基礎から学ぶQMSの本質 第20回 品質管理の本質(2016-6-6)
2016.06.06
前回で管理とは何かについての解説を終えましたので,今回はこれまでの総まとめとして,品質管理とはいったい何であったかを振り返りたいと思います.
まずは品質管理の「品質」について,その深淵なる意味合いを6回(第1回~第6回)に渡って解説しました.
品質の意味を端的に言えば,
“顧客の使用目的,要求(事項)や期待を,提供した製品・サービスがいかに満たしているか(合致しているか)”
を表すものでした.
ということは,顧客が求めているモノを満たした製品・サービスが“品質が良い(高い)”となり,一方で満たなかった製品・サービスは“品質が悪い(低い)”になります.
また,この品質の定義の中でとりわけ大事なキーワードは「顧客」と「製品」であるとも述べました.
つまり,誰に何を提供しているかを明らかにすることが大切であることを示唆しているのですが,当たり前のように見えて,実はよく考えてみるとそれが意外に難しいとも言いました.
“誰に” とはまさに顧客のことですが,それには製品を使用する人,お金を払う人,どの製品が良いかの選択する人などがいて,いつも同じ人物であるとは限りません.
B to B企業であれば,設計部門や購買部門の誰が自社の製品の決定に影響を与えるキーパーソンであるかを明らかにすることが事業運営上とても大事です.地域社会,世間の関心にも注意を払わなければなりません.
これを社会的品質という言葉で説明しました.
このように,多様な顧客の異なるニーズを認識しておくことが重要なのです.
“何を” も,すぐに製品をお客様に提供していると答えがちですが,本当に提供しているのはその製品・サービスの提供のその先にあるもの,すなわちその製品を顧客が使用することによって得られるメリット,有効性のことでした.
今,変化の激しい成熟経済社会では,「顧客価値」という言葉を用いてこの点をことさらに強調しています.
自社では顧客にどのような顧客価値を提供すべきか,そのためにどのような製品・サービスが必要かを明確にすることが,顧客に“何を”提供しているか(すべきか)の問いに対するまっとうな答えとなります.
誰に何を提供するのかが明確になれば,品質をより具体的に語ることができます.
品質を語る側面にもいろいろあります.第1に説明したのは,狩野の品質区分と言われるもので,当たり前品質,一元的品質,魅力的品質でした.当たり前品質を確実に満たしながら,一元的品質,魅力的品質で競合を圧倒するような製品・サービスを提供し続けることが重要です.
第2に,守りの品質,攻めの品質というものも紹介しました.
前者は,いわゆる品質ロス・コストを低減することが活動の中心であり,
利益=売上-原価
の原価を低減することが目的です.
一方で,後者の攻めの品質とは売上(とりわけ,売価・単価)を伸ばすこと,より具体的に言えば,市場にまだ存在せず,顧客自身も気が付いていないニーズに応えることができる付加価値の高い製品・サービスを提供することです.
多くの企業では,守りの品質ばかりに目が行っていますが.攻めの品質も忘れてほしくないものです.
最後に,品質を経営の中心に据えることの意義には2つあると申し上げました.
一つ目は,価格(Cost)や納期(Delivery)などの他の経営要素と比べて,品質(Quality)が経営におけるより根元的な要素であり,一見して価格や納期の問題に見えて実はその根源には品質の問題が存在することが少なくないのです.
二つ目は,上の攻めの品質,守りの品質で述べたことの繰り返しになりますが,品質を追求することは,売上を上げ,原価を押し下げることであり,その差額である利益への貢献度が大きいからです.
品質をやっても一向に利益が上がらないというのは,品質を追求すること自体が間違えではなく,会社内の品質の考えに対する大きな誤解があったり,取り組みが的を得ていないことが主原因であることがほとんどだと言ってよいでしょう.
次に,第7回目以降では,品質管理の「管理」の話をしました.
管理は,品質よりもより一般的に普及している言葉だけに,それが意味することについてより丁寧に解説することに努めてきました.
まず最初に,管理=締め付け,統制,監視はまったくの誤解であることを説き,その本当の意味は「目的を効率的に達成するためのすべての活動」であると説明しました.
逆に言えば,目的を効率的に達成することを阻害するような活動は「管理」では決してなく,単に過去からずっとやってきていることだから変える必要はないという,曖昧で根拠のない“心の甘え”であることが少なくありません.
また,高品質な製品を提供できるためにはそのための“技術”が必要です.
その技術は,その分野,製品固有の技術(固有技術)と,その固有技術を活用して組織運営する管理技術の2つに分けられ,これらの両輪が揃って初めて高品質な製品を安定的に顧客に提供できると説明しました.
管理技術に不備があり,持っている固有技術を100%有効に活かしていないのであれば,管理を強化することで品質が向上します.
