基礎から学ぶQMSの本質 第24回 QMSモデルのいろいろ(1) (2016-07-05)
2016.07.04
今回と次回の2回にわたり、QMSモデルについて考えることにする。
■QMSモデル
読者諸兄は、QMSと聞いて何を思い浮かべるだろうか。
ISO 9001のことだと思うだろうか。
確かに、ISO 9001はQMSのモデルの一つではある。
だが、QMS=ISO 9001というわけではない。
QMSとは、いうまでもなく、Quality Management System(品質マネジメントシステム)の略である。
品質のための、品質の、あるいは品質に関する、マネジメントシステムという意味である。
マネジメントシステムについて、ここでは何も説明していないが、深入りは避けたい。
マネジメントとは、目的を継続的に効率的よく達成するためのすべての活動という程度に理解しておこう。
私たちがシステムという用語を使うとき、それは考慮の対象が少なからぬ要素から構成されていて、それらの全体に何らかの目的が考えられるときが多い。
ここでも、目的を達成するための(少なからぬ)要素の全体、という程度に理解しておこう。
品質に関する考え方にはいろいろあるし、マネジメントの流儀や重要と考える原理・原則も多様だから、当然のことながらQMSは多様である。
ISO 9001は、そのQMSの一つのモデルを提示する国際標準である。
以降で、そのQMSのモデルのいくつかを紹介しようと思うが、その意味を広げておきたい。
すなわち、品質マネジメントシステムを構成する要素と要素間の関係を示すモデルという意味にとどめず、品質やマネジメントに関わる基本的考え方、哲学、思想や、それから導かれる重要と考える活動も意味することにする。
■ISO 9000シリーズ
QMS=ISO 9001という誤解があるくらいだから、まずはISO 9000シリーズのQMS規格、すなわちISO 9001とISO 9004を取り上げよう。
ご存じのように、ISO 9000シリーズのQMS規格の初版は1987年に発行された。
2つの系統の規格からなる。
第一はISO 9001~9003、第二はISO 9004である。
ISO 9000シリーズ規格発行当初より、2つのQMSモデルが提示されていたことになる。
ISO 9001~9003は、購入者が供給者に要求する品質保証システムのモデルという位置づけだった。
9001~9003は、QMSのScopeが異なる3つの規格で、9001はフルモデル、9002は設計機能抜きのモデル、9003は検査による品質保証というモデルだった。
初版のISO 9001のQMSモデルは、4.1~4.20で要求される20のQMS要素から構成されていた。
昔の話だから知っていても何の得にもならないが、経営の責任、品質システム、契約内容の確認、設計管理、文書管理、購買、購入者による支給品、製品の識別及びトレーサビリティ、工程管理、検査及び試験、検査・計測及び試験装置、検査及び試験の状態、不適合品の管理、是正処置、取扱い・保管・包装及び引渡し、品質記録、内部品質監査、教育・訓練、アフターサービス、統計的方法という20項目だった。
ISO 9004は、供給者が自主的にQMSを構築、または大幅に改善する際の指針という位置づけであった。
QMS要素として、経営者の責任、品質システムの要素、品質システムの財務上の配慮、マーケティングにおける品質、仕様及び設計における品質、購買における品質、プロセスの品質、プロセスの管理、製品検証、検査・測定及び試験装置の管理、不適合品の管理、是正処置、生産後の活動、品質記録、要員、製品の安全性、統計的方法の利用を挙げ、指針が提示されていた。
■ISO 9000シリーズ2000年改訂版
ISO 9000シリーズ規格は、1994年の小さな改訂を経て、2000年に大改訂がなされる。
まずISO 9001~9003は、ISO 9001に一本化され、適用除外という概念を導入し、適用できないQMS要素を除外できるようにした。
これが混乱を招き、またQMS認証の信頼性低下にもつながったが、いまここでは触れない。
2000年版ISO 9001は、購入者による供給者に対する要求するというより、QMSの第三者認証の基準となるQMSのモデルへと完全に性格を変えた。
そのQMSモデルは、1987年の初版に比べ、品質保証+αへと拡大された。
すなわち、品質保証(確立した要求事項に適合する製品を提供できる能力があることを実証することによる信頼感の付与)を基礎に、顧客満足(顧客要求事項を満たしている程度に関する顧客の受けとめ方)と継続的改善(QMSの有効性の改善)を付加したQMSモデルへと変えた。
このとき、ISO 9004は、ISO 9001とコンシステントペア(consistent pair)、すなわち独立でありながら整合のとれた一対の規格と位置づけされた。
そのQMSモデルとしては、ISO 9001を超えるQMSモデルであり、次回説明することになるが、各国の品質賞等が提示するExcellence(卓越性)モデルへのstepping stone(踏み台、足がかり)となるQMSモデルあると標榜していた。
このときの規格の構造は、ISO 14001に類似の、全体がPDCAに見える、品質マネジメントシステム、経営者の責任、資源の運用管理、製品実現、測定・分析及び改善という、4章というか5章というか、まあ中をとって4.5章構成にしていた。
■ISO 9004:2009
ISO 9001は、2008年に改訂されるが、これは追補との位置づけで、技術的内容を変えず、QMS認証の基準として2000年版と完全に同等となるような変更にしている。
ISO 9004の方は、2000年の時の、章節構成など形の上でもコンシステントペアであったものから、意味の上でのコンシステントペアにするとの触れ込みで、大きな改訂を行っている。
組織の事業運営における持続的成功(sustained success)の指針との位置づけで、変化への対応,及びそのために必要な戦略性に焦点を当てた指針としている。
実は、このQMSモデルは、2005年発行の日本のJIS Q 9005/9006を重要な基本文書と位置づけた上で開発したものである。
できあがった規格は、JIS Q 9005/9006の精神を正確には継承していないものの、品質マネジメントによって事業の持続的成功を図るとか、品質マネジメントに戦略性を取り込んだ点で、QMSのScopeをかなり拡大した。
■ISO 9001:2015
そして昨年9月、ISO 9001が大幅改訂された。
読者諸兄のご存じの通りである。
QMSモデルとしては、その構造の変化が最も大きいと言ってよいだろう。
この構造(章節構成、箇条構成)は、マネジメントシステム規格に共通にしようという、いわゆる附属書SLに則ったものであり、組織の状況、リーダーシップ、計画、支援、運用、パフォーマンス評価、改善という7つの大きな箇条で構成されるモデルとなっている。
内容的には、組織の状況に応じたQMS設計・構築、事業への組み込みの強化、QMSの方針・目標と組織の戦略との密接な関連付け、リスクへの取り組み、パフォーマンス改善要求の強化、一層の顧客重視、文書類に対する一層の柔軟性、組織的な知識の獲得、ヒューマンエラーへの取り組み、などにQMSモデルの変化が見て取れる。
次回は、ISO 9000シリーズ以外のQMSモデルについて考察する。
(飯塚悦功)