基礎から学ぶQMSの本質 第7回 「管理」とは何か(2016-3-7)
2016.03.08
「基礎から学ぶQMSの本質」の語り始めとして「品質」について考察してきたが、今回から「管理」「マネジメント」について考えてみたい。
まずは「管理」そのものの意味から始めよう。
■管理≠締め付け
「管理」という用語からどのようなことを思い浮かべるだろうか。
私は、全学連世代だが(その世代であるということだけで、全学連の闘士ではありません。念のため)、
「管理社会」「管理強化」などの用語が持つ語感は、監視、締め付け、統制、規制などであった。
岩波の広辞苑第六版で管理の意味を調べてみると次のように書いてある。
①管轄し処理すること。良い状態を保つように処置すること。とりしきること。
「健康―」「品質―」
②財産の保存・利用・改良を計ること。→管理行為。
③事務を経営し、物的設備の維持・管轄をなすこと。「公園を―する」
「管理」の基本的な意味は①ということになる。
「管轄し処理する」「とりしきる」と「良い状態を保つように処置する」の間には、若干のニュアンスの違いを感ずる。
辞書には、その用語が使われる文脈から読み取れる意味が記されているので、「管理」にも少しは幅広い意味があることが分かる。
同じ読みの「監理」を調べてみると、「監督・監理すること。とりしまり」とあり、こちらは明らかに「統制」のイメージが強い。
品質マネジメントにおいて、「管理」「マネジメント」は、「目的を継続的に効率よく達成するためのすべての活動」を意味する。
品質管理は、管理、マネジメントを、締め付け、取り締まりというような意味とは考えてこなかったのである。
実は、「管理」という用語に用いている文字から、目的達成という意味が含まれているとも言える。
管理を「クダカン」、監理を「サラカン」と言ってその意味を区別することがあるのをご存じだろうか。
多くの場合、安全管理、衛生管理、健康管理、情報管理、品質管理、労務管理、在庫管理などのように「管理」だが、建設では「設計監理 ○○設計事務所」と使うし、また行政上の監督・規制の意味で「監理」を使う。
「クダカン」とは、「管」が「くだ」「パイプ」を意味することから来ている。
「サラカン」とは、「監」の脚の部分の「皿」から来ている。
「監」は、その字の構成から「人が盆にはった水を上から見ている」という意味で、まさに「監視」「監督」が主意となる。
「管」は「竹」+「官」で構成される。「官」は同じ音の「貫」の代わりであり、「竹を貫く」ことから、その結果できる「くだ」「パイプ」が主な意味となる。
こじつけと言われそうだが、「管理」に目的達成の意味が含まれるのは、竹の節を貫いて(目的を)貫徹するというのが原意だからと言えなくもない。
■管理=目的達成のための活動
管理の意味のうち最も重要なことは「目的達成」である。目的達成のために監視、統制、規制をすることがあるかもしれないが、それはあくまでも目的をうまく達成するための理にかなった手段としてのことである。
「管理強化反対」と叫ぶ運動はよくあるが、管理が目的達成のための活動であるなら実に妙な言葉となる。「目的達成反対」ということになるのだから。
管理の定義に含まれる重要な側面として「継続性」と「効率性」もある。
「継続的」という用語が含まれるのは、たった一度だけの目的達成のために管理は必要ないと示唆しているからである。
ここで注意したいのは継続ということの意味である。
私たちは日常の行動において、全く同じ目的を全く同じ手段で達成することはあり得ない。
全く同じ状況が繰り返されることがありえないからである。
しかし、全く同じではなくても似てはいる。
管理とは、何らかの意味で「繰り返し」があるときに必要となる活動と言える。
「効率性」を問題にしているのは、目的達成のために、どんなにお金がかかっても、どんなに時間がかかってもよいとはいえないということを意味している。
なるべく少ない投入資源で目的を達成すべきである。
私たちが行う活動は多様であるが、何らかの目的を達成するために行っていると考えることができる。
その目的達成行動を「管理」と呼び、これを合理的に進めようというのが、品質マネジメントにおける「管理」の考え方の基本となる。
これから10回近く続く「管理談義」「マネジメント談義」は、あらゆる場面で役に立つ概念であり方法論である。
■管理の対象
管理、マネジメントは目的達成のためのすべての活動を意味するので、その対象は広範なものとなる。
いま私たちは品質を問題にしているが、品質に限らず、あらゆる対象、側面にかかわる目的達成行動における行動原理が、管理、マネジメントにかかわる重要概念、方法論から導かれる。
管理の基本は目的達成であるので、良い管理のためには“まともな”目的を定めることが何よりも重要となる。
それでは、その妥当な目的をどう定めればよいのだろうか。
いま考えている主題に関わるニーズ・期待、ミッション・役割、究極の目的・目標にどう貢献するかという考察が基礎となろう。
さらに、目的の設定においては「重点志向」を心がけるべきである。
取り組むべき課題はいつでも多いが、重要なものは少ししかない。
これをパレートの法則という。パレートとは人の名前である。
V. Pareto は、イタリアの社会学者・経済学者で、所得分布に関して、全体の2割が所得全体の8割を占めるという法則を指摘している。
品質マネジメントにおいて取り組むべき課題についても“vital few, trivial many”(重要なものは少なく、つまらないものが多い)という法則が成立しているので、品質にかかわる目的達成においても重要なものから取り組むべきである。
■“management”と“control”
少し前まで、品質マネジメントは、QC(Quality Control)とかTQC(Total Quality Control)と呼ばれていた。
日本では“control”を「管理」と訳し、管理の意味を広く解釈していた。
“control”の語源は“counter+role”であり「基準と対照する」という意味である。そこには、基準、計画を設定するという行為は含まれない。
それに対し“management”には、目的の設定や目的達成手段の指定などの計画行為も含まれている。
ISO 9000シリーズ規格の国際的普及とともに、品質管理にかかわる様々の概念が急速に国際化した。
それに伴い“Quality Control”の意味が「品質管理活動要素及び技法」というような程度であって、日本で実践されてきた「品質管理」の意味を正しく伝える用語は“Quality Management”であることが明白になってきた。
わが国においては、TQCと呼んでいた時代から「管理」という用語を広義に理解していたのである。
英語の“Quality Management”という用語が普及するなか、これを日本語にどう訳すのが適切であろうか。
「品質管理」のままでいくか、それとも「品質経営」とするか。
日本語での「管理」には“control”以上の“management”の意味が含まれるとはいえ、「品質管理」と言えば、国際的には狭い意味の“quality control”を意味すると誤解されかねない。
かと言って「品質経営」というのもおこがましい気がする。
そこで選択された表現が「品質マネジメント」であった。
さて、次回は「技術」との関係において、「管理」の深遠なる意味を考察してみたい。
(飯塚悦功)