基礎から学ぶQMSの本質 第15回 標準化(その2) (2016-5-2)
2016.05.02
前回は、標準・標準化の一般的な意味と、標準化と管理について述べた。
今回は、標準化がもたらす便益、思考・情報伝達が容易になり、信頼性・安全性が向上し、改善が促進される、について、何故そのような利便が得られるのかを明らかにしてみたいと思う。
■思考・情報伝達の場(知識の再利用)
社内標準化は、技術標準、業務手順書、作業マニュアルなど各種の標準を、組織特有の体系に統合され推進される。
標準を組織全体が活用できる体系の下に位置付けることで、組織のすべての要員がその存在を認識し、活用する。
結果として、標準が各種業務の遂行に必要な正しい判断の基準を浸透させる。
前回、標準がその時点のベストプラクティスを形式化したものと述べたが、標準の体系が明確に示されることで、組織の要員が、標準を認識し、その恩恵を享受することになる。
このことが、ベストプラクティスを集約する場としての標準の機能を再認識する契機となる。
ベストプラクティスを集約する場としての標準化の概念が明確になることで、新たな経験、教訓、ノウハウが効率良く集まり、より高度な標準開発の基盤となる。
■改善の促進(改善の基盤)
日常の業務を確実に計画通り実施するための活動である日常管理は、通常、標準化と一対で論じられる。
日常の業務を確実に計画通りに実施する日常管理の主な目的の一つは、、不必要な過ちを起こすことなく目的を達成するということである。
例えば、ゴルフにおけるルーティンの確立に似ている。
自然環境の中で行うゴルフは多くの不確定要因の影響を受ける、考慮し対応しなければならない不確定要因を確実に網羅するため、優れたプレやーは、独自のルーティンを確立し、ミスを最小限に抑えている。
ルーティンは、そのプレーヤにとってのベストプラクティスである。
一流のプレーヤーは、試合の度にコースの条件、特徴を学習し、より高度なルーティンの確立を目指している。
ところで「改善」とは何だろうか、改めて考えてみよう。
改善においては、悪い現象そのものよりもその原因系に目を向け、これを改善することが重要である。
原因系に目を向けるとは、現状の方法、材料、機器、装置、人の能力などに注目することを指す。
現状が満足すべき状態にない原因を明確にした上で、より良い状況を作り出す活動を改善という。
原因系に目を向けるとは、業務の目的達成に影響を与えるこれら各種要因(現状の方法、材料、機器、装置、人の能力など)に注目し、これらの現在の状態及び各々の相互関係を明確にし、目的達成との関連を理解することを意味している。
要因の現在の状況とは、まさに今その通り行われている姿を指す。
標準化が遅れている状況では、この今の姿が把握できない。
例えば、ゴルフのグリップの方法がその時々で異なる場合、ミスショットの原因がグリップにあるのか、構えの向きにあるのか、スウィングにあるのかわからない。
各々の条件を固定することで、要因の影響及びそれらの相互関係を探る手掛かりが得られる。
一時、プロセス改善の手法の一つとしてシックスシグマが話題になった。
シックスシグマのDMAIC(Define:定義、Measure:測定、Analyze:分析、Improve:改善、Control:管理)は良く知られているが、これらの活動の基礎が、SDOP(Standard Operation Procedure:標準作業手順)であることを忘れてはならない。
プロセスが安定して機能する状況を確立した後、DMAICが始動するのである。
シックスシグマでは、安定化したプロセスの結果に影響を与える要因を把握し、それらがアウトプットに与える影響の特性を理解した上で、実験計画法を使って最適条件を見出しプロセスの改善を図る。
■信頼性・安全性の確保(プロセスの確立)
ISO 9001が改訂され、リスクの概念が色濃く取り入れられている。
多くの人とリスクの話をするときに気付いたことだが、理由の分からない不安要素が山積みのプロセスが氾濫していることに驚いた。
プロセスを確立するとは、不安要素がすべて取り除くのに必要な設備、人、手順が確立されていることを意味する。
言い換えれば、その機能を果たすプロセスのベストプラクティスが集約されているというのが理想の姿である。
一つ一つのプロセスについてこのアプローチを徹底することで「このタイプのときにはこうする」という意味での類型の基盤ができ、知識の再利用が促進される。
各プロセスが本当の意味で確立することにより、システムの信頼性・安全性が確保できる。
■標準化と創造性(重要なことに資源を集中)
一流の人物は「型」を尊重する。定石を無視せず、これを踏まえて超越する。
先端技術分野の技術者・管理者、高度な資格を有する専門家には、標準、標準化が嫌いな人が多い。
標準化された方法・知識を使う標準化は独創性の芽を摘むという指摘があるが、それは誤解である。
日本の品質管理では、標準化、P・D・C・Aがセットになっており、継続的な改善が組み込まれている。
改善とは、思いつきによる変更の連続ではない。現状の不備を明確にして、その不備の原因系に目を向けた論理的・体系的な修正である。
このような修正が正しくできるためには、現状が定まっていなければならない。
現状が不安定な状態では、現状を正しく記述できない。
改善や改革の起点を明確にできないのである。
組織において最も求められるのは、改善や改革における創造性であり、標準化は改善の基礎のみならず、実は独創性の基盤でもある。
考えてみよう、独創性に何が必要だろうか。
重要で発展性のあるニーズや新たな必要性の発見と、それに持てる資源と能力を集中することである。
混沌からの独創性は偶然でしかない。乱雑さから独創性は生まれない。経験やベストプラクティスの形式化を通した標準化により整理された状況の中でこそ、人の視界が良くなり、より多くの新しいこと、難しいこと、重要なことを発見する。
同時に、発見した新しいこと、難しいこと、重要なことに資源を集中することで、独創性を発揮する基盤が整えられる。
(住本 守)