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基礎から学ぶQMSの本質 第25回 QMSモデルのいろいろ(2)  (2016-07-11)

2016.07.10

 

 

「QMSモデルのいろいろ」の後半です。今回は、ISO 9001以外のQMSモデルについてお話しすることにします。

 

 

■TQM

 

前回、「QMSモデル」の意味を広く考えたいと申し上げました。つまり、「QMSを構成する要素と要素間の関係を示すモデル」という意味にとどめず、「品質やマネジメントに関わる基本的考え方・哲学・思想や、それから導かれる重要と考える活動」も意味することにしたいと申しました。簡単に言えば、QMSではなく、QM(品質マネジメント)のモデルということになります。

 

1980年ごろ、日本は品質をテコに世界第2の経済大国にのし上がります。その日本から世界に発信した品質管理のモデルを概観してみましょう。

 

日本は第二次大戦後、アメリカから品質管理を学びます。最初はSQC(Statistical Quality Control;統計的品質管理)でした。主に製造工程において、統計的手法を活用して、安定した品質を実現しようとする方法論です。1950年代の品質管理の(三種ならぬ)四種の神器は、「管理図」「抜取検査」「工場実験」「標準化」でした。

 

アメリカから学んだ科学性に、管理における人間性への考慮を加え、日本での品質管理は「日本的」になっていきます。1960年ごろから広まり始めた、そのようなスタイルの品質管理は、TQC(Total Quality Control;総合的品質管理、全社的品質管理)と呼ばれ、時代の進展ととともに進化していきます。

 

実は、TQCという用語は日本発ではありません。アメリカのGE(General Electric)にいたファイゲンバウム(A. V. Feigenbaum)の命名です。彼はTotalを「全部門」の意味で使いましたが、日本は見事な誤解をします。すなわち、Totalとは、(社長から一従業員まで)全ての階層、(製造のみならず、技術、営業、一般管理を含む)全ての部門、(狭義の品質に限定せず)全ての経営目標の3つの意味を持たせたのです。

 

これが、日本の品質管理に「全員参加の改善」という、欧米からは決して生まれてこない管理スタイルが加わる一因となり、管理における人間的側面において世界をリードすることになります。

 

TQCを、ひと言で表現すれば、「品質」を中核とした,「全員参加」の「改善」を重視する経営管理の一つのアプローチ、となるでしょう。

 

1990年代半ば、世界、とくにアメリカは、かつての教え子だった日本に学び、品質管理の概念を広げ、TQM(Total Quality Management;総合的品質マネジメント、総合質経営)と呼称を変えます。日本もそれにならいました。日本の場合には、適用企業によっては、TQCの名の下に、TQMと呼ぶに相応しい品質マネジメントを展開していましたので、TQCとTQMの差について明確に意識することは少なかったかもしれません。

 

私(飯塚)は、TQCからTQMへの呼称変更に伴う概念整理を依頼され、TQM委員会なる検討会でいろいろ議論しました。

 

そのころ整理した「TQMの構成要素」は、以下のようなものでした。

・TQMの基本的考え方(品質,管理,人間性尊重など)

・TQMのコア・マネジメントシステム(トップ、経営管理システム、品質保証システム、経営要素管理システムなど)

・TQM手法(問題解決法、QC七つ道具、統計的手法、新QC七つ道具、QFD、FMEA、FTA、DR、信頼性工学、IE手法など)

・TQMの運用技術(導入・推進方法、組織・人の活性化、相互啓発,情報獲得など)

思想、システムモデル、手法、運動論までをも含む、非常に広い範囲をカバーする経営モデルであることをご理解いただけるでしょうか。

 

 

 

■デミング賞、日本品質奨励賞

 

品質マネジメントのモデルは、品質賞によっても誘導されます。日本の代表的な品質賞といえば「デミング賞」です。この賞は、1950年から52年にかけ、日科技連の招きで来日し品質管理の講義をしたデミング博士(W. E. Deming)の友情を記念して設立された賞です。賞は個人と企業に授与されますが、企業への賞は、その後の日本の企業の品質管理の普及・発展に多大な貢献をしました。

 

デミング賞の授章の条件は、①業種・業態に応じた顧客志向の経営目標・戦略の策定、②その実現に向けたTQMの適切な実施、③その結果としての、目標・戦略について効果、の3点です。

 

その評価基準は以下のような構成になっています。

・基本事項(方針とその展開、新商品の開発、品質管理と改善、管理システムの整備、

品質情報・IT活用、人材の能力開発)

・特徴ある活動(いわゆる「光り物」といわれる企業の特徴ある活動)

・首脳部の役割とその発揮(TQMに対する理解と熱意、リーダーシップ、組織能力向上、

人材育成、社会的責任など)

 

