基礎から学ぶQMSの本質 第19回 第7の原則「人間性尊重と全員参加 」(その2)(2016-5-30)
2016.05.30
前回は、人財というリソースの特徴、人財制度の確立と提供について、述べた。
今回は、以下について述べる。
ー 作業における取り組み(ヒューマンエラー防止)
ー 人の、自主的な取り組みの醸成と全員参加
ー 組織におけるコトバと概念の共有化(コミュニケーション)
■ 作業における取り組み(ヒューマンエラー防止)
上記では、能力制度の確立と提供を通じ、人の基本的なスキルや能力を高めるため取り組みを記述したが、人は間違いを起こす存在でもあることを忘れてはならない。
そのような間違い、エラーが必ず生じる状況には、次のようなことがあるだろう。
ー 作業手順、ルールを認知せずに、間違った
ー 作業手順、ルールを認知し、その通り実施したが、間違った
ー 作業手順、ルールを認知したが、その通りに実施せず、間違った
すなわち、作業手順やルールを知らないのであれば、守る術がないので、まずは、ルールを学ぶことが必須となる。
この際、その作業手順やルールが、作業をする人を守るために存在していることを伝えることが重要となる。
次に、手順やルールを理解していたが、結果的に間違った場合、その手順やルールに、人の間違いを誘発させる要因があると理解することが良い。
最も重要なケースは、作業手順、ルールを認知したが、その通りに実施せず、誤った結果となる場合だ。
この場合、作業者に直ちにペナルティ、叱責を与えるのではなく、その作業者にどのような思いがよぎったのかを理解することが重要となる。
人は、そのリスクを冒すことによるメリットが、リスクそのものよりも高いと判断すると、そのリスクを思わずとる傾向があることが知られている。人の、一種の弱味である。
多くの重大事故、事件は、そのような個人の思い、感情に根ざしていることが多い。そこには、“そのような事故は、起きない”という思い込みである。しかし、私たちは、“そのような事故”は、実際に起きることを知っている。
このような、ヒューマンエラー防止を、冒頭の【人的リソースの4つの特徴を】からみると、次のようなことが見えてくる。
ー 多様性 : 作業手順、ルールの認識のバラつき
ー 変化 : 作業慣れ
ー 感情 : 思い込み判断を誘発させない仕組み、体感的な学習
ー 言語(概念): リスクコミュニケーション
■ 人の、自主的な取り組みの醸成と全員参加
上記の人財制度の確立と提供と、作業における取り組み(ヒューマンエラー防止)は、受け身であり、また、各部署にて閉じられており、必ずしも、人のモチベーション向上には直接作用するものではないかもしれない。やはり、人は、指示されるのではく、自ら考え、自ら実施することを好む。
そのような自主的な取り組みを醸成するための方法として、全員参画の小集団活動がある。
小集団活動は、日常業務が円滑に進むための、職場単位での比較的少人数の改善活動である。どんな職場においても、“ここを、もっと良くすれば”、という思いは、必ずあるものだ。そのような課題に対して、該当する職場の人々が管理職の助言のもと、自主的に課題、問題を解決していく。また、優れた取り組みには、それぞれの集団に褒章を与えることが良い。
ここで重要なことは、組織の目的のために“全員参加”の状況、風土をつくりあげることである。
人は、多様であり、できること、得意なことに差異が必ずある。生き物である私たちは、遺伝子に組み込まれた多様な遺伝子により生き延びている。それでは、そのような多様な私たちがある特定の目的の達成に、どう関わるのか。
まず、重要なことは、人々が共有した目的をイメージできていることである。それも、曖昧なものではなく、“自分なら、こういうことに貢献できる”ということである。
そのためには、統制的な管理ではなく、人々の自主性を滋養する“管理”が必要となる。具体的には、個々においての技術を自主的に磨くための場、そして、失敗したときには、その失敗からの学びを促す場を提供することである。
また、個々人が頑張るだけではなく、組織における人と人とのネットワークを構築することである。お互いの強みと弱味を理解し、相互に関わり、支援することにより個人ではできない、組織の目的達成を行うことができる。そして、そのような、目に見えないネットワークが、勝手に出来上がるのではなく、トップの意思によりできあがる。
