基礎から学ぶQMSの本質 第9回 PDCA(2016-3-21)
2016.03.22
■管理の方法論、PDCA
品質管理を少しでもかじった人は誰でもPDCAという用語を聞いたことがあるに違いない。
そう、管理・マネジメントにおいて、PDCAは基本的は方法論であり、またPDCAのサイクルを回すことが効果的・効率的であると言われている。
PとはPlan(計画)、D とはDo(実施)、CとはCheck(確認)、AとはAct(処置)という意味である。
これだけ聞けば、なあんだ、そんなの当たり前、と思うかもしれない。
管理のために、計画を立て、計画に従って実施し、結果が満足できるものかどうか確認し、満足できなければ処置をする、と言うのだから、当然と言えば当然である。
当たり前じゃないかとバカにしたくなる。
だが、なかなか深い意味がある。
PDCAを構成する4つの活動を、それぞれを2つずつに分解してみる。
これは私流であり、一つの説明の仕方である。
ちなみに、品質管理の先生方がいろいろに説明しているので、それらを比較するのも面白いだろう。
Plan P1:目的・目標の明確化
P2:目的達成のための手段・方法の決定
Do D1:実施の準備・整備
D2:(計画・指定・標準どおりの)実施
Check C1:目標達成にかかわる状況確認
C2:副作用の確認
Act A1:応急処置、影響拡大防止
A2:再発防止、未然防止
これらPDCAのそれぞれのステップで実施することが期待されている事項を以下に記してみる。
その意味を考えながらPDCAの深い思想を味わっていただければ幸いである。
■Plan
Plan(計画)においては、2つのことをする。
一つは、目的・目標の明確化(P1)、もう一つは、目的達成のための手段・方法の決定(P2)である。
Planの第一の目的・目標の明確化(P1)では、まず管理の対象についての「目的」を明確にする。
例えば、「不良を減少したい」「売上を向上したい」「画期的新製品を開発したい」などである。
次に、「管理項目」すなわち目的達成の程度を計る尺度を決める。
例えば、市場クレーム件数、工程内不良率、売上高、利益、市場導入6ヶ月の売上などである。
第三に、その管理項目に関して到達したいレベル(管理水準、目標)を定める。
これが目標ということになる。
管理の主眼は目的達成にあるから、どのような目的・目標を定めるかは極めて重要である。
まず、取り上げる目的は、根拠ある妥当なものでありたい。
通常は、上位または究極の目的の分解、あるいはそれらの目的を達成するための方策であることが多いので、「設定しようとしている目的は、結局のところ、何のために」と考えてみるとよい。
目標を決めるとき、鉛筆を舐めながらこれまでの実績やトレンドと少しの努力目標を考慮して「こんなもんだろう」と目標数値を決めることが多いが、もう少しよく考えた方がよい。
上位の目標達成への必要性、究極の目的への貢献、自分たちに対する周囲のニーズ・期待への対応、そして実現可能性などを考慮して、根拠ある妥当な目標を設定したい。
Planの第二の目的達成手段の決定(P2)では、方策・手段への展開、業務標準・作業標準の策定などを行う。
目的を達成するために最適な方法、手段、手順を明らかにして、実施する人がその最適な方法を適用できるように、作業標準、業務標準、ガイド、マニュアルなどの形にしておかなければならない。
こうした標準類は、目的を達成するための実現手段として、推奨できる内容を記述したもので、その通り実施すれば、一応は目的を達成できるように十分に検討されたものであることが期待される。
この手の標準類は、繰り返し使われることになる、目的達成手段を記述した計画書ということになる。
世の中には、目的・目標だけを示してその達成手段、実現手段を十分に考えていない計画もあるが、計画というにはいかがなものかと思う。
目的・目標だけ示して実現手段を全く考えていない計画は計画とは言えない。
夢まぼろし、白日夢とか幻想とか言ったところだろう。
もちろん、目的が与えられたとき、その目的を達成する手段が誰にとっても明確なら手段まで言う必要はないし、もし実施する人が優秀で、目的を与えられればたちどころに手段を編みだして目的を達成できるなら、やはり目的達成手段まで明らかにしてあげる必要はない。
だが、いずれにしろ、目的達成手段はなければいけないし、実施者にとって、何らかの形で明らかになっていなければならない。
PDCAの派生として“SDCA”ということもいわれる。“S”とは“Standard”(標準)ということである。
PlanのうちのP1(目的・目標)が与えられ、P2(目的達成手段)がすでに明確になっていて、標準(standard)として確立されている状況での管理の方法論の説明によく使われる。
