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メルマガ② QMSの本質

基礎から学ぶQMSの本質 第16回 第5の原理・原則「事実に基づく管理」(2016-5-9)

2016.05.09

 

 

原理・原則の5番目は,事実に基づく管理を取り上げる。

 

 

 

■事実の重視

 

近代の品質管理は,科学的な管理を標榜したと言われる。

科学的を“事実と論理を重んずる思考・行動様式”という意味にとらえれば,品質管理において事実を重視することは基本的要件となる。

ISO 9000の品質マネジメントの原則でも,データ・情報の分析・評価に基づく意思決定は,望まれる結果を得る可能性を高めると説明し,客観的事実に基づく意思決定を推奨する。

 

 

 

■事実に基づく管理

 

事実に基づく管理は,経験や勘のみに頼るのではなく,事実やデータに基づいて管理することを意味する。

事実に基づく管理をファクトコントロール(Fact Control)と言うこともあり,英語ではManagement by Facts(事実による管理),Factual Approach(事実に基づく方法)と表現されるように,これらの用語には科学的な管理において事実を重く見る意図が表されている。

“管理”が何を意味するのか迷いが生じたら,本テーマの第7回と第8回のメールマガジンを再読されたい。

 

QCサークル生みの親として,またQC七つ道具の一手法である特性要因図の創案など,品質管理の普及・発展に大きな功績を残された石川馨先生は,「データ,事実でものをいおう」と説いた。QCサークルなどの問題解決で使われるQC七つ道具は基礎的な手法の集まりであるが,事実に基づく管理の有効なツールである。

 

しかし,事実に基づく管理を具体的に実行するのは,口で言うほど容易ではない。

事実を調べてデータとして表し,そこから推定したり,判断したりして適切なアクションをとるためには,まず事実をしっかりとらえなければならない。事実が潜在化していたりすると,とらえた事実が真実の姿のすべてを表しているとは限らないことにも注意を要する。

さらに,その事実をデータ化する必要がある。ウソのデータや間違ったデータではもちろんいけないし,データをとれない場合もある。

また,データによって工程解析などが正しく行われることも不可欠である。

 

 

 

■事実に基づく管理と経験・勘・度胸

 

製品・サービスに不具合が発生したときに,事実を見ずに経験・勘・度胸に頼った想定によって不具合を発生させたメカニズムが説明できることもあるが,実際は想定以外のメカニズムで不具合が発生していたら対処を誤ってしまう。

 

事実に基づく管理では,経験・勘・度胸(Keiken・Kan・Dokyo),略してKKDを排除すべきだろうか?

“KKDのみに頼るのではなく”というところがポイントである。事実に基づく管理はKKDのみに頼る管理を戒めているが,KKDを否定しているわけではない。むしろ,KKDをうまく活かすことがより大切である。

例えば,ある問題の原因を追究する場合,ベテランや勘のよい人は過去の経験でわかっている事実をもとに原因が何でありそうかを考察し,鋭い指摘をすることがある。

 

つまり,何を調べるかを検討する場合など必要に応じてKKDを活かし,調べればわかることは事実を調べ,また調べなければわからないことは意味があるのならばきちんと調べることが,事実に基づく管理を確実なものにする。

 

 

 

■三現主義

 

KKDなどを駆使して不具合を発生させたメカニズムを考察し想定することは問題解決を効率化するが,そのメカニズムはまだ仮説なので,必要な検証を怠ってはならない。

「そうと思う」と,「そうである」が異なるかもしれないということを常に認識し,行動することが重要である。

 

事例を挙げると,ある製品を機械に結合するボルトが切断した。早期対策を求められ,再現試験に時間がかかるなどの理由で,設計者はボルトの強度不足を推測し,太径に設計変更した。しばらくして製品を固定する金属板が破断した。そこで金属板を厚くしたが,今度は製品自体が破損した。実施した対策は原因を除去しないことが判明し,稼働実態を現地・現物で詳しく調べた結果,機械固有の振動が問題を引き起こすことがわかった。

 

事実に基づく管理を実行していくうえで,“三現主義”が大切であると言われる。

三現とは,現場・現物・現実という3つの“現”を指す。

三現主義は,現場で,現物を見ながら,現実的に検討を進めることを重視する考え方である。

 

問題などが発生したときに,まず問題が起こっている現場に行く,次に現物をよく観察する,そして観察から得た事実を客観的なデータで表して現実を明らかにする,という行動をしっかり確実にとって物事の本質を突き詰めていく三現主義は,事実に基づく管理を実践するうえの基本姿勢である。

 

事実に基づいて物事の本質を捉えて行動することが原則であるが,事実をどこまで追及して行動するのが得策だろうか。

 

ある地方で発電用の風車建設が起案された。超低周波音による健康影響が懸念されたが,科学的な証明は難しかった。一方,早朝発着フェリーの振動で目覚めた人の調査で超低周波音の影響が浮かんだ。これら知り得た事実をもとに建設凍結の意思決定がなされた。

そして,健康配慮の取組みとして,風車の影響を評価できなかった責任を後から問う方向ではなく,建設前に環境影響評価を行うことになった。

 

社会環境面の事例であるが,問題発生のメカニズム解明がままならない場合などは,事実と論理を重視した意思決定を行うに足る情報を把握して最善策を選択し,メカニズム解明の進展に合わせてより合理的な対策を講じることが得策なことを示唆している。

 

三現主義を愚直に実践し,「そうである」ことを,合理的に見定めることが重要である。

 

 

 

■事実の見極め

 

石川馨先生は,「データを見たら危いと思え。計測器を見たら危いと思え。化学分析を見たら危いと思え。」とおっしゃっていたそうである。

苦情・クレームが表面化せずに潜在化している場合では事実のすべてをわかかっていないかもしれない,事実と思っていることが事実でないかもしれない,事実・データに誤りがあるかもしれない,偏ったデータかもしれない,また統計処理して数値化されたデータを事実であると思い込んでいないかなど,事実・データの真贋を見極めることが必要である。

 

ペーパードライバーで免許を持っていても運転できなければ役に立たないように,ペーパーQC(品質管理),すなわち机上の空論のQC,または口は達者でも絵に描いた餅で何もできないQCでは,品質管理の形骸化を招きかねない。

 

科学的な管理を標榜する品質管理の基本的要件と言われる“事実に基づく管理”は,KKDのみに頼らず,KKDをうまく活かし,三現主義によって真実をとらえ,空理空論ではない合理的な意思決定を行うための奥行きの深い原理・原則である。

 

(村川賢司)

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