの処置
クレームと判定された苦情については、修理、取替え、部品交換を無料で行ったり、値引き、解約、損害賠償などを行なう。
⑤クレーム処理報告書の発行
クレームとして処理した苦情については、クレーム発生状況とその処理内容をクレーム処理報告書に記録する。この報告書は、クレーム判定およびクレーム品への対策を実施した部門で作成し、クレーム主管部門へ送付する。クレーム処理報告書は、引き続きなされるこのクレームに関する処理内容の記録のためにも利用される。クレーム処理報告書に記載すべき内容については、次回に解説します。
(この後は、⑥以降の「4)クレーム解析」となりますが、それは、次回に回します。)
(松本 隆)