日常業務の管理、とくに維持活動では、日常業務の目的達成の手段としての作業標準・手順が確立しており、あらためて「何のために(P1)どのようにするか(P2)」について沈思黙考する必要がなく、とりあえずはそれを遵守(D)することから始まるような状況を想定してのことである。
前々回の最後の方で“management”と“control”を話題にしたが、その“control”のための管理のサイクルと言ってもよいだろう。
すなわち、標準が与えられた状況での目的達成活動のモデルとなる。
■Do
Do(実施)においては、まず実施の準備・整備(D1)、すわなちP2(目的達成のための手段・方法の決定)に従って、設備・機器、作業環境を整備し、実施者の能力の確保など、実施の準備・整備を行う。
実施者に対する実行手順の教育・訓練は、目的達成に必要なことを現実に実施できるようにしておくためである。
教えればよいのだが、実はこれがなかなか難しい。
他人に何かを伝えて意図どおりに実施してもらうことの難しさは、誰でも多かれ少なかれ経験していることだろう。
人は自分の経験してきたことに照らして、他人に言われたことを理解しようとする。
言った人とそれを聞く人とで経験したことが違えば、同じ言葉の意味するところが微妙に異なってしまう。
だから、なるべく現場で現物を使って教えること、了解した(と思っている)内容を実施者の言葉で言ってもらうことなどが対応策になる。
Doでは次に、計画・指定・標準どおりの実施(D2)、すなわち、実施者がPlan(計画)で定めた実行手順どおりに実施する。
実行手順どおり実施しても良い結果が出ない(つまり実行手順が悪い)ときに、自分で手順を変えて良い結果を出すことは良いことだろうか。
管理者はその実施者をどのように扱うべきだろうか。
手順どおり実施しても良い結果が出ないので自分で工夫して良い結果を出すことは良いことのように思える。
しかし、私はそうは思わない。
ある電気製品の製造ラインの調整工程でこんなことがあった。
ある作業者が産休に入るので、交代することになった。
なかなか難しい調整で、前の作業者は優秀だった。
代わりに入れた人もまた優秀だった。
そうしたらなんと、調整不良が急増したのである。
不良急増の原因を調べてみると、代わりにラインに入った人は作業標準をきちんと守っていた。
次に、産休で抜けた作業者が標準を守っていたかどうかを調べたら、何と守っていなかった。
作業標準通りに実施すると正しく調整できないので、自分で工夫していたのだ。
これに対し、製造課長は、調整手順の誤りを正して調整した産休に入った作業者を誉めようとした。
私は、叱るべきと言った。
悪法も法である。
ルールを破ることは良くない。
しかし破らなければ良い結果を出せなかったのである。
すぐに申し出るべきである。
そして不備のあるルールを正したうえで、新たなルールに従って実施すべきである。
さもないと、さまざまな業務実施上の良い知恵が、組織全体で保有すべき知識として蓄積されない。
結果さえ出せれば良いというものではない。
その基盤としての良いプロセスを明日のために獲得しておくべきである。
■Check
Check(確認)においては、当初の目標の確認とともに、いわゆる副作用、すなわち意図していなかった望ましくないことが起きていないかどうかを調べることも大切である。
Check において留意すべきことは「事実に基づく」確認を心がけることである。
「……となっているはずです」「……と聞いています」では不十分である。
ことが思いどおりに進むものなら最初から確認など考える必要はない。
何かあるかもしれないと思って調べるのだから事実に基づかない限り意味がない。
アメリカでは“Check”の代わりに“Study”(検討、研究)を使い“PDSAサイクル”ということもある。
“Check”と言われたら、ただ見ただけでオシマイという印象を与え、確認結果に応じた追加調査・分析などまでは含まれないと誤解されることを恐れ“Check”より格好よい“Study”を使うというわけである。
確認しただけで他に何もしないというと、確かに少々バカげているように思える。
だが、なぜ(何のために)確認するのか、あるいは情報を得るのかを考えるよい契機になる。
私たちは、折にふれ情報を収集する。
コトがどうなっているか確認する。
業務の中間段階でレビューをする。
最終確認もする。
何のために行っているのだろう。
もちろん何らかのアクション(対応行動)を取るためである。
次にすべきことが、見た結果によって変わると思っているから見ているのである。
アクションを伴わない情報収集はムダであり、何の対応もしないのなら確認の必要はない。
こう考えれば、Checkしてオシマイということはあり得ない。
ここでのCheck、確認とは、次にどのような対応をすべきかの判断材料となる知見を得ること、すなわち必要に応じて行う追加調査・分析も含んでいる。
さて、長くなったので、続きは次回とする。
まさに、Checkしたあとに取るべき処置(Act)について考える。
(飯塚悦功)