一応は、こうした基準があり、これに沿って採点はしますが、授章3条件の視点から、その企業の経営環境に応じた適切なTQMが展開され効果が上がっているか、換言すれば経営ツールとしてのTQMを有効活用しているかを、柔軟に評価します。

 

デミング賞の上には、かつては「日本品質管理賞」、現在では「デミング賞大賞」と呼ばれる賞があります。

 

デミング賞はレベルの高い賞で、ここに至る中間目標的な賞が必要とのことで、日科技連が「日本品質奨励賞」を設けています。これには、「TQM奨励賞」という、いわばミニデミング賞と、「品質革新賞」というTQMに関する優れた仕組み・手法・思想の表彰のという2つの賞があります。

 

 

 

■MB賞、EFQM賞、日本経営品質賞

 

1980年代、アメリカは自国の国際的競争力の大幅な落ち込みに対処すべく、2つの国家戦略を策定します。それは情報技術と品質です。品質について、日本とドイツを徹底的に研究し、1987年のレーガン政権のもと、当時の商務長官の名を冠して、マルコム・ボルドリッジ国家品質賞(MB賞)を創設しました。

 

審査は、「経営品質(TQM:Total Quality Management)」の考え方に基づき、「リーダーシップ」、「戦略策定」、「顧客・市場の重視」、「測定・分析・知識」、「人的資源の重視」、「プロセスマネジメント」、「業績」の7カテゴリ、計1,000点満点で採点されます。この賞の基準は毎年見直され、微妙に変化していきますが、QMのモデルとして基本に変わりはありません。

 

MB賞は日本生まれのTQCの徹底的研究を通して創設されましたが、TQCの範囲や概念を拡大するものでした。「経営品質」、「顧客満足」、「ベンチマーク」など、TQCで示唆されていたかもしれませんが明示されていなかった、現代の品質経営の主流になる概念に満ちていました。

 

MB賞は、アメリカ産業界に大きな影響を与えた、品質に関わる反攻戦略とも言えるもので、この運動は瞬く間に世界に広がります。

 

まず、ヨーロッパが反応します。1989年、EFQM(European Foundation for Quality Management)が設立され、MB賞と同じ思想の賞が創設され1992年から審査が始まりました。

 

その評価基準は、MB賞の7カテゴリに対し、駆動源(①リーダーシップ、②戦略、③パートナとリソース)、④プロセスと製品・サービス、結果(⑤顧客、⑥従業員、⑦社会)、⑧経営業績、という8カテゴリのモデルになっています。

 

そして、日本生産性本部が、MB賞を逆輸入して研究し、1995年に創設したのが日本版MB賞ともいえる「日本経営品質賞」です。QMの基本的性格は、MB賞と同じですが、その評価基準は微妙に異なり、また毎年改訂をしていて、現在では、①リーダーシップ、②社会的責任、③戦略計画、④組織能力、⑤顧客・市場の理解、⑥価値創造プロセス、⑦活動結果、⑧振り返りと学習、の8項目から構成されています。

 

 

 

■JIS Q 9005

 

QMSモデルの話の最後に、再びQMのシステムモデルに話しを戻しましょう。それは、2009年版ISO 9004のベースになった日本発のQMSモデル、JIS Q 9005です。この規格は、TQMのマネジメントシステムモデルと言ってもよいものです。

 

ことの発端は、ISO 9000シリーズ規格の2000年改訂の最終段階に遡ります。TQMのJIS化プロジェクトが発足し、2005年には初版が発行され、これがISO 9004:2009のベース文書になりました。その後2014年に改訂されています。

 

その基本概念は、「品質アプローチによる持続的成功」です。「品質」を製品・サービスを通して顧客に提供した価値に対する評価ととらえ、「持続的」に、すなわちどのような経営環境においても、顧客に受け入れられるという意味ので「成功」を実現するためのマネジメントシステムのモデル、という位置づけです。

 

その基本概念は、私たち超ISO企業研究会が提唱する真・品質経営と同じであり、実際、研究会メンバが、規格審議において中心的役割を果たしました。QMSモデルとしては、ISO 9000シリーズ規格との親和性を考慮し、箇条4以降を、4.持続的成功のための品質マネジメントの基礎概念、5.QMSの企画、6.QMSの構築及び運用、7.経営資源の運用管理、8.製品・サービス実現、9.監視,測定及び分析、10.QMSの改善、11.QMS革新、という8章構成になっています。

 

少々長くなり申し訳ありません。重要なことは、QMSモデルにはいろいろあり、馴染みあるISO 9001はその一つに過ぎないこと、それよりレベルの高いモデルがいろいろあること、どのモデルも品質を経営の中心・根幹においていること、そして何よりも、これらはモデルに過ぎず、参考にしつつ、自組織がおかれた経営環境に合わせて再構成する必要があるということです。これで行けるという確信の持てる、自身のQMSを構築して下さい。

 

(飯塚悦功)

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