基礎から学ぶQMSの本質 第23回 機能別管理 (2016-6-27)
2016.06.28
運営編第3回目の今回は,機能別管理について説明したいと思います.
■機能別管理とは
前々回において日常管理とは“それぞれの部門で日常的に実施すべき業務を効率的・効果的に実施していくための管理“であると述べました.
このように,各部門においてきちんと日常管理を実施していれば,良質な製品・サービスを継続的に提供できる確実性を大いに高めることが可能ではあります.
しかし,製品の性能・機能等といった狭義の品質(Quality)を各部門で如何に担保するかを考えてみるとわかりやすいが,企画部門が策定する製品コンセプトが顧客ニーズにマッチしていなければ良い製品とはいえません.
また,設計部門がその製品コンセプトを製品の具体的な物理特性(品質特性)に落とし込むことができなければ,企画通りの製品になりません.例え企画,設計部門が仕事を適切に実施したとしても,購買部門が仕様通りの購買部品や材料を購入できず,製造部門が不良なく製品を安定的に製造しなければ,これまた,良い製品・サービスを顧客に届けることはできないのです.
その後の,顧客への引き渡しの時でさえも,搬送時に製品が壊れることがないように配慮しなければなりません.
このように,組織内のすべての部門の活動が何らかの形で品質(Quality)に影響しており,個々の部門が与えられた仕事を適切に実施する日常管理だけでなく,品質という軸に基づいて部門を跨がる管理プロセスが必要であると考え,このプロセスを全社的(または全事業部的)な立場から管理しようとするものが,「機能別管理」なのです.
そして,ここでいう「機能」というのは,上記の品質を指すとともに,それ以外にコスト,納期,安全・環境などの経営全体が有すべき機能という意味です.
ちなみに,英語でFunctional organizationいうと,様々な製品の開発・生産・販売をするために,製品ごとのプロジェクト単位で組織を作らず,企画,設計,生産,営業という“機能”単位で組織を作っておいて,ある一つの特定の製品プロジェクトを進める際には,各機能にその担当者がいるという組織の作り方を言います.こうした組織体制にするのが通常ですので,Function(機能)=「部門」と訳すことで理解しやすくなります.
しかし,これでは部門横断的な管理である機能別管理を“部門別管理”と誤解することになりかねませんので,英語表記を“cross-functional management”(機能/部門横断管理)としたほうがよかったかもしれません.
逆に言えば,日本の品質管理界がこの部門横断的な管理を「機能別」と日本語訳したのが適切ではなかったとも言えます.
機能別管理を「経営要素管理」や「管理目的別管理」とでも言う方が良かったのでしょう.
いずれにしても,改めて機能別管理とは,各部門における日常管理を前提として,組織目的を達成するために,部門を超えて組織全体としての質,コスト,納期などを部門横断的に管理するものです.
通常は,委員会などを組織して,この場で全組織的視点からの課題を明確にし,機能別(品質,コスト,納期)ごとに実施計画を立案し,実施担当部門の日常管理を通して実施し,実施結果を全社的立場から評価し,必要なアクションをとることになります.
例えば,品質については,多くの企業において品質保証・管理委員会(名称は各企業で異なるかもしれません)を設置しており,品質に関して最終責任を持つ執行役員,すなわちCQO(Chief Quality Officer)が当該委員会の委員長となり,また当該機能の主管部門である品質保証・管理部門が事務局となって運営され,定期的な会議体を設けて品質に関わる全社的な課題の特定,課題解決のための実施計画,及び実施状況や結果の評価を行っています.
一方で,本委員会で議論し,策定した実施計画を各部門に展開し,各部門の日常管理の枠組みの中で責任を持って確実に実施されることになります(なお,日常管理の枠組みを活用して機能別管理が実施されることになりますので,この意味では,日常管理➡機能別管理という順に整備していくことが必要だということがわかります).
この際,事務局である品質保証・管理部門は,当該委員会の運営事務は当然ですが,それ以上に各部門で円滑に実施するための調整,支援,促進なども行うことが求められます.
さらに,今年度の課題の実施状況やその反省を踏まえて,来年度に取り組むべき課題の素案をCQOに提案するという積極的な働きかけも必要となることがあります.
以上のような機能別管理をうまく進められるかは,各部門がいかに全社的な視点から物事を捉えて,部門間に存在する“壁”を打破できるかどうかにかかっているといえます.
各部門はそれぞれに達成すべき目標や抱える課題があり,日常業務の内容も大きく異なります.
このような状況下で各部門が個別最適に走らず,“企業全体の品質という目標の達成に向けて,自部門がどのような役割を担うのが最も合理的か”という考えを醸成することが事務局たる品質保証・管理部門が果たすべき重要な責務になります.
■経営管理における3つの管理
これまで,日常管理,方針管理,機能別管理の順に説明してきました.
実はこれら3つの管理は,品質管理の世界で経営管理を実践するということが具体的にどのような活動をすることになるかを示唆しています.
上述しましたとおり,日常管理とは部門ごとに実施する管理活動であり,部門別管理とか分掌業務管理とかとも言われます.
それに対して,機能別管理とは経営機能を基軸とした部門横断的な管理活動であると解説しました.
日常管理が部門単位で管理する活動であり,それを“縦(タテ)の管理”とすれば,機能別管理はその部門を横断する“横(ヨコ)の管理”と整理できます.
つまり,縦(タテ)と横(ヨコ)の2つの管理活動を通じて,経営・事業方針や目標を達成しようと捉えていることになります.
一方で,方針管理とは,事業環境の変化への対応や自社のビジョン達成のために,通常の管理体制の中で満足に実施することが難しいような全社的な重要課題を,組織を挙げてベクトルをあわせて確実に解決していくための管理活動であると言えます.
経営環境が静的で安定しているのであれば,そして組織の目的が適切に定められ、それが各部門の目的に適切に展開されて妥当な日常管理の仕組みが構築され,さらに部門横断的管理活動としての機能別管理が適切に運営されれば,これで組織運営はほぼうまくいくはずです.しかし,方針管理はこの2つの管理では十分に対応できない「変化への対応」に焦点をあてた管理活動になるのです.
つまり,経営管理においては,ある与えられた環境での“静的”な管理(すなわち,日常管理と機能別管理)が基本であるが,同時に経営環境の変化に応じた,全社一丸となった“動的”な管理(すなわち,方針管理)もまた重要であることを示唆しているのです.
これまでのことをまとめると,経営管理における3つの管理活動の目的と位置づけは以下のようになります.
1)静的管理
1-1)タテの管理:日常管理(分掌業務管理,部門別管理)
1-2)ヨコの管理:機能別管理(経営要素管理,管理目的別管理,部門間連携)
2)動的管理
2-1)方針管理(環境適応型全社一丸の管理)
(金子雅明)