しかし,それだけでは限界があり,当然ではありますが,製品の品質向上には固有技術レベルの向上,すなわち開発・研究も欠かせません.つまり,企業は管理技術と固有技術の両方を,バランスを取って向上していくことが大事であると述べました.
その後,管理技術にフォーカスして,管理をうまく進めるための7つの原理・原則,すなわち,
・PDCA
・重点志向
・プロセス志向
・標準化
・事実に基づく管理
・現状維持と改善
・人間性尊重と全員参加
が大切であるとともに,各原理・原則を実践する際のコツや留意事項について,かなりの分量を使って説明してきました.
これらの7つの原理・原則についてその全体像をざっと見てみましょう.
まず,管理とはざっくり言えば,「PDCA」を確実に回すことです.これは頭では容易に理解できますが,実際に組織の中で実施していくとなると,なかなか難しいことであると説明しました.
会社の中には様々な問題が山積しています.
これらについて,目が付いたところから構わず手を出してPDCAを回していくのではなく,問題に優先順位をつけて,優先順位の高い問題の解決に多くの経営リソース(人,もの,金)をかけることが大切だと説明しました.
これが,第2の「重点志向」の考え方です.
重点志向の考えに従って重要な問題に絞れたら,実際に問題解決を行うことになります.
この際に大切なことは,良い結果は良いプロセスから生まれるという第3の「プロセス志向」の考えに沿って,どのようなプロセスや仕事のやり方であればよい結果が出せるかという点を検討することです.結果が悪いことを嘆いても何も解決しません.
よりプロセスや仕事のやり方が明らかになれば,それを関連する人々にその意味や内容を理解させ,徹底させることが次に重要となります.
そのための第4の原理・原則が,「標準化」でした.
より良い結果を生み出すプロセスや仕事のやり方は何であるか,それを関連する人々の間で共有化し徹底してもらうためにはどのような標準内容とすべきか,これらは,ある一部の人がKKD(勘,経験,度胸)だけで決めるものではなく,事実やデータに基づいて意思決定することが大切であると主張するのが,第5の「事実に基づく管理」です.
KKDももちろん重要です.でもそれだけではダメで,事実やデータによってそれを補うことができれば,鬼に金棒だということを示唆しているのです.
新たなプロセスや仕事のやり方を運用し始めることになったら,それを維持し続けることが重要です.日々,様々な変動やノイズがある中で,確実に今のやり方や状態を「維持」し続けることは,実はかなり高度な仕事であり,ここをおろそかにしてはいけないとも言いました.
また同時に,今のやり方だと現状を維持できない,または今よりもより良い結果が得られるように仕事のやり方を変えることも重要であり,これを「改善(KAIZEN)」と言いました.
何があっても確実に今の状態を維持し続け,何かあった時には今の仕事を大きく変えるという改善も辞さないという,切っても切り離せない二つの重要な考えを「現状維持と改善」という,第6の原理・原則に込めています.
以上の6つの原理・原則をきちんと実践できるかどうかは,結局はそれを実践する「人」にかかっています.
「人」がやる気に満ち,目標に向かって自律的に行動を起こすことができなければ,何も実現しません.
管理のための最後の原理・原則として「人間性尊重と全員参加」を挙げたのはそのためでした.
こうして改めて「品質管理」とは何かを一気に振り返ってみますと,品質とは,製品・サービスの良し悪しを,提供する組織ではなく顧客側の外的基準によって決まることを指しています.
これは目的志向と言い換えてもよいでしょう.
そして,目的を達成するためにその要因系に思いを寄せ,どのような要因から構成され,それら要因間の因果関係をどのようにすれば効果的に目的を達成できるかというシステム志向に着目しています.
より一般的に言えば,“目的を明確にしてそのための効果的な達成手段を考えて,それを確実に実現する”ことが品質管理なのです.
また,品質管理とは今まで皆さんが考えていた狭い範囲の活動のことではなく,まさに経営そのものであるように思えたかもしれません.
その反応は正しいと言えます.
言うまでもなく,経営とは,会社組織の活動の主たるアウトプットである製品・サービスを顧客に提供し,それによって対価を得て,そこからさらに,その得た利益を再投資して価値提供の再生産サイクルを維持していくことです.
提供した製品・サービスが顧客に受け入れられることを品質と言い,そのような目的(=顧客に受け入れてもらうこと)を効果的に達成する全ての活動を管理と言うのならば,「品質管理」が経営のすべてであると言わずとも,譲れないコアな部分に位置づけられることは否定できないでしょう.
以上で,基礎概念編は終わりとなります.
次回からは運用編に移り,方針管理,日常管理など,これまで習った基礎概念をベースにしてどのような仕組みを構築し,運用すればよいかについて解説したいと思います.
(金子雅明)