このようなスタイルの管理と、組織の人々のネットワークより、全員参画型の経営が確立されていく。すなわち、経営ビジョン、方針の策定、実施及びレビューについて、トップがすべて決めるのではなく、組織の人々それぞれの立場にて、自ら考え、判断し、行動し、その結果についても、自ら評価し改善することを行うこと促すのである。
このような、人の、自主的な取り組みの醸成と全員参加を【人的リソースの4つの特徴】からみると、次のような事が見えてくる。
ー 多様性 : 自由、多様な案、思考、新人、ベテラン
ー 変化 : 変化する、現実の、実際的な課題への取り組みへの支援
ー 感情 : 自己の存在意義、尊重されている感、モチベーション、承認感
ー 言語(概念): 多様な思考形式との関わりと思考スキルの成長
■ 組織におけるコトバと概念の共有化(コミュニケーション)
人は、唯一、コトバを使う、とても珍しい生き物とも言える。もともとは、危険を伝えるための意思伝達の道具だったのかもしれないが、人の進化にそって、人は、現在のみならず、過去や未来という時間軸を理解することとなり、ここに物理的には存在しないが、あたかもそこにあるような知覚を得るようになった。
すなわち、概念である。(abstract Concept と、心理的情景をあわせて概念としている)
人は、普段の生活にて、常に概念を使っている。例えば、訪れたことがない外国について、その写真を見ることにより、イメージを得ることができる。しかし、人は、そんな写真を使いながらも例えば、その外国に訪れている自分自身を描くことができる。
すなわち、物理的なカタチはないモノ、今、現実には存在していない未来のモノについて心理的描写を行うことができる生き物である。
同様に、組織のQMSという存在は、物理的には存在していない。品質マニュアルや手順書は、表現媒体であり実施の“QMS”ではない。存在している場所は、人である。
ここで重要なことは、人、それぞれにて、例えば、組織の品質方針という概念を心理的に描いたとしたら、それらは、人によって大きく異なる可能性が高い、ということである。そのような状況では、結果として同じ概念コトバを使いながら、全く異なる状況を描いていることになる。
従って、概念は、可能な限り、ビジュアルに表現することが重要である。具体的には、組織のQMSの活動全体を俯瞰することにより、組織の人々は俯瞰した上での行動や判断を行うとことができる。そのための道具として、
“概念図”が有用となる。例えば、下記のような事項を、ビジュアルな図として表現することにより共通したメンタルイメージを喚起させることができる
例えば、次のような概念のビジュアライズにより、組織のQMSの構造、機能、ふるまい、といったことについて、部門横断的、全社的な理解を得ることが、文字だけで理解するより、容易となる。
ー 組織のQMSプロセスと、それらの階層、つながりを明確にする、QMS構造図
ー 組織を取り囲む外部環境と具体的な状況、組織の内部環境と具体的な状況
ー 組織のQMS全体での、意図する結果が得られるシナリオ、構図
ー 事業環境、リスク、及びそれへの対応のシナリオ、構図
このような、コトバと概念を解釈を、冒頭の【人的リソースの4つの特徴】からみると、次のようなことが
見えてくる。
ー 多様性 : 組織の人々は、個性を発揮しながら、一つの方向に行動が収斂される
ー 変化 : QMSとは何か、ということについての認識が変化する
ー 感情 : こうすれば、うまくいく、という確信、モチベーション
ー 言語(概念): 組織のQMS像を概念として確立する
■ おわりに
第7の原則「人間”性”尊重と全員参加」を2回にわたり述べた。
いかなる組織であっても、なんらかの価値提供を行おうとすると、それは、人の努力、発想や技術に基づく。また、その価値提供は、一人だけで実現できるものではなく、人の多様な強み、そして弱味への補完を通じて実現する。そのような、人間”性”尊重と全員参加を、経営の根幹に置くことが、長生きする組織として、とても重要となる。
(山上 